ベリス王女の葬儀とオケアノス~前編~
何があってもベリス王子の弟さん達には手を出さないって決めていたのに……
ベリス王国に着いて娘さんの葬儀会場に入って少しすると、弟さんらしい三人が小声で悪口を言っているのが聞こえてくる。
わたしにも聞こえているくらいだから耳が良い魔族の皆にも聞こえているんだろうね。
会場にはドラゴン王である『ばあば』以外の種族王達とパートナーさん、イフリート王子とベリス族達が集まっているけど……
皆気まずそうにしているよ。
まさか葬儀でここまでの悪口を言うなんて……
酷過ぎるよ……
ベリス王は静観しているね。
いつもこんな感じだったのかな?
娘さんに、かかりきりで愛を注げなかった罪悪感で注意できないのかな?
ベリス王子が怒りで身体を震わせているのが分かる。
「ベリス王子……大丈夫?」
「あぁ……はい。まさか……葬儀でまであのような事を言うとは……」
「冷静なんだね。わたしは我慢の限界だよ」
「ぺるみ様……」
「大丈夫だよ。暴れたりしないから。ベリス王子が我慢しているのにわたしが暴れたりしたらダメだから」
「……ありがとうございます。姉上の為に怒って……本当はわたしも怒り狂いたい……ですが父上が我慢しているのに……わたしがそうするわけには……」
「ベリス王子……今日はお姉さんの葬儀だから……静かに……送って……あれ?」
「ぺるみ様?」
身体が……
動かせない……
あぁ……オケアノスが……
あれ?
でも、いつもの子守唄がないね?
良かった……
あれは音が微妙にずれていて気持ち悪くなるんだよ。
ベリアルは悪夢を見たって言っていたし……
「最期を静かに送る? ふざけるな!」
ちょっと!?
オケアノスがかなり怒っているよ!?
まずいんじゃない?
わたしの神力を使って弟さん達を攻撃したら……
今から娘さんと三人の息子さんの葬儀が始まる事になるよ!
「お前達……今から子守り唄を聞かせてやろう」
……!?
オケアノス!?
あれは子守唄とは名ばかりの精神的攻撃だよ!?
……あれ?
歌わないのかな?
違う……
息子さん達の心に直接歌っている?
「うぅぅ……」
「赦してください……」
「助けて……」
うわぁ……
オケアノスの子守唄を聞いたベリス王子の弟さん達が苦しんでいるね。
倒れ込んで耳を塞いでいるよ。
今回はわたしには聞かせてこなかったけど……
一体何の夢を見せているの?
いや、音の外れた子守唄にやられているのかも。
「ペルセポネ……いや、オケアノス……だな?」
ハデスには今身体を動かしているのがオケアノスだって分かるんだね。
「この愚か者どもめが……」
オケアノスがかなり怒っているのが伝わってくる。
「オケアノス……ペルセポネの中から聞いていたのだろう? なぜベリス王の息子達を攻撃しているのだ。わたしは何があろうと決して相手にするなと言ったはずだ」
「……こいつらは甘えている。親の愛が姉に奪われたからといって姉の葬儀の最中に悪態をつくとは……ならば姉が数千年間味わってきた苦しみをこいつらにも体験させてやろうと思ってな」
「オケアノス……夢を見せているのだな? 前魔王が斬りつけてくる夢を」
「こいつらにとっては夢だろう。だが姉は実際に……どれほど辛かったか。それなのに、こいつらはたった一分夢を見ただけでこの有り様だ。赦せない……もっと苦しめばいい。姉が苦しみ抜いて最期を迎えたというのに『死んでせいせいした』だと!? 赦せるはずがない!」
確かにオケアノスの言う通りだけど……
このままじゃ葬儀が大変な事になっちゃうよ。




