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ドラゴンの島(5)

「季節を一周?」


 あの世界は、どうしてばあばを丸一年群馬に居させたいのかな?


「今年より来年の方が状況が酷くなっているはずよ……あの大地はこう言っていたわ。『他の世界がわたしと同じ道を進まないように……元の世界に帰ったらわたしの苦しみを皆に伝えて欲しい』とね」


 ばあばが辛そうに話している。


「……何とかして助けられないのかな」


「……無理よ。時を遥か昔に戻したとしても……人間はまた酷い戦をして『あの世界』を傷つけるわ。そして豊かな暮らしをする為に辛い思いをさせ続けるの。他人を妬んで取り返しのつかない事を……」


「『世界』は精霊なのかな……精霊はどうなるの?」


「……あと一年したらわたしが無理矢理この世界に連れてくるわ」


「……え?」


「……自業自得の人間に巻き込まれる必要は無いわ」


「自業自得……」


 確かに……

 そうだけど……

 向こうの集落には月海るみの頃お世話になった皆が居るんだよ……


「ぺるみ……生まれてくる人間が減っていると話したわよね」


「……? うん」


「言い方を変えましょうね。妊娠しなくなった。こう言えば分かるかしら?」


「……まさか……これ以上人間を増やさない為に世界がそうさせているの?」


「なぜだと思う?」


「……二つ……あるよね。一つはこれ以上世界を傷つける人間を増やさない為。もう一つは……最期の時に苦しむ人間を減らす為」


「……どっちが『大地』の意思かしら? 前者? 後者?」


「……前者だと思う……でも……」


「でも?」


「モヤモヤするんだよ。ずっと『苦しい』って叫び続けていた『世界』を苦しめ続けている人間を……赦せない。そして……わたしもその人間の中の一人だった。わたしも、あの世界を滅ぼす一人なんだよ」


「……ぺるみ。忘れないで。今のその気持ちを」


「……ばあば」


「あと百年もすればあの世界の人間は滅びるわ。もうこれ以上人間は増えない。今生きている人間は少しずつ後始末をする事になるわ」


 人間『は』?

 他の生き物は滅びないの?


「後始末って?」


「原子力発電所、化学工場……他にもあるけど、これらは知識のある人間がきちんと後始末しないと……最後まで残る人間達はかなり苦労する事になるわ」


「……!」


「ぺるみ……あとは、あの世界の人間に任せるしかないの。それがあの世界の人間達がしてきた事への代償よ。あまりに大きい代償になったわ」


「……わたしばかり助かって申し訳ないよ」


「助かってはいないでしょう? ルミはあの世界で溺死したのよ。それであの世界との縁は切れたの」


「……ばあば」


「すぐにあの世界が滅びるわけではないわ」


「『世界』の意思で赤ちゃんが授からなくなった事を知らない人間達は、どう考えているの?」


「どこかの国が未知のウイルスをばらまいた……とか、食べ物や水のせいじゃないかとか、アレを使ったからじゃないかとか。色々考えているようよ。でも……皆普通に暮らしているわ。生きていく為にね」

 

「妊娠しなくなったのに普通に暮らしているの? それと『アレ』って何?」


「普通に暮らしているのは、なんともならないから……かしらね」


「どう頑張っても赤ちゃんを授からないの?」


「進んだ技術で赤ん坊を授からせようとしても無理だったようね。大地がそれを阻止しているから」


「……世界は静かに終わろうとしているんだね」


「最期の時に、苦しむ生き物を少しでも減らそうとしているわ。あんなに傷つけられてきたのに……」


「さっきの答えは後者……? あの世界は……優し過ぎるよ。傷つけられた今でも人間を大切に想っているんだね」


「見ているわたしも辛くなるわ」


「ばあば? 最期の時にあの世界はどうなるの? いなくなるのは人間だけなの?」


「……使ってはいけない物を使ってしまったの」


「……え?」


「ニホンから少し離れた場所でね」


「……それって?」


「そのせいであの世界の破滅は早まった」


「……? よく分からないよ」


「戦争が起きたの」


「戦争?」


「この話はしたくないわ」


「……じゃあ……『世界』は……あの世界の精霊は、あと一年でこっちの世界に来るんだよね?」


「無理矢理にでもそうさせるつもりよ。もうあの世界には居させたくないの。でも、あと一年あの世界に共に居て欲しいと言われているから……」


「どうして一年なの?」


「……人間を信じたいのかしらね」


「……信じたい?」

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