大切な人の悲しい顔は見たくないよね
もう一度、防御膜を力いっぱい殴る。
う……
痛い……
やっぱり骨が折れているみたいだ。
でも、さっきより膜のヒビが大きくなってきたよ。
「あと一回で割れるかも!」
よし。
もう一回……
「ペルセポネ……もうダメだ。手から血が……」
え?
ハデスの声?
膜のヒビ割れた所から聞こえてきた?
すごく心配そうな声だ。
でも姿は見えないよ?
もしかして見えないだけで膜の外にずっといてくれたの?
でも、もしそうならハデスがこんな事をしようとする魔族を黙って見ているはずがないよ。
それに、魔族達がおばあちゃんと吉田のおじいちゃんが準備してくれたこの無人島の存在を簡単に知れるはずがない。
だとしたら……
おばあちゃんもハデスもこうなる事を知っていた?
そうだよ。
魔族が神力を止められるはずがないんだ。
じゃあ、やっぱりおばあちゃん達は知っていた?
いや……
今は、そんな事はどうでもいい。
わたしは皆を信じているから。
疑ったり憎んだりなんてしないんだよ!
大切な家族なんだから!
「お願い……話を聞いて? わたしは……オケアノスなの。あなた達が愛してくれたオケアノスなの」
どこの傘下にも入っていない魔族は遥か昔から同種内で少数しか子を作らなかったらしい。
それに、傘下に入っていなかったから無理矢理参戦させられなくて、ゲイザー族みたいに捨て駒にもされなかったはず。
もしかしたら吉田のおじいちゃんが創った魔族も生きているかも。
だとしたら、きっとオケアノスを愛して育ててくれていたはずだよ。
……あれ?
一瞬空気が振動した?
「……? え?」
砂浜でバーベキューの準備をしているクラスの皆の動きが止まっている?
この感じ……
吉田のおじいちゃん?
時を止めたの?
「ぺるぺる……」
吉田のおじいちゃんが涙を流しながら海を歩いてきた?
あ……
いつの間にか膜が消えている。
「おじいちゃん……? どうして泣いているの?」
すごく辛そうだよ?
「全部……じいちゃんのせいだ。どこの傘下にも入ってねぇ魔族が苦しんでるのも……今、ぺるぺるが血まみれなのも……」
「……おじいちゃん」
「すまねぇ。こんな事に巻き込んで……本当にすまねぇ」
おじいちゃんが、わたしの血まみれの手を見つめながら謝っているけど……
「泣かないで……手の痛みより……おじいちゃんの泣き顔を見ている方が胸が痛いよ」
「ぺるぺる……すまねぇ……」
おじいちゃんが座り込んだ。
海水に入るくらい頭を下げている。
身体が小さく震えているのが分かる。
おじいちゃんの辛い気持ちが伝わってきて、わたしまで苦しくなってくる。
「ペルセポネ……大丈夫か? すまない。まさかこんな事になるなんて……手を見せてみろ。あぁ……今すぐシームルグを……」
ハデスが心配そうに歩いてきたね。
「待て。オレが治す。オレにも治癒の力があるからなぁ」
おばあちゃんが悲しそうな顔をしながら血まみれのわたしの手を握っている。
「……おばあちゃん。一体何が起こっていたの?」
「ああ。傷を治してから話すからなぁ。もう少し待て。……? これは……」
「おばあちゃん? どうかしたの?」
「すごい神力だ」
「え?」
「見てみろ。ぺるみの血が海に垂れた所を」
「……! 何……これ……」
海水がキラキラ輝いている?
まさか、わたしの血のせいでこうなったの?




