ベリス王女の葬儀とオケアノス~後編~
「オケアノスの怒りも分かるが……もうやめるのだ」
ハデスがオケアノスを優しく諭しているね。
「じゃあ、ハデスはペルセポネが酷く傷ついて死んだとして、それを他人から『せいせいした』と言われたらどう思う!?」
「それは……赦せないが……」
「そういう事だ! そういう事だろう!? オレは赦さない! こいつらは絶対に赦さない! 親から愛をもらえなかっただと!? 違うだろう! 愛してもらっていただろう!? 自分よりも多く愛をもらう姉に嫉妬していただけだろう!? 熱が出れば看病されただろう! 初めて魔術を使えたら褒めてもらえただろう! オレは……そんな事は……一度もなかった……」
オケアノスの悲しい記憶がわたしの中に流れ込んでくる……
ずっとずっと寂しくて辛くて……
孤独……そんな言葉じゃ足りない……
オケアノス……
これからは……わたしがずっと一緒にいるからね。
もう二度と寂しい思いなんてさせないから……
「おじ……オケアノス様」
ベリス王が辛そうな顔をしているね。
「お前か……」
そういえば、この二人は前に何かを話していたみたいだけど……
子守唄の威力が激しくて何も聞こえてこなかったよ。
「ありがとうございます。娘を想ってこのような事を……申し訳ありません。わたしが親としてもっとしっかりしていれば」
「……お前はよくやっていた。こいつらが何も知ろうとせずにただ姉を恨み生きてきただけの事だ。そこがベリス王子との違いだ。あれは……立派だ」
「……はい。わたしも息子達に構ってやれない罪悪感からつい甘やかしてしまって……それなのに常日頃から我慢している第一王子には後継者として厳しくしなければいけなくて……」
「よく、ここまで真っ直ぐ育ったな」
「優しい子なのです」
「……そうだな。はぁ……ベリス王子……今までよく堪えてきた。この弟達と姉に板挟みにされて辛かったな」
今度はベリス王子に話しかけているね。
「オケアノス様……」
ベリス王子が辛そうに呟いたよ。
「この夢から覚めれば……少しは姉の苦しみが分かるだろう」
「……はい」
「王子よ……」
「はい……?」
「妹は……昨日産まれた妹は……かわいいか?」
オケアノスもお姉さんが赤ちゃんになってこれからは妹として生きていく事を知っているんだね。
ずっとわたしの中から見ていたんだ……
「……! はい。かわいくて堪りません。この世界の美しい物だけを見て生きて欲しいと……心から願っています」
「……そうか。王子……もう我慢しなくていい。これからは両親に甘えるんだぞ?」
「……はい。昨夜は父上と母上と妹と四人でベットで寝たのですよ? そうしたらベットが壊れて……皆で大笑いしました」
「……幸せか?」
「はい。とても……とても幸せです」
「良かった……これからは……両親に毎日甘えるんだぞ?」
「わたしはもう幼子ではありませんが……」
「両親はそれを望んでいるはずだ」
「……はい。わたしも……本当はずっと甘えたかったのです」
「やれやれ……じゃあ、オレは疲れたから寝るか。あとはペルセポネに任せたぞ? そいつらはあと五分もすれば目覚めるだろう」
……すまない。
ペルセポネは、あいつらの悪態を我慢しようとしていたのにオレが夢を見させて……
気にしないで?
もしオケアノスがやっていなかったらわたしが、ぶん殴っていたところだよ?
ぶん殴……!?
あはは!
そうか!
そうした方がおもしろかったかもな!
オケアノスの遠い子孫がベリス族なんだね。
そのようだな。
だから……
こんな事をしたんだね。
あの優しい父親には息子達を叱る事はできないからな。
オレがやったまでだ。
ふふ。
オケアノスは優しいね。
……勝手に誤解していろ。
じゃあな。
素直じゃないんだから。
でも……
そんな不器用なところも大好きだよ?
大好き……!?
……ムズムズする。
もう寝る!
ふふ。
オケアノスはかわいいね。
この不器用さはベリアルと似ている感じがする。
元々ベリアルはオケアノスが創った存在だから?
ベリアルにはその頃の記憶は無いみたいだけど。
こんなに優しいオケアノスがこの世界を滅ぼそうとするほど苦しんできたなんて……
オケアノスから流れてきた記憶があまりに辛過ぎて心が痛いよ。




