やっぱりベリス王子は、やり手だね
ベリス王子がいつもの作り笑顔で話しかけてきたけど……
「……? 何が違うの?」
「父上に抱き枕の代金を支払うのはわたしなのです。わたしがぺるみ様の代わりに支払う……という事はぺるみ様の買い物とは違うのですよ」
……?
ベリス王子の言っている事がよく分からないけど。
「……ん? うーん? そうなの?」
なんだか詐欺に遭っている気分だよ。
「それに、父上の店舗での『金山前払い』は、話によると昨晩からのようですし。わたしとの抱き枕の代金の支払いはそれよりも前にした約束ですから」
「……うーん? そう……なの?」
「はい。それに、ぺるみ様はよろしいのですか?」
「ん? 何が?」
「ベリアルのグッズを作り出す瞬間に立ち合わなくてもよろしいのですか?」
「はっ! そうだった! ベリアルのグッズを作る手伝いをする代わりに抱き枕をもらえるんだった!」
「そうですよ。ですから深く考えずに流れに身を任せるのです」
「そうだねっ! ぐふふ。ベリアルの小さいぬいぐるみを大量生産するんだよ。そして世界中にベリアルのかわいさを知らしめるんだよっ!」
なんだか騙されているような気もするけど……
ベリアルの抱き枕をもらえるうえに、グッズを一から作れるんだから良い事ばかりだよね。
「……いや、おい。オレは許可してないぞ? 本人の許可は?」
ベリアルが何か言っているけど、聞こえない振りをしよう。
「ああ。楽しみだねっ! ベリス王子!」
大声を出して聞こえない振りだよ!
「はい。楽しみですね! ぺるみ様!」
ベリス王子も大声で返事をしているね。
「お前達……なんか、そっくりだな」
ベリアル!?
なんて事を言うの!?
「わたしとベリス王子のどこが似ているの!?」
「ごまかそうとする悪い顔がそっくりだ……」
「ちょっと! ベリアル! わたしは悪い顔なんてしていないよ!?」
「してるだろ! とにかくオレは許可しないからな!」
まずいね。
まだこの世界には無いだろうけど『肖像権』とか言われたら困るよ。
「ベリアル……わたしは思うのです」
お?
ベリス王子が話し始めたね。
この感じは長くなりそうだよ。
「ん? なんだ?」
「世界中の人間の心は渇ききっています。平民は貴族に虐げられ、下位貴族は上位貴族に虐げられ……上位貴族もさらに上の身分の者から虐げられる。王でさえ他国の王から見下される事もあるのです」
「ん? そうなのか?」
「その心を満たせるのは……この世界にただ一人。そう! ベリアルです!」
「……? オレ?」
「はい。よく考えてください。四大国の王達もクラスメイトのジャック達も、市場の平民達も皆ベリアルに癒されてきました。あの幸せそうな人間達の表情をお忘れですか?」
「うぅ……それは……確かに……オレはかわいいから皆が夢中になるのは仕方ないよな」
くうぅ!
自分のかわいさを分かっているヒヨコちゃんも激かわだね!
「厳しい身分制度に苦しんでいる人間の心を癒せるのはベリアルだけなのです」
「……そうだったのか!」
「はい。どうか人間達の心を癒す為にベリアルのぬいぐるみを販売する権利をわたしと父上に与えてください」
『わたしと父上に』って言ったね。
それ以外には作らせないっていう事?
本当に商売上手だよ。
ちゃっかり父親であるベリス王の名前も入れているし。
「……仕方ないな。人間の為に許可するよ。ジャック達に喜んで欲しいからな」
「ベリアルならそう言ってくれると信じていました! あとで契約書にサインをお願いしますね」
ベリス王子がベリアルを抱きしめたね。
契約書って……
あぁ……
ベリス王子が、すごくニヤニヤしている。
これからいくら稼げるか考えて嬉しくなったんだろうね。
ベリアルは、しっかり抱きしめられているからあの顔を見ていないのか。
でも、これで安心してベリアルグッズを作れるね。
世界中がベリアルのぬいぐるみでいっぱいになるんだよ。
堪らないね。
ぐふふ。
まずはぬいぐるみだね。
それから、ベリアルの寝癖風カチューシャと……絵本もいいね。
あとはベリアルのメイプルシロップみたいな匂いの香水もいいかも。
あぁ……
いくらでもグッズが思いつくよ。
ついに『全種族ベリアルアイドル化計画』が本格的に始まろうとしている。
ベリアルのかわいさで世界を平和にするんだよ。
あれ?
でもよく考えたらベリアルがかわいいと世界が平和になるって……
どうやって平和になるんだろう。
うーん……?
言い出したのはわたしだけど……
何をどうしたらいいの?




