嵐の前の静けさ?
人間のアカデミーに通うのもあと三週間。
普通科はテストが終わったから、これからは魔術科の平民の皆との魔術の練習に集中できそうだね。
魔術科は来週『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』の出場者選抜試験らしいから最後の仕上げに入らないと。
今のままでも充分、出場者には選ばれるだろうけど念には念を……ね。
「ペリドット様!」
魔術科の広場に着くと、マリーちゃんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「やっとテストが終わったよ。クラスの皆も手応えがあったらしいからきっと最下位から抜け出せるよ」
マリーちゃんも、ずっと自分の事みたいに心配してくれていたんだよね。
「そうですか。皆さんとても頑張っていたから安心しました」
「えへへ。そうだね。次は魔術科の番だね。皆の調子はどうかな?」
「はい! わたしとジャックは卒業後は国に帰るから辞退したけど、他のジャック達は今日もすごく頑張っていました。ジャックは砂に色を付けて風で舞わせるのが上手くなったし、ジャックは種を植えて二十分くらいで花を咲かせられるようになりました。火属性と水属性のジャック達はヒヨコ様を魔術で創れるようになって、今はあの超絶かわいい姿をどう表現するかで悩んでいます。ぐふふ」
マリーちゃんもすっかり変態になったね。
いつの間にか『ぐふふ』って笑うようになっているし。
それにしても、男の子達の名前は皆『ジャック』だけど、一か月間一緒にいるから区別がつくようになったよ。
「そうなんだよね。ヒヨコちゃんのかわいさは表現するのが難しいんだよね」
「とくにあのツインテールの角度が難しいらしくて」
「分かる分かるっ! ピンと立っているわけじゃなくてフリフリ揺れたりするんだよっ!」
「そうなんですよっ! それに、あのつぶらな瞳……愛らしいクチバシ……くうぅ! 堪りませんっ!」
マリーちゃん……
ついに『くうぅ! 』まで言い始めたよ。
この一か月で完全な、ど変態になったんだね。
ベリアルは今、少し離れた場所でジャック達に魔術を教えているんだけど……
ベリアルを見つめるマリーちゃんの瞳が生ぬるいよ。
あ、ベリアルがピクッてした。
マリーちゃんの生ぬるい視線を感じたんだね。
こっちを見て、この世の終わりみたいな顔をしているよ。
変態が増えて絶望したあの表情……
ぐふふ。
かわいい。
ぐふふ。
かわいい。
それにしても穏やかだなぁ。
アカデミー内では身分差別が減ってきているみたいだし、どこの傘下にも入らない魔族もおとなしくしている。
このまま残りの三週間を楽しく過ごせたら嬉しいなぁ。
でも……
嵐の前の静けさ……
なんて事はないよね?




