ベリス王子との駆け引きはこれからも続きそうだね(3)
「……像を造るだけなら問題ないよ。じっとしているだけでいいんだよね? でも、一つ条件があるの」
これだけは譲れないよ!
「はい? なんでしょう」
ベリス王子がいつもの作り笑顔で尋ねてきたね。
「ベリアルを抱っこしている像にして欲しいのっ!」
ぐふふ。
こっそり吸ったり頬擦りしたり……
堪らないね。
興奮してきたよ。
「ははは。なるほど。それなら像を造る間、ずっとベリアルを抱っこしていられますからね。分かりました。そうしましょう」
「ぐふふ。あ、でもテストで満点を取らないとベリアルのガラス細工はもらえないのか……でも、負けてもベリアルをずっと抱っこできる……堪らないね。勝っても負けても幸せだよ」
「ははは。ぺるみ様ならきっと全科目満点を取れますよ。では、わたしはおばあ様にぬいぐるみの服の作り方を軽く訊いてきます」
ベリス王子がおばあちゃんに話しかけているね。
いつの間にあんなに仲良くなったんだろう?
ウェルカムフルーツを作った時かな?
ベリス王子はオケアノスの子孫なわけだし、おばあちゃんも頼られて嬉しそうだよ。
それにしても、結局ベリス王子と勝負をする事になったね。
なんだか騙されている感じもするけど……
ベリアルのガラス細工か……
絶対に欲しいっ!
確かに群馬で学校に通っていたわたしなら満点を取るのは簡単なんだけど……
問題は『生活』のテストなんだよね。
この世界の事はルゥの頃にハデスから色々教わって知ってはいるんだけど、貴族と平民の関係については習っていなくて。
身分制度とか古くからある人間の風習とかはよく分からないんだよね。
ベリス王子は昔から人間相手に商売をしているからその辺りに詳しそうだし。
はぁ……
この勝負、勝てる気がしない。
でも、ベリアルのガラス細工は欲しいし……
よし!
今からもう一度『生活』を勉強しなおそう。
範囲自体は少ないから集中すれば丸暗記できるはずだよ!
……たぶん。
(ぺるみ様。それならオレがテストの答えを教えましょうか?)
ゴンザレス?
答えを教えるって……?
(オレがテスト中にベリス王子の心を聞いて、それをぺるみ様がテスト用紙に書けば……)
カンニングはダメだよ。
(カンニング……? それは何ですか?)
え?
あ、うーん。
ズルをして良い点数を取る事だよ。
(……でも、ベリアルのガラス細工が欲しいんですよね?)
それはそうだけど……
もし、それでベリアルのガラス細工を手に入れても、見るたびにズルをした事を思い出して辛くなるだろうから。
(ぺるみ様……そうですね。ベリアルもガラス細工を手に入れる為にズルをしたと知れば悲しむはずです)
ゴンザレス……
分かってもらえて嬉しいよ。
わたしだって本当は答えを教えて欲しいよ?
でも、そんな事をしたら大好きな皆の目をしっかり見られなくなるような気がするの。
卑怯な事だけはするなって群馬にいた頃からおばあちゃんに言われていたから。
大好きなおばあちゃんを裏切りたくないんだよ。
(ぺるみ様のそういうところ……好きですよ)
えへへ。
わたしもゴンザレスのかわいいところが大好きだよ。
(オレ……思うんですよ)
ん?
何を?
(ずっとずっと他種族の心を聞いて生きてきたから、傷つく事ばかりで。遥か昔はこの力を利用しようとする奴らにいいようにされてきたんです)
でも、心が聞けるなら上手く逃げられたんじゃ……?
(傘下に入っていた種族王には逆らえなくて……)
なるほど。
それはそうだね。
(ぺるみ様はオレの力を利用しようとしないんですね。魔王様もです……)
誰かの心が聞こえるのは良い事にも思えるけど、辛い事の方が多いはずだよ。
(……はい)
よく頑張ったね。
(……え?)
ずっとずっと辛かったね。
(……! ぺるみ様……)
ゲイザー族の心を聞く力の事は秘密にしているけど、もしそれを知られたとしても第三地区にはゲイザー族を利用しようとする人なんていないから。
これからはベリアルと本当の兄弟みたいに楽しく穏やかに暮らして欲しいな。
(はい。オレ……これからは毎日笑って暮らせそうです)
ハリセンボンの姿のゴンザレスが嬉しそうに笑っているね。




