ドラゴンの島(7)
「ぺるみ……ふふ。変わったわね。一人で抱え込んで泣いていたルゥの頃とは別人のようだわ」
あ……
ばあばの表情が少し柔らかくなったかも……
「皆が支えてくれたから変われたの。一人で悩んでも解決なんてできない事が分かったから」
「そうね……魂を入れてもらうとしても天族の誰かに協力してもらわないといけないし。話してみようかしら。でも……」
「ブラックドラゴンのおじいちゃんには聞かれたくないんだね」
「……自分でも驚いているわ。こんなに気が小さかったなんて」
「それだけ大切に想っているっていう事だよ」
「ぺるみ……」
「わたしからおばあちゃん達に何か良い方法がないか訊いてみるよ」
「そうしてもらえると助かるわ。まだ一年あるから急ぐ必要もないし」
イナンナの魂は今でもブラックドラゴンのおじいちゃんの事が好きなのかな?
だとしたら、群馬の集落でばあばとブラックドラゴンのおじいちゃんが仲良くしている姿を見てどう思っているんだろう。
でも、そんな事をばあばには訊けないよね。
「この事を話していいのは誰?」
「……そうね。ブラックドラゴン以外の全員かしら」
「え!? 全員!?」
「ふふ。別にブラックドラゴン以外になら知られても構わないわ」
「ばあばらしいね」
「そうかしら。ドラゴン族は皆こんな感じよ」
「……そうなんだね」
「わたしは……ブラックドラゴンを愛しているわ。だから、彼がイナンナとわたしの間で苦しむ姿を見たくないの。だから……イナンナをわたしの中に入れ込めば……そう思ったの。本当は……」
「本当は?」
「全て忘れていたわけじゃないの」
「……え?」
「力を使うと……記憶の欠片が見える時があって……水溜まりに映る翼のある女性……優しく微笑む翼のある男性……」
「……?」
「記憶が抜かれていても……力を使うと……時々見えたの」
「それって……」
「わたしの中にある神力が彼を忘れてはいけないと言っていたのかもしれないわね」
「……それで人化したばあばの姿はイナンナにそっくりだったの?」
「そうね。でも……ドラゴンのわたしが天族だったなんてあり得ないでしょう? だから、あの翼のある女性が自分だとは思っていなかったの。人化したらこんな美しい女性だったらと考えてそうしただけだったのよ」
「神力が過去を見せた……?」
「不思議ね。グンマにいるイナンナの魂と話しているとすごく懐かしくて穏やかな気持ちになれるの。全く違う性格なのに……気が合うのよ」
「そうなんだね……」
「ぺるみ……わたしはブラックドラゴンとずっと一緒にいたわ。でもイナンナはずっと一人だった。……イナンナにブラックドラゴンを返したいのよ」
「ばあばはそれでいいの? 悲しくないの? 辛くないの?」
「わたしはイナンナの事が好きなのよ……だから……」
「わたしには分かるよ。まだルゥだった時、ペルセポネにハデスを取られそうで怖くて苦しかったの」
「ぺるみ……」
「わたしの中にペルセポネを見ているんじゃないかってハデスを疑って……ハデスにペルセポネを返そうとして。わたしは……身体をペルセポネに渡したの」
「……そうだったわね」
「でも……わたしは……ハデスの事が大好きだから諦めたくなかった。頭ではペルセポネに返さないといけないと思っていたのに、どうしても譲りたくなかった……好きっていう気持ちをとめられなかったの」
「気持ちはとめられない……ふふ。そうね……わたしも……ブラックドラゴンがわたし以外を優しく見つめる姿なんて想像したくないわ。でも……イナンナの辛さも分かるのよ」
「ばあば……」
心からブラックドラゴンのおじいちゃんとイナンナの事を大切に想っているんだね。
「ダメね……心がグチャグチャなの。もし……イナンナがわたしの身体に入って今のわたしが消えたら……ブラックドラゴンがわたしを忘れてイナンナと幸せに暮らしたら……わたしは……そんなのは嫌よ。……でも……イナンナには幸せになって欲しいの」
ばあばの声が震えている。
苦しくて辛くて堪らないのに、イナンナとブラックドラゴンのおじいちゃんの幸せを願っているなんて……
こんなのダメだよ。
わたしだってイナンナには幸せになって欲しいけど……
ばあばが犠牲になるなんて絶対にダメだよ。




