知恵熱なんて恥ずかしいよ(1)
「お母様? どうかしたの?」
急に大声を出したけど……
「え!? あ……喉の調子が……もう治ったわ……(もう! ヘスティアったら!)」
「喉が痛いの? 昨日わたしと一晩中話したからかな?」
「あぁ……違うのよ。一瞬痛くなってもう治ったの!」
「……本当?」
「本当よ!」
「良かった。えへへ。お母様、抱っこして?」
「あらあら。ペルセポネは甘えん坊さんね」
お母様に抱きしめられると胸のドキドキが聞こえてくる。
心音が速くなっているね。
やっぱり疲れているのかな?
早く寝かせてあげないと。
「お母様は疲れているんだね。わたしはもう行くよ。わたしがいると寝られないよね。お母様……ずっとずっと元気でいてね?」
「あぁ……ペルセポネ……嬉しいわ。お母様はずっとずっと元気でいるから。ふふ。かわいいペルセポネ……あなたの幸せな姿が見られて本当に嬉しいわ」
「わたしも。またお母様に会えてすごく嬉しいよ」
お母様の優しく髪を撫でてくれる手が温かくて眠くなってきたよ……
こうして、わたしは第三地区の広場に戻ってきたんだけど……
頭がフラフラする……?
おかしいな……
「ぺるみ……大丈夫か?」
おばあちゃんが心配そうに家から出てきてくれたね。
「……うん。わたし……どうしちゃったのかな?」
「ぺるみ……全部聞いてたぞ? 天界であの紙を見たんだろ?」
「……赤ちゃんの作り方の紙の事?」
「そうだ……ちょっとおでこに触るぞ? ……! ぺるみ……こりゃ知恵熱だなぁ」
「知恵熱?」
「小さい子が興奮すると出す熱だ……本当にぺるみは赤ん坊だなぁ……」
「うぅ……呆れないでよぉ……」
「あはは! ぺるみもほんの少しお姉さんになったって事だ」
「お姉さん?」
「そういや、群馬の学校でも保健の時間にぶっ倒れてたなぁ」
「群馬で? あぁ……だって……よく分からないけど頭がフラフラして……」
「興奮し過ぎたんだろ……ばあちゃんも先生から連絡が来た時は恥ずかしかったなぁ」
「だって……教科書に、知らない事がいっぱい書いてあったから」
「……それで興奮してぶっ倒れたのか」
「冷静に言わないでよっ! 恥ずかしいでしょ!?」
「……ぷっ!」
「吹き出さないでよっ!」
「やれやれ。ほれ、ばあちゃんの布団に横になれ。熱が下がらねぇとアカデミーに行けねぇぞ?」
「うぅ……はい……」
「ん……?」
「おばあちゃん? どうかしたの?」
「……いや」
(今、天界からヘスティアとデメテルが水晶で見てるんだけどなぁ……)
え?
あ、だから心に話しかけているんだね。
(ヘスティアが『知恵熱! 知恵熱ですって! 』って言いながら大爆笑してるぞ? デメテルがその姿を見て驚いてるなぁ)
……!?
あの冷静で常に微笑んでいるヘスティアが!?
(ヘスティアは常に作り笑顔だからなぁ。たまには腹の底から笑うのもいいだろう)
わたしが変だからヘスティアの作り物の笑顔が壊れたっていう事?
(自分が変だっていう自覚があるんか……)
もうっ!
おばあちゃん!?
「ははは。これくらいの知恵熱なら朝までには下がるさ。ほれ、デメテルに心配させねぇように早く寝るぞ? デメテル……もし水晶で見てるならこっちは大丈夫だから早く寝ろ? よし、ぺるみも寝るぞ?」
おばあちゃんはお母様の心配もしてくれているね。
今のわたしにできる事は知恵熱を下げる事か……
うぅ……
赤ちゃんを作る絵を見て興奮して知恵熱を出したなんて……
恥ずかしくて誰にも言えないよ……




