楽しいとあっという間に時が過ぎるよね
「お別れが……悲しくなっちゃったの……うぅ……」
まだ三週間は一緒にいられるんだから泣かなくてもいいのに……
涙がどんどん溢れてくるよ。
「そうか。オレだって皆に会えなくなるのは寂しいぞ? だけどな、一緒にいるだけが友達じゃないだろ? 離れてたってオレは皆の友達だ! ヨータとも離れてるけど友達だし、心で……繋がってるからな」
そう言いながらベリアルも泣いているよ。
つぶらな瞳から涙がポロポロ落ちてきている。
「よし! 皆が笑顔になれるようにオレが踊ってやるぞ! もうすぐ開催される『全種族ヒヨコ様アイドル化計画』で練習してる踊りを見て元気になってくれ! いくぞ!」
え?
鼻血を出すからって、わたしには絶対に見せてくれないあの踊りを今見られるの?
クラスの皆も涙を拭いて手拍子を始めたね。
うわあぁ!
かわいい……
お尻をフリフリしながら歌って踊っている。
時々間違えて恥ずかしそうにしている顔が堪らないよ。
ここは……
ベリアルのライブ会場だよっ!
ただの木陰のはずなのにキラキラに輝くライブ会場になっているよっ!
って……
本当にキラキラしているよ?
あぁ……
ベリアルのかわいさに、わたしの神力が溢れ出しているんだ。
「ハアハア……どうだった?」
ベリアルが皆に尋ねているね。
でも、あまりのかわいさに皆が無言でベリアルを見つめている。
「変だったか? どうしよう……もうすぐ本番なのに」
ベリアルが悲しそうな顔になっちゃったよ。
「違うの! あまりにかわい過ぎて何も話せなくなっちゃったんだよ! 今の歌と踊りを脳内に焼きつけて何度も再生しているんだよっ! くうぅ! 堪らないね、こりゃ! 今日は興奮して眠れそうにないよ!」
「うわ……気持ち悪……何を言ってるのかもさっぱり分からないし」
ベリアルが呆れ顔になったね。
でも、軽蔑のつぶらな瞳も最高に気持ちいいよ。
「わたし……もうダメ……」
「ああ……胸が苦しい……」
何人か倒れた!?
でも、恍惚の表情だから問題ないね。
ベリアルのかわいさにやられたんだ。
わたしでも意識を保つのが必死なくらいだからね。
人間には刺激が強過ぎたみたいだよ。
「これは……超絶かわいい衣装を身につけた本番当日には死者が出るかもしれないね。ヒヨコちゃんのかわいさは殺傷能力があるのかも……」
「はあ!? そんな事を外で言うなよ!? 恥ずかしいだろ! 皆は熱中症で倒れたんだ!」
「上手いっ! 『ヒヨコちゃんに熱中症です』って!? くうぅ! 座布団一枚っ!」
「は? 意味が分からないぞ!? とにかく……うわあぁ!」
倒れていた皆がゾンビみたいに敷物を這ってベリアルを掴まえた!?
「ぐふふ。かわいい。ぐふふ。かわいい」
「オレも頬擦りさせてください。くうぅ! 堪らないっ!」
「クンクン。この匂いはラザニア……ラザニア味のヒヨコ様……」
「うわあぁ! 熱中症じゃなくてただの変態だったあぁぁぁ!」
ベリアルが揉みくちゃにされながら叫んでいるけど……
うわ……
いつもわたしがベリアルにしている事をクラスの皆がやっている。
客観的に見るとこんな感じなんだね。
正直気持ち悪いよ……
でも……
「わたしも交ぜて! ヒヨコちゃんのツインテールの間の匂いを嗅がせてっ!」
「うわあぁ! やめろぉ! ここには変態しかいないのかぁぁぁあ!」
こうして、あっという間に時は過ぎ……
アカデミーで過ごすのも残り三日になった。




