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伝えないといけない事

「あ……いや、あの……はじめまして。わたしは……」


 オケアノスだって言ったら信じてくれるかな?

 それにしても、この魔族は超絶かわいいね。


「知っている。お前は神の娘……」


「え? あ、色々知っているのかな? うん。わたしはペルセポネだよ」


「お前を殺し、天族と戦を始めるんだ! 『あの子』を捨てた天族を皆殺しにしてやる! そして魔族は魔族を喰らいさらに強くなる!」


 ……!?

 怖い事を言っているはずなのに、かわい過ぎて堪らないよっ!

 頬擦りをしながら吸いつきたい……

 どんな匂いがするのかを確かめたいよっ!


「ぺるみ様……この見た目に騙されてはいけません! かわいくてもこの殺意……危険です!」


 魚族長は、そう言うけど……


(ぷはっ!)


 吉田のおじいちゃん!?

 まだ聞いていたんだね?


(だって、だって! クラゲが赤くなったんだろ? 危険だからなぁ)


 もう!

 おもしろがっているよね?

 だって、このフワフワの魔族……

 戦闘力ゼロだよ?


(ぷはっ! だってその魔族は赤ん坊だった頃のオケアノスの抱き枕的な存在だからなぁ)


 赤ちゃんの抱き枕?

 一番安全な魔族っていう事だよね。


(あの時……慌ててこの世界を創ったんだ。そして、たくさんの生き物も創り出した。魚や鳥や虫。弱い存在の人間。人間を食べる魔族。そして魔族は数種類の容姿の奴らを創り出した。でも、皆オケアノスを愛していた)


 吉田のおじいちゃんの心の深い部分が無意識にそうさせたんだろうね。


(そうかもしれねぇなぁ。じいちゃんは……あまりに愚かで……オケアノスを捨てちまった。でも……本当は……愛してたんだ)


 うん。

 分かるよ。

 おじいちゃんはオケアノスを心から愛しているよね。

 

(ぺるぺる……)


 分かり合えるまで、この魔族と話してみるよ。

 わたしはオケアノスだから。

 オケアノスを愛してくれた『初めからいた者』の皆に会って感謝の気持ちを伝えるって決めたの。

 

(そうか……ぺるぺるらしくやってみろ)


 うん!

 信じてくれてありがとう。

 わたしらしくやってみるよ。

 よし!

 頑張るよ!


「あのね、ここにいる魚族長はわたしが赤ちゃんの時からずっと見守ってくれているの」


「……赤ん坊の頃から?」


「うん。まだわたしはその頃人間で……それでも魚族長はわたしを愛してくれていたの。もちろん天族に戻った今でも」


「愛……?」


「あなたは……?」


「え……?」


「心から愛している存在はいないの?」


「……! それは……」


「わたしを攻撃していいよ」


「……え?」


「ぺるみ様! いけません!」


 魚族長が慌てながら叫んだけど……


「大丈夫。これは前に進む為には避けられないの」


「ですが……!」


「大丈夫だから……わたしを信じて?」


「ぺるみ様……」


 魚族長がすごく心配そうにわたしを見つめている。

 でも、こうしないと前に進めないと思うんだよ。

 

 背が小さい魔族だから座ってあげないとダメだよね?


「本当にいいんだな? 天族め……! 『あの子』を苦しめた天族め!」


 魚の背中に立ちながら一生懸命つま先立ちをしているフワフワの魔族が、かわいいおててを振り上げる。


 あ……

 思い切り殴ったみたいだけど……

 全然痛くないよ。

 痛がった方がいいのかな?

 

 あれ?

 少し離れた海上に魔族がいる?

 あの魔族は確か『どこの傘下にも入っていない魔族』だよね。

 かなり大きい魚に乗っているみたいだけど……

 どうして、ここにいるの?

 

「赦さない! 赦さないぞ! 『あの子』を捨てた天族め!」


 フワフワの魔族が何度も殴ってきたね。


 でも……『あの子』?

 この魔族……

 オケアノスが亡くなって数千年経った今でも、変わらず愛し続けてくれているのかな?


 何度も何度も殴られて……

 でも、全然痛くなんてないけど……

 でも……

 でも……

 心がすごく痛い……


 涙が溢れてきちゃったよ。


「ぺるみ様……!? 大丈夫ですか?」


 明らかに痛くないはずなのに、突然泣き始めたから魚族長が慌てている。


「痛くて涙が出てきたか! どうだ! 参ったか! 天族め!」


「……うん。痛いよ……すごく痛いよ……わたしの負けだよ」


「そうだ! オレの勝ちだ! 『あの子』……オレは天族に勝ったぞ! 勝ったんだ!」


 フワフワの魔族の瞳から大粒の涙がこぼれている。


「……ぺるみ様」


 魚族長が辛そうな顔をしながら呟いた。

 

 このフワフワの魔族はオケアノスが亡くなってから数千年間、ずっとずっと苦しんできたんだ。

 わたしも真剣に向き合わないと。


「わたしの負けだから……話を聞いて欲しいの」


 全部話さないと。

 わたしがオケアノスだって話さないと。

 今でもオケアノスを愛し続けてくれているこの魔族に『オケアノスは幸せになれたんだよ』って教えないといけないんだよ。

 

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