皆が見てきた過去を繋ぎ合わせたら未来への道が見えてきたよ~前編~
第三地区に帰ってきて、まだ興奮しているベリアルがベットに入る姿をこっそり覗きに行く。
「ベリアルは?」
ブラックドラゴンのおじいちゃんが小声で話しかけてきたね。
「おじいちゃん……見て見て。ベリアルがヒヨコちゃんの刺繍入り腹巻きをつけているよ」
ぐふふ。
かわいい。
ぐふふ。
かわいい。
「はは。本当だ。かわいいね。ほら、ベリアルがぺるみの視線に気づいて呆れているよ。ずっと見ていたいのは分かるけどもう行こうね」
「うぅ……もう少しだけ見ていたいよぉ」
「このままじゃベリアルが眠れないからね」
「……うん」
第三地区の広場に二人で歩き始める。
「ぺるみは相変わらずだね」
「えへへ。あ、そうだ! おじいちゃんに話があったの」
「ん? 何かな?」
「うん……ちょっとだけ空間移動してもいい?」
「もちろん。ぺるみは空間移動ができるようになったんだね」
「ハデスが鍛錬してくれたからね」
「はは。それは大変そうだ」
「……うん。かなり大変だったよ」
ハデスは鍛錬の時に、生きるか死ぬかのギリギリを攻撃してくるからね。
聖女が眠っていた洞窟に着くと隠し部屋に入る。
「へえ。こんな部屋があるんだ」
「うん。おばあちゃんがお花ちゃんと熊太郎を隠していたの」
「なるほどね。ここなら誰にも見つからないね。それで? 何を聞きたいのかな?」
「……うん。おじいちゃんは神様だったでしょう?」
「ん? うん。そうだね」
「えっと……天界にも隠し部屋がある事を知っていたのかな?」
おばあちゃんは、そう言っていたけど。
「……ぺるみ。それをガイア様に話したの?」
「……おばあちゃんにあの光を見せてもらったの」
「そう。それなら安心したよ。あれは知られてはいけない物だから」
「わたしが知ったらおばあちゃんに殺されると思ったの?」
「まさか。記憶を消されるくらいだよ」
「……うん。そうだね。あの光の存在を教えてくれたのはタルタロスにいるクロノスおじい様の側付きなの」
「タルタロスの……そうか。クロノス様は……元気かな?」
「ずっとベットに潜り込んでいるけど、すごく優しいのは分かるよ」
「そうだね。クロノス様は優しいお方だよね。強い魅了の力があるからかなり苦労していたよ」
「やっぱり……」
「クロノス様の美しいお姿に多くの天族が魅了されて……戦まで起こりそうになってね。それからはずっと顔を隠していたよ」
「そうだったんだね」
「それに……クロノス様は、かなりの神力を持っていた。その神力に吸い寄せられるかのように天族達が近づいてね。そう。あれは、まるで天界の隠し部屋の光のようだった」
「おじいちゃんはクロノスおじい様に魅了されなかったの?」
「魅了されるのは心に隙があるからなんだ。だから、常に気をつけていれば大丈夫なんだよ」
「そうなんだね。隙を作らなければいいんだね。あの隠し部屋の光の力で天界が浮かんでいる事は知っているのかな?」
「初めて知った時は驚いたよ。確か天界は自害した天族の神力が集められて浮かんでいるんだよね」
「うん。それをなんとかして、生きている天族の神力で浮かばせる事ができないかなと思って」
「……なるほど。もう、自害させられる天族もいなくなりそうだからね。でも、あの隠し部屋の光は自害した天族の神力しか受け入れないんだよね?」
「うん。それで困っていて……」
「そうか。うーん。もうドラゴンの身体になったから天界には入れないし……困ったな」
「おじいちゃんは天界に溜めていた神力を流して浮遊島を浮かばせているんだよね?」
「そうだよ。それもガイア様から聞いたの?」
「うん」
「あれは、隠し部屋の光の真似をしたんだよ」
「そうだったんだね」
「うーん。天界は浮遊島と違ってかなり大きいから大量の神力を使うはずだよね。生きている天族の神力を使えるようにする方法か……」
「やっぱり難しいのかな?」
「……絶対に無理……ではないけど……」
「え? そうなの!?」
「……うん。ぺるみは、あの隠し部屋の神力を見に行ったなら分かるよね? あれは、かなり強い魅了の力がある。といっても魅了の力とは少し違うんだけどね」
「少し違う?」
「うーん。強い者に惹かれる感情……分かるかな?」
「強い者に? ハデスが魔王をしているお父さんに惹かれるみたいな?」
「そうだね。そんな感じかな? 自分には無い力に惹かれる。そんな感じ? あの隠し部屋の光には自害させられた天族の神力が大量に入っているんだ。まあ、自分の意思で自害した天族もいるけど、ほとんどが罪を犯して自害させられた天族なんだ。だから、皆それなりに強くてね」
「ただでさえすごい神力なのに、いくつも合わさったから、もっと強くあの光に惹きつけられるの?」
「うーん……それだけではないんだけどね。遥か昔自害した天族の中にかなり強い魅了の力がある者がいてね。それも関係しているはずだよ」
「色々な条件が重なってそうなったの?」
「そうだね。それから、もう一つ。巨大な天界を浮かばせる為にあの隠し部屋の光は存在している」
「……? うん」
「どうして自害した天族っていう条件がついているのかは分からないけど……あの光の中にある神力同士がぶつかって爆発を起こした力で、天界は浮かんでいるみたいなんだ」
「……それって」
「うん。グンマで色々本を読んで勉強したんだ。あっちの世界でも同じような事をしているみたいだね」
「……うん」
「じゃあ、考え方を変えれば……どうかな?」
「考え方を変える?」
「『爆発を起こした神力』と同じくらい強い神力なら天界を浮かばせられるんじゃないかな? その光を別に作って天界を浮かばせるんだ」
「別に作る?」
「そう。今ある隠し部屋の神力が無くなったら……というより、強い神力が狭い光の中にいくつも閉じ込められてぶつかり合う事でさらに強い力を作っているのなら……可能かは分からないけど、今ある物とは別に神力の光を作って、今ある神力の光と同時に天界に流し込めば神力同士の爆発でさらに強い力が生まれるんじゃないかな? それか、新たに作った神力だけの力で浮遊させてみるんだ」
「なるほど。問題は同時に神力を天界に流し込む事で天界に負担がかからないのかと、新しく作る光の中にいろんな天族の神力を入れ込まないといけないっていう事かな?」
「そうだね。今ある神力は何千年もかけて色々な天族の力を吸収してきた。だから、それと同等な神力の光を作る為にはたくさんの天族達の神力が必要になる。それから、これは机上の空論だよ。実際にはできないかもしれない。かといってやらないわけにもいかないし、天界で試すわけにもいかない」
「……うん」
「小さな浮遊島を創ってそこで試すといい」
「小さな浮遊島?」
「まだ隠し部屋の光が尽きるまで数千年はあるはずだよ。それだけの時間があればきっと答えに辿り着けるよ」
「ありがとう。おじいちゃん……」
「かわいいぺるみの相談ならいつでも聞くよ。そうだ。ベリアルはこの世界を見守る者になるらしいよ」
「……え?」
「ホワイトドラゴンにそう言ったらしいんだ」
「ベリアルがどうして……実はわたしもこの世界を見守りたいと思っていたの」
「そうなんだね。二人はよく似ているよ」
「わたしとベリアルが?」
「苦労してきたからかな」
「……え?」
「ベリアルは天界でかなり苦労してきたらしいし」
「おじいちゃんはベリアルの過去を知っているの? 確かおじいちゃんが神様になってすぐにベリアルは追放されたんだよね」
「イナンナだよ」
「え? イナンナ?」
「イナンナは幼い頃、天界でベリアルに会ったらしくてね」
「……? それって……?」
「ああ。ホワイトドラゴンはイナンナだった頃の記憶が蘇った……というよりは……」
「……おじいちゃん?」
「遥か昔、天界から追放されたイナンナの『記憶』は異世界の集落に飛ばされた。そして、イナンナの創り物の身体にゼウスが……」
「……うん。『おじいちゃんとイナンナの赤ちゃん』を入れたって言っていたよ」
「そしてイナンナの記憶は子孫達に語り継がれた。お月ちゃんだったガイア様から先には受け継がれなかったけどね。まあ、異世界の天族だったなんていう内容だから信じられてはいなかったみたいだけど。それに『天族』なんて言っても通じなかったんじゃないかな?」
「うん……そうだろうね」
「デメテル様はイナンナが無事赤ん坊を出産できるように神力を流し込んでいた。だから、人間の身体のイナンナが死なずに、神力のある子を産む事ができたのかな? それとも、お雪さんには神力が無かったから……わたしとイナンナの赤ん坊は、安全の為に『誰か』に神力を抜かれていたのかな?」
「……? おじいちゃん?」
誰かって……?
お母様じゃないのなら……おばあちゃん……かな?
「ホワイトドラゴンがどうしてグンマで暮らしているか分かるかな?」
「それは……温泉が気に入ったから……かな?」
「ははは。それもあるよ。でも……グンマがあるあの世界はホワイトドラゴンにとっては辛い場所なんだよ。大地の苦しむ声が聞こえてくるからね」
「大地の苦しむ声……?」




