なんだか嫌な予感がするんだよ~後編~
「愛らしいドレ……リボンを……」
「騎士のような服も……だとしたらオモチャの剣も……」
ベリス王とベリス王子が話しているけど……
うーん。
よく聞こえないね。
ドレスと騎士の服か。
着ぐるみでウサギさんとかネコさんになれるとか……
そうだ!
ぬいぐるみの洗濯をするとかは?
普通に洗うと傷めちゃうから魔力を使って……
そうなると、水の力を使えるヴォジャノーイ族と……
あとは風の力を使える魔族で……
でもヴォジャノーイ族の皆はチョコレート作りで忙しいから無理だよね。
「ぺるみ様? どうかしましたか?」
真剣に考え込んでいるわたしにベリス王が話しかけてきたね。
「ああ……うん。洗濯をするのに……あ!」
しまった……
口に出しちゃったよ。
「え? 洗濯……?」
ベリス王が一瞬ニヤっとしたね。
嫌な予感がするよ。
「なんでもない! 忘れて!」
ごまかさないと!
「ぺるみ様……実はずっと考えていたのです」
うわあ……
ベリス王が伏し目がちに話し始めたよ。
この顔をする時はわたしを騙そうとしているんだよね。
しかも話が長くなるんだよ。
「わたしはずっと心配だったのです。身体が弱く簡単に死んでしまう人間が、毎日持ち歩くぬいぐるみが原因で病にならないかと……汚れたぬいぐるみを……それから……なのです……だから……」
あぁ……
……もう五分は話しているね。
いつまでこの話は続くんだろう。
「そうなると清潔に保つ為にぺるみ様のお力が必要なのです。いやぁ……ぺるみ様も同じお考えだったとは……」
ん……?
わたしの力?
え?
まさか……
「では、いつからぬいぐるみの浄化の商売を始めますか?」
……!
やっぱり!
全く、油断も隙もないね!
しっかり断らないと。
『わたしは、やらないからね』ってはっきり断るんだよ!
「わた……」
「いやぁ……さすがはぺるみ様です」
……!?
遮った!?
わたしに話させないつもりだね?
このまま流されたらまたいつものタダ働きだよ。
よし、今度こそ!
『わたしは、やらないからね』って言うんだよ!
「わた……」
「身体が弱い人間を思いやるとはさすがです。ぺるみ様が浄化をすれば人間達は衛生的にベリアルのぬいぐるみを持ち歩く事ができますよ」
このままじゃ世界中のぬいぐるみの浄化をさせられちゃいそうだよ!
わたしはアカデミーを辞めたら冥界の仕事をするんだから無理なんだよ。
「わたしは、やらないよ!」
よし!
やっと言えた。
「……え?」
『え?』
じゃないよ?
いいように使われるのは嫌だからね。
「わたしは冥界の仕事をするんだから、ぬいぐるみの浄化は無理なの!」
「ああ。そうでしたね。ですが安心してください。もう考えてありますから。冥界の仕事は夕刻までには終わりますよね? それからすれば良いのですよ。ははは」
この五分でそこまで考えるなんて……
「『ははは』じゃないよっ! 無理無理っ!」
「大丈夫です。全てわたしにお任せください。スムーズにぬいぐるみの浄化ができるように仕切りますから。いやぁ……良かった良かった」
「良くなぁぁぁあいっ!」
「はぁ……仕方ありませんねぇ」
お?
諦めたのかな?
やけにすんなり諦めたね。
「では……今作っているベリアルの特大ぬいぐるみを特別に差し上げましょう」
……!?
ベリアルの特大ぬいぐるみ!?
でも……待てよ?
わたしはベリス王の店舗での買い物は全部無料なんだよね?
じゃあ、浄化をしなくてもタダでもらえるはず。
「わたしはベリス王の店舗での買い物は先払いしてあるから……」
「ああ。それですか……」
……!?
また遮った!?
「それですか……って? え? 何?」
「残念ながらベリアルの特大ぬいぐるみはわたしと息子との共同名義の店舗から発売される商品でして」
「……え? 共同名義?」
そういえば、ベリス王子がベリアルに『自分と父親にベリアルのぬいぐるみを作る権利をくれ』って言っていたよね。
じゃあ……
これから発売されるベリアルグッズは全部有料なの!?
「ははは! どうしますか? ぺるみ様」
ベリス王が悪そうに笑っているね。
うぅ……
ベリアルの特大ぬいぐるみ……
欲しい……
こうして、わたしはまた簡単にベリス王の策略に嵌まってしまった。
あぁ……
この親子……
きっとわたしの事を簡単な奴だと思っているんだろうな。




