アカデミーで最初に友達になったのはジャックだったよね
「うわあぁ! スーたんっていうんですか? かわいいなぁ。ヒヨコ様とはまた違うかわいさですね」
アカデミーに着くと、前の席のジャックが瞳をキラキラ輝かせながら尋ねてきた。
最後のアカデミーだからかなり早めに来たんだけど……
ジャックは毎朝こんなに早く来ていたのかな?
「ねぇ、ジャックはいつも何時にアカデミーに来ているの?」
「え? 日の出前ですよ」
「日の出前!?」
「はい! 学長と毎朝ヒヨコ様の愛らしさについて話しているんですっ! それから学長室で日の出を見ながらお茶を飲むんです」
「そうだったの……」
ベリアルも今日でアカデミーには来なくなるから、ジャックも学長も寂しくなるだろうな。
「ペリドット様……そんな悲しそうな顔をしないでください。確かにもう会えなくなるけど……でも、離れていても友達ですから」
「ジャック……」
「ヒヨコ様が教えてくれたんです。一緒にいるだけが友達じゃないって。離れていても……オレ……絶対に忘れません」
「……うん。わたしも……絶対に忘れないよ」
「明日の『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』は一緒に観戦できないんですよね」
「うん。四大国の王様達が一緒に観戦しようって言ってくれたの」
「今日が最後……なんですね」
「……うん」
「思い出します。初めてペリドット様がアカデミーに来た日の事を……最初はすごい人が来たなって思って。だってあの公女から領地を奪ったりして……色々ありましたね。皆で毎日ピクニックをしたり、プリンを作ったり。オレはあのプリンのおかげで婚約できたんです」
「そうだったね。毎日皆で勉強して、無人島でバーベキューもしたよね」
「はい! オレ……泣きません。笑ってお別れするって決めたから」
「……うん、わたしもヒヨコちゃんと約束したの。今日は笑顔で過ごそうって」
「ペリドット様?」
ジャックが真剣な顔になった?
「うん? どうかした?」
「皆が来る前に……」
「ん?」
「本当にありがとうございました。聖女様が命がけで守ってくれたこの世界を大切にしていきます。ヒヨコ様が言った通りに、必要最低限の物を大切に使いながら暮らしていきます。豊かな暮らしを望めばきりがありません。さらに豊かにする為に必要以上に木を伐ったり川を汚したり……領地を広げる為に戦をするなんて絶対にダメな事です」
「ジャック……」
「オレ……立派な大人になります。ヒヨコ様やペリドット様が安心して暮らせるように。もうオレ達を守る為に傷つかないように」
「……ありがとう」
「お礼を言うのはオレの方です。いつか……オレのプリン屋にプリンを食べに来てください」
「ジャック……」
「神様に……言われたんですか?」
「……え?」
「陛下の婚約者の誘拐事件を解決するまでしかリコリス王国にいたらダメだって神様に言われたんですか?」
「ジャック……?」
「ペリドット様の身体は神様が与えてくれたものだから……」
「……」
なんて言ったらいいか分からないよ。
「あ、ごめんなさい。返事なんてできないですよね。神様の事だし……でも……いつか、こっそり変装して……食べに来てください。神様に見つからないように……」
「……ジャック」
ダメだ。
泣かないって決めていたのに。
涙が止まらないよ。
「オレにとっての神様は……ペリドット様です」
「……え?」
「困った時に進むべき道を照らしてくれる神様……どうか、幸せに暮らしてください。もう誰かの犠牲になんてならないでください」
ジャックの瞳からも涙が溢れている。
「ジャック……ありがとう。わたし……ジャックに出会えて本当に幸せだよ」
「オレも幸せです。えへへ……笑いましょう? オレも泣いちゃったけど……今からは笑いましょう?」
「……うん」
アカデミーに入学した時は、お別れがこんなに辛くなるなんて思いもしなかったよ。
やっぱりわたしは……人間が大好きだ。
これからは離れた場所から見守り続けるからね。
百年後も千年後もずっとずっと……




