きちんと話して前に進みたいの(1)
「あなたには、わたしが誰だか分かる?」
全部話さないと……
わたしがオケアノスだって話さないと。
「……魔王の娘で聖女だった。でも今は天族……」
フワフワの魔族が大粒の涙を流しながら答えてくれる。
でも、それは今欲しい答えじゃないんだよ。
「そうだよ。……わたしが誰だか分かる?」
「……え? だから……魔王の娘で……」
「本当に分からない?」
「……?」
「『あの子』って言えば分かるかな?」
「あの子……? なぜお前が『あの子』の事を知っている?」
「それは……わたしが『あの子』だからだよ」
「そんな……まさか……あり得ない」
「本当に分からない?」
「……お前が『あの子』? 『あの子』は……数千年前に……死んだ。人間に傷つけられ、魔素に苦しめられ……見ていられなかった。オレのかわいい『あの子』……今でも変わらず愛している」
「あなたが愛した『あの子』はわたしの魂なの」
「魂……?」
「天族のわたしの身体には魂が無くて……その身体に吉田のおじいちゃん……数代前の神様が『あの子』の魂を入れ込んだの」
「お前の魂が……『あの子』?」
「うん。『あの子』の名は『オケアノス』。オケアノスの魂はわたしの中と、バニラちゃんの中にそれぞれ入っているの。そしてオケアノスが創り出した『心』はベリアルになった……」
「……? よく分からない……魂? そんな事があるのか?」
「ゆっくり話すよ。今まで何があったのか……」
「ゆっくり……?」
「うん。だって……時間は、いっぱいあるんだから」
「時間……?」
「数千年前……オケアノスは苦しみの中で亡くなった。それからあなたはずっとずっとこの世界の全てを恨んできた。でも、今はわたしもあなたもここにいるんだよ?」
「……それは……そうだが……」
「でも、どうして人間じゃなくて弱い魔族を食べるべきだって言ったの?」
「このままでは魔族は人間のように弱くなってしまう。魔族は人間よりも強い立ち位置にいなければいけないんだ」
「……? どうして?」
「それが、この世界の『理』だからだ」
「『理』……そうだね。この世界は魔族が人間を虐げる為に創られた。あなたはそれを守り続けようとしているんだね」
「オレは……この世界を守らなければいけないんだ。甘い事を言っている他の『初めからいた者』のやり方ではこの世界は滅亡してしまう。『あの子』が暮らしたこの世界を守らなければ……ずっとそう思ってきた」
「……うん。あなたはあなたのやり方で、この世界を守ろうとしてきたんだね。オケアノスが生きたこの世界を……」
「だが……ずっと迷っていた。魔族は人間を食べる生き物だ。それなのに魔族を食べるなんて許されるのか? それに……オレ自体……果物の方が好きなんだ。最近は……クッキーも……おいしい……」
「ふふ。味覚は変わるものだからね。それと……あなたは真面目なんだね」
「……え? オレが真面目?」
フワフワの魔族が驚いたように呟いたね。




