少しずつ前へ(3)
「……ぺるみ。それは危険じゃねぇんか? ぺるみの神力を全部吸い込まれたりはしねぇんか? もし、そんな事になったら……」
おばあちゃんが心配そうに話しかけてきたけど……
「その辺りはきちんと制御できるように鍛錬するよ。ハデスとならきっと良い方法を見つけられると思うの」
「ぺるみはハデスちゃんを信頼してるんだなぁ」
「うん。えへへ。誰かを心から信頼できるって幸せだね」
「ぺるみは、ずいぶん大人になったんだなぁ」
「そうかな?」
「群馬にいた頃の月海とは変わったからなぁ」
おばあちゃんが嬉しそうに笑っている。
「これからはおばあちゃんがわたしの心配をしなくて済むくらい変われたかな?」
「ははは。それは無理だなぁ。どんなに幸せでも家族の事は心配だろ? ぺるみには信頼できるハデスちゃんがいるけどなぁ。それでも色々心配するのが家族なんだ」
「そうだね。わたしも、おばあちゃんには吉田のおじいちゃんがいるのに心配だから」
「ぺるみ……群馬でずっと一緒にいたから、ばあちゃんとぺるみの考えはよく似てるよなぁ」
「えへへ。そうだね」
「これからもずっとずっと甘えん坊のぺるみでいてくれ。急に大人になったら悲しいからなぁ」
「おばあちゃん……うん。これからもずっとずっと甘えん坊でいるよ」
「そうか、そうか」
おばあちゃんが満足そうに笑っているね。
あとは、ばあばの話をしないと。
「それから……もうひとつ大切な話があるの。ばあばの事なんだけど」
「ホワイトドラゴンの事か……」
「うん。もう心を聞いて分かっているかもしれないけど……群馬にイナンナの魂が居るらしいの」
「……ああ。そうだなぁ」
「おばあちゃんは分かっていたんだね」
「オレはお月の身体になっていたから気づかねぇ振りをしてたけど……晴太郎もそうだったんだろ?」
「そうだなぁ。オレも晴太郎の身体になってたから知らねぇ振りをしてたんだ」
吉田のおじいちゃんも分かっていたんだね。
「もう群馬のあるあの世界は長くはないから、ばあばはイナンナの魂をこの『人間と魔族の世界』に連れてこようとしているの。一年後の集落のお祭りが終わる頃になるらしいんだけど……そうしたら、ばあばの身体にイナンナの魂を入れ込みたいんだって」
「そうか……でも、そうなれば……どっちかの魂が消えるかもしれねぇぞ?」
おばあちゃんの言う通りだよ。
「……わたしもばあばにそう話したんだけど、自分とイナンナが別の身体として存在したらブラックドラゴンのおじいちゃんが気を遣うからって……」
「それで自分が消えようとしてるんか?」
「大好きなブラックドラゴンのおじいちゃんがイナンナと仲良くする姿を見るのが辛いとも言っていたよ」
「……難しい問題だなぁ」
「うん。イナンナもばあばもブラックドラゴンのおじいちゃんも、皆が幸せになれる方法はないかな?」
「皆が幸せに……か。そうだなぁ……」
おばあちゃんが真剣に考え込んでいるね。
吉田のおじいちゃん達も考えてくれている。
わたしも考えないと。
何か良い方法……
うーん……
「こんなのはどうかしら?」
バニラちゃんが何か考えついたみたいだね。
「うん?」
「確か、イナンナの身体もブラックドラゴンの天族だった頃の身体も天界にあるのよね?」
「え? あ、うん。そう聞いているけど……」
「ブラックドラゴンは二度と天界に行ってはダメだから今の姿になったのよね?」
「うん。そうだね」
「じゃあ、天界に行かなければ天族の姿に戻ってもいいのかしら」
「……うーん。それはどうなんだろう。魂も身体も天族だと天界に入れちゃうから天族は許さないんじゃないかな。一応、罰としてそうなったわけだし……」
でも、実際はどうなんだろう。
ブラックドラゴンのおじいちゃんは天界に攻め込むなんてしないだろうし。
うーん……?




