ドロドロの恋愛話? ~前編~
「ベリス王、さっきの話は本当!? 人間のドロドロの恋愛話があるって」
ドラゴン王のばあばがかなり興奮しているね。
興奮し過ぎてドラゴンの姿に戻らないといいけど。
「はい。もちろんです。わたしも聞いた話なのですが……」
ゆっくりとベリス王が話し始める。
「ほんの少し前……といっても、人間からすればかなり前の話です」
ある所に神力を少しだけ持ち産まれてきた少女がいました。
銀の髪に青い瞳のそれは美しい少女で人々は聖女ではないかと騒ぎ立て十五歳になる頃には大国の王の養女として暮らすようになりました。
しかし、養女とは名ばかりで少女は地下牢に閉じ込められ神力を吸い取られる日々を過ごしました。
そして、神力を全て吸い取られると少女は海に投げ捨てられました。
そこに、偶然通りかかった海賊船に少女は運良く助けられ船長と恋に落ち幸せに暮らしたそうです。
「うーん。ドロドロの恋愛話じゃないわね」
ばあば……
せっかく話してくれたんだから……
「話はまだ続くのですよ?」
また、ベリス王が話し始める。
この少女の弟は小国の王子として産まれました。
少女が大国で幸せに暮らしているとばかり思っていた王子は大国からの密告の手紙に愕然としました。
神力を吸い取られ海に捨てられた……
その姉を見つけ出す為に王子は船に大砲を乗せ航海に出たのです。
ですが、もう少女は海賊と幸せに暮らしていましたから見つかるはずもなく……ですが王子は諦める事なく時間をつくっては海を捜し続けました。
そんな時、アルストロメリア……名を出してしまいましたね。
少女を捨てた大国であるアルストロメリア王が『自国が大砲を積んである船に狙われている』と騒ぎだしました。
王子はただ姉を助ける為だと言いましたが、大国と小国の力の差の前にはどうする事もできず、アルストロメリアに投獄されました。
以前、姉がいた地下の牢獄に……
暗い牢獄で己の無力さに震える王子の元に一人の少女が現れました。
ロウソクに照らされる姿は姉を思い出させるような美しい姿でした。
聞けば、姉が王家に来たばかりの頃にお世話係をしていた身分の高い家門の出で、あの密告の手紙はこの少女が送った物でした。
少女は、それからも夜になるとこっそり地下牢に来ては王子に食べ物を渡していました。
そんなある日、大国アルストロメリアを脅かしたとして王子が公開処刑される事になりました。
少女は協力者のアルストロメリア王の弟と、地下牢から王子を脱出させると船着き場に向かいました。
そして少女と王子を小舟に乗せると、アルストロメリア王の弟は少女に言いました。
「愛しい人、貴女はわたしの全てでした。ですが貴女の心はもうわたしの物ではないようです。どうか、王子とシャムロックでお幸せに……」
こうして、小国の王子とアルストロメリアの少女はシャムロックで幸せに暮らしました。
ちなみに最近になって数十年ぶりに『海賊と暮らしている少女』が見つかったらしいのですが……
小国の王子は今度は世界の果てを見つけたいと言って航海に出ているようです。
ん?
小国のシャムロック?
世界の果て?
これって、ルゥのおばあ様の若い頃の話?
じゃあ、海賊と暮らしている少女はココちゃんのおばあちゃん?
「うーん。違うのよねぇ。わたしの求めるドロドロの恋愛話じゃないのよね」
ばあば……
そんなにドロドロの話を聞きたいんだね。