王族は、どす黒い感情を笑顔の下に隠して生きているって本当かな?
「ならばわたしもお供させていただけませんか?」
「え? 公爵も買い物をしたいの?」
「末の孫のアンジェリカもココ様と過ごしてばかりで、わたしの相手をしてくれなくて寂しかったのです」
うーん。
お土産を買ったあとにベリアルと二人で楽しく食べ歩きをしようと思っていたんだけど……
「わたしは……なんて言うか……お行儀が悪いって言われそうだけど、おいしい物を食べ歩きしたいなぁって……」
公爵は貴族だから食べ歩きなんてしないだろうし。
「それは楽しそうですね。ぜひご一緒させてください」
「え? 食べ歩きだよ? お行儀が悪いのに公爵は気にならないの?」
わたしはするけどね。
お行儀なんて気にしないよ?
ベリアルとおいしい物が食べたいんだから。
絶対かわいいよ!
今はお腹がパンパンだけど五分もすれば元通りだからね。
不思議だよ。
「確かに食べ歩きをした事はありませんが、ペリドット様は陛下の政策の露店商市場の場所はご存知なのでしょうか?」
「……さすが公爵だね。わたしが行きたい場所が分かるなんて」
「わたしも視察で行っただけで……ですが皆楽しそうにしていました。先々代の王はそれは素晴らしい王でした。『幸せは民と共に感じたい』という言葉に多くの者が涙しました。ですが……先王は……」
「うん。分かるよ。話は聞いているからね」
ルゥの父親だよね。
酷い人間だったみたいだね。
「そうでしたか。贅の限りをつくし、民を人とも思わないような……そのような王でした。このままではリコリス王国は破滅すると思っていた矢先、陛下が現れました。陛下は先々代のような慈悲深さ、そして国を導く力をお持ちです」
「うん。わたしも、お兄様は立派な王様だと思うよ? でも……まだ十五歳の男の子だっていうのも事実だよ? あまりに責任の重い立場で……心配だよ」
「……王になるという事は、孤独と絶望の板挟みになるという事です。常に心の休まる暇は無く、すり寄ってくる愚か者共は明日には敵になっているのです。それが王です。親兄弟、子にまでも心を許してはならないのです。そして、その『どす黒い感情』を笑顔の下に隠し生き続けるのです」
「誰も信じてはいけないっていう事?」
そんなの辛過ぎるよ。
「少なくとも、わたしがアルストロメリア王族だった頃はそうでした。死が常にわたしを飲み込もうとしていました」
「……今は? 今も心から笑う事ができないのかな?」
「え? あぁ……そうかも……しれません。自分でも思うのです。わたしの笑顔には心がありません。かわいいアンジェリカにも……心から笑いかけた事は無いのかも……」
「あまりにも辛過ぎて心が疲れて弱っているんだね。わたしもそうなんだよ? 辛い事があり過ぎて、突然泣いたり苦しくなったり……でもね? 家族の皆が支えてくれるの。それで……やっと前に進もうって思えるようになったんだ」
少しずつゆっくり前に進むんだ。
急ぎ過ぎるとまた心が辛くなっちゃうから。
ゆっくりゆっくり進むわたしの隣には、いつも大切な家族がいてくれるから……心強いんだ。