ドラゴンの島(4)
「叶うといいわね」
ばあばが寂しそうに微笑んでいる……?
やっぱりいつもと違う。
でも、訊いたらもっと悲しい思いをさせそうな雰囲気だよ。
「……うん」
「わたしも……欲しくなっちゃったわ」
「……? 何を?」
「ブラックドラゴンとの赤ん坊よ。ふふ」
笑っているけど辛そうだよ……?
「赤ちゃん?」
「今度は……きちんと育てたいの」
あ……
ペルセポネが天界でファルズフに刺されたせいだ……
そのせいで……
「……ごめんなさい。わたしが……」
「違うわ。悪いのは大天使よ? それに……グンマの『世界』から聞いた話だと……イナンナは大天使からこう言われたらしいわ」
「……世界?」
「『普通に死ぬよりも苦しい未来を与えてやろう』……ってね」
「それって……?」
「その大天使の娘を神の妻にする為にイナンナが邪魔だったのね」
「そんな……」
「ペルセポネの事がなくてもイナンナは天界には、いられなかったはずよ。大天使はイナンナをかなり邪魔な存在だと思っていたようね」
「ばあば……」
「それに、わたしにはイナンナの記憶はないし、ブラックドラゴンがその件に関わった大天使をかなり苦しい方法で自害させたらしいから気にしないで」
「……本当は……記憶を蘇らせたいの?」
「……それはないわね。今さら記憶を取り戻してもわたしはその頃のイナンナには戻れないわ。わたしはホワイトドラゴンとして長い時を過ごしてきたの。それに……戻りたいとも思わないわ。今のわたしがわたしだから。でも……何があったのかは知りたいのよ」
「ばあば……」
「ブラックドラゴンは天族を嫌っているわ。もちろんぺるみとその家族の事は例外よ。でも、それ以外は煩わしいと思っているようね」
「……そう」
「遥か昔……イナンナが生きていた頃もブラックドラゴンは天族の事が嫌いだったようね。だから二人きりで過ごせる浮遊島をこの世界に創ったの」
「……うん」
「ぺるみ……ありがとう」
「……え?」
「おばあさんを……ずっとグンマで守ってくれて」
「ばあば? それって?」
「おばあさんはガイアでもあるけど……グンマでの身体はイナンナの子孫でもあるから」
「……うん」
「ぺるみ……わたしは見たわ。ドラゴンの姿であの集落の温泉に行った時……小さな人間の……ルミ……あなたがおばあさんを必死に守っていた」
「まだわたしが月海として群馬にいた頃……悪い大天使がばあばを集落に連れてきたんだよね……」
「そうやってあれからもずっとおばあさんを守っていたのね。そして今は『この世界を見守る者』になろうとしている」
「……そうだね」
「わたしは……グンマのあるあの世界を見守る者にはなれなそうだわ」
「ばあば?」
「もうあの世界は手遅れなのよ。わたしが見守ったところで何も変わらないわ。人間達を導こうにも、あの世界はもう長くはないの」
「……うん」
「イナンナを守ってくれたあの世界をなんとかしたかった。でも……ダメだった。大地は苦しんでいるのに人間達は豊かな暮らしを変えようとはしなかった。それどころか……」
「もう……破滅への道をとめる事はできないんだね」
「生まれてくる人間の数はどんどん減っているわ。年々暑くなり世界中で洪水や火災が起きているの。今後さらに被害が増えるはずよ」
「ばあばは辛くないの? 向こうの世界の声が聞こえるんだよね?」
「辛いわ……でも……誰かに聞いて欲しい思いがある『あの世界』の声を聞けるのはわたしだけだから」
「……ばあば」
「あと一年くらいでそれも終わるわ」
「一年?」
「あの世界に言われたの。季節が一周するまで側にいて欲しいとね」
季節が一周?




