無料でご招待なんてうまい話はありません
「ハデス……大丈夫なの? こんなに搾り取られて……」
心配になっちゃうよ。
「大丈夫だ。最近新たに金山を見つけたのだ。いくつかをヴォジャノーイ族に譲り、あとはわたしの名義にした。だから何の問題もない」
そんなに都合よくいくつも金山が見つかったの?
変じゃないかな?
ん?
吉田のおじいちゃんがニヤニヤしているね。
ああ。
そういう事か。
ハデスに見つかるような場所にさりげなく金山を創ったんだね。
ハデスはいつも誰かの為に金塊を使っているから。
そういえば自分の為に何かをしている姿を見た事がないよ。
ハデスが自分の為にやりたい事ってなんだろう。
……暗殺以外で。
「ねぇ。ハデスがやりたい事って何?」
「わたしのやりたい事? ……そうだな。甥も立派に育ったし、父上もタルタロスから出たし、ペルセポネも幸せそうだし……特にやりたい事はないな」
「それって全部ハデスのやりたい事じゃないよ。誰かの幸せだよね? うーん。じゃあ欲しい物とかは?」
「欲しい物……か。……無いな」
「ええ!? そんな! ひとつも!?」
わたしは欲しい物ばかりなのに。
ベリアルの等身大抱き枕と、ベリアルのかわいいドレスと、ベリアルの……
ん?
全部ベリアル絡みだね。
「今のままで幸せだからな。欲しい物は無い」
なんてできた夫なの!?
わたしは物欲の塊なのに!
あぁ……
自分が恥ずかしい。
「おや? ハデス様は欲しいものがあったのでは?」
ん?
ベリス王がハデスに話しかけているね。
「……? 特に思い当たらないが?」
「ははは。そうですか? いやぁ……娘はいいですよ? 愛らしくて小さくて。あの柔らかい頬に触れるだけで一日の疲れが消えてしまいます」
「……娘」
「はい。ハデス様とぺるみ様もそろそろ……」
「娘……」
ハデスが一瞬ニヤって笑ったね。
じゃあハデスが欲しいのは……
わたしとの赤ちゃん!?
赤ちゃんを作るには……
あの紙に描いてあったあれを……
あれを……
「ん? おい。ぺるみ……ぺるみ? どうした? 顔が真っ赤だぞ?」
ベリアルがわたしを見つめている?
しまった。
また知恵熱を出しちゃいそうだよ。
違う事を考えよう。
「大丈夫だよ。あはは。えっと……じゃあ、タルタロスにクロノスおじい様達を連れて行って、それから第三地区でベリス王子のお手伝いをしようかな。あはは……」
「じゃあ、じいちゃんがクロノス達を連れて行くから、ぺるぺる達は第三地区に行ってくれ」
吉田のおじいちゃんがニヤニヤ笑いながら話しかけてきたね。
またわたしの心を聞いたんだね。
恥ずかしいよ……
「おや、息子の手伝いを? それは助かります」
ベリス王が父親の顔になったね。
「コットス達が来る事になったからウェルカムフルーツが足りなそうなの。だからお手伝いしないと」
「なるほど。そうでしたか。……ぺるみ様」
「ん?」
「息子が、それは張り切っていまして」
「そうなんだね」
「息子があれほど瞳を輝かせているのは初めてで。娘の事が落ち着いたからでしょうか。商売にさらに集中できているようです」
「そう。あれ? でも、無人島への招待はお礼だからタダだって聞いているけど」
「おや? そうですか? ……?」
「え? 何? どうかしたの?」
「あぁ……いえ。そうですか。招待はタダ……ですか」
「……え? あ……ああ! まさか……招待自体はタダだけど食べ物とかは有料……!? ちょっと待って!? ウェルカムフルーツ代だけでとんでもない金額になるよ!?」
「ははは。いやぁ……言葉とは難しいですねぇ」
この親子……
恐ろしい……
無人島で一体いくら搾り取られるんだろう。




