少しずつ前へ(2)
「あのね? ばあばから聞いたの。ピーちゃんが勇者として過ごしていた時に、パートナーさんを食べた『初めからいた者』が居る島に行ったんだって。そこで二人は仲良くなってこの世界を旅したみたいなの」
「そうだったの……じゃあ、あの島にはもう居ないのね」
バニラちゃんが尋ねてきたけど、わたしも聞いた話なんだよね……
「そうみたいだよ。今は吟遊詩人として世界中を巡って身分制度に苦しむ人間の心を癒しているみたい」
「人間の心を癒す……そう。この世界を『人間』として見守っていたのね」
「そうみたいだね。ゲイザー族長……ずっと心配していたみたいだけどその『名前の無い魔族』は穏やかに暮らしているみたいだよ。もちろん傷つく事もあるだろうけど……きっと……ひとりぼっちじゃないんだよ。パートナーさんがずっと一緒に居てくれるから」
「そうですね……あぁ……もう遥か昔に島から出ていたのですね」
ゲイザー族長が呟いたけど……
悲しいような寂しいような嬉しいような……
なんとも言えない顔をしている。
「ゲイザー族長……」
なんて声をかけたらいいか分からないよ。
「一言話してから旅に出れば良かったのに……でも……良かった。本当に良かったです。てっきりあの島に閉じこもっているとばかり……かなりの魔力を感じるので」
「そうみたいだね。ハデスもその魔族がまだ島に居ると思っているくらいだから」
「昔からやり方が上手くて。頭が良いというか要領が良いというか……でも憎めない奴でした。ただひたすら真っ直ぐにパートナーを愛していて……」
「……そう」
「きっとオレに心を聞かれないように世界を巡っているのでしょう。でも……島を出ていたのなら……会いに来て欲しかった……」
「人間として前に進もうと決めたんじゃないかな?」
「……そうですね。会いには……行かない方が……でも……顔を見て安心したいし……でも……はぁ。島から出てきて欲しいと思っていたのにもうすでに出てきていたとは……心配していたオレの時間を返して欲しいくらいです。バニラ様……オレの勘違いで巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
「わたしも安心したわ。ずっと閉じこもっていると思っていたから。そう……人間として暮らしているのね」
バニラちゃんがほっとした顔をしている。
これで今日からは安心して眠れそうだね。
「それと……ブラックドラゴンのおじいちゃんと話したんだけど……」
何が真実かは分からないけど聞いてもらおう。
「わたし……もしかしたら天界の光の力を吸収していたかもしれないの」
「……ぺるみ? まさか……そんな事が……」
おばあちゃんが険しい顔になったね。
「おばあちゃん……あり得ない話だけど……そう考えると辻褄が合うの。お父様は卵の頃からわたしを大切にしてくれていて……わたしは、ずっとあの光がある隠し部屋の近くに居たらしいの」
「それであの光の強さに攻撃されていると思って力を吸収した……? まさか……そんな……」
「おばあちゃん……あのね? わたし、あの隠し部屋の光を見た時に思ったの。ずっと見ていたいって」
「それは、あの光に魅了されたからじゃねぇんか?」
「……うーん。それもあるかもしれないけど……少し違う感覚……かな? 家族に久しぶりに会った……みたいな?」
「家族……? 同じ神力を持つから……家族?」
「上手く言えないけど……わたしとあの光の『神力』は元々ひとつだったのかもしれない。そんな感じがするの。神力がそれを教えてくれた……みたいな?」
「……神力がそれを教えた? そんな事が……」
「ばあばが言っていたの。神力が遥か昔のイナンナやブラックドラゴンのおじいちゃんの姿を見せてくれたって」
「……そうなんか? 神力が……?」
「もし、これが真実ならわたしの無限に近い神力をあの光に流し込めそうな気がするの」
上手くいけば天界を守る事ができそうだよ。




