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新しい生活の始まり

『異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~ルゥと幸せの島~』の続編です。

 幸せの島の砂浜に置かれたベットを囲むように魔族と第三地区の人達と天族の家族が立っている。

 

 ルゥの身体からペルセポネに戻り、目を開けるとハデスの心配そうな横顔が見える。

 よく見ると、隣に眠るルゥの手を握っている。

 

 ルゥ……

 不思議だね。

 十五年間ルゥの身体で過ごしていたから……


「ペル……あぁ……」


 目を開けたわたしに気づいたハデスがルゥの手を優しく離すと、隣に横たわるわたしのほっぺたを優しく撫でる。


「ハ……ハデス……」


 聞こえてくる自分の声がペルセポネの頃の自分の声で……

 もうルゥではないんだと実感する。


「ペルセポネ……」


 お母様が涙を流しながら抱きしめてくれる。


「お母様……」


 ペルセポネの時の最後の記憶は泣いているお母様に抱きしめられているところだった。

 あの時は、苦しかったけど……

 今は違う。

 心が温かくて心地いい。


 ごめんね。

 誰にも言えないよ。

 ファルズフに刺されて、助かろうと頑張れば生きていたかもしれないのに……

 わたしはザクロの実を食べて……

 ハデスはヴォジャノーイ族の身体に憑依させられて。

 ハデスと共に過ごす事ができなくなる寂しい気持ちに耐えられなくて、わたしは死を受け入れたんだ。

 魂になれば、もしかしたらヴォジャノーイ族の姿のハデスとずっと一緒にいられるかも、なんて考えてしまった。

 

「ペルセポネ……痛いところはないか?」


 ハデスが心配そうに尋ねてくる。


「……うん。平気みたい」


 数千年ぶりのペルセポネの身体に軽い違和感はあるけど、痛みは無い。

 ピーちゃんが天界で傷を治してくれたからだね。

 この数千年間……

 色々な事があった。

 異世界の人間の世界に魂だけ飛ばされて、ずっとお父様が側にいてくれた。

 会話もできない、意識があるのかも分からないわたしの魂の側にずっと……

 あれ?

 そういえば、お父様の姿が見えない?


「お母様……? お父様は?」


 ベットに座り、横たわるわたしを抱きしめて泣いているお母様に尋ねる。


「色々あったから……申し訳なくて、この場にいられないのかもしれないわね」


 申し訳なくて……?


「ルミにもルゥにも酷い事をしたし……集落の人やドラゴン王にもね。今はそっとしてあげましょう?」


 ……お父様。

 そんな風に思っていたなんて。


「お母様……わたし……ごめんなさい。ファルズフに刺された時……わたし……このまま死にたいって……思って……だから……ごめんなさい」


 全部、わたしのせいなんだ。

 わたしが悪いんだよ……

 お父様はわたしの魂に、身体を与えようと一生懸命頑張ってくれただけなんだよ。

 あの時のわたしの気持ちを隠して、お父様だけを悪者にはできないよ。


「ペルセポネ……お母様が悪かったの。ハデスとの事を許していれば、こんな事にはならなかったの」


 お母様の身体が震えているのが伝わってくる。


「違う。わたしがペルセポネを無理矢理、冥界に連れ去ったからだ」


 わたしの髪を優しく撫でてくれるハデスが辛そうな顔をしている。


「ぐすっ……うぅ……」


 少し離れた場所から誰かの泣き声が聞こえてくる。


 お父様……?

 そこにいるの?


「ハデス、お母様……わたし、行かないと……」


 ベットに身体を起こすと、隣に眠っているように見えるルゥの身体が冷たくなっている事に気づく。


 あぁ……

 月海もルゥも、わたしが不幸にしてしまった……


 ……不幸?

 違う。

 幸せだったよ?

 もちろん今もね。

 わたしはペルセポネでペルセポネはわたしでしょ?

 わたしはずっと幸せだったよ?


 ルゥ……

 そうだね。

 ……ありがとう。

 本当にありがとう。


 ルゥの身体に微笑みかけると、ゆっくりベットから立ち上がる。


 魔族と第三地区の皆が静かに見守ってくれている。

 わたしの通り道を空けてくれる皆に微笑みながら進んで行くと……


 あぁ……

 お父様……

 砂浜に座り込んで泣いていたんだね。


「お父様……どうして?」


「どうして……? あの時……ペルセポネ……ごめん。ごめんね。お父様が全部悪かったんだ。ハデスとの事をデメテルちゃんに話すのが怖くて……だから……全部お父様が……」


「そうじゃないよ……」


「え……?」


「その事を責めているんじゃなくて……」


「ペルセポネ……?」


「どうして一番に抱きしめてくれないの!?」


「え?」


 泣き崩れているお父様に抱きつく。


「ずっと……側にいてくれてありがとう。お父様……本当に……ありがとう」


「ペルセポネ……! ごめんね。ごめんね」


 お父様と声を出して泣いた。

 魔族も第三地区の人達も天族の家族も……

 皆がわたしの過去を知って一緒に傷ついて……前を向かせてくれたんだ。


 しばらくして落ち着くと、空にたくさんの流れ星が見える。


「綺麗……」


「そうだな」


 ハデスが、いつのまにかわたしの隣に座っている。


「では……ペルセポネ様! 冥界に戻りましょう! もう十時ですよ?」


 冥界のケルベロスが嬉しそうに話しかけてくる。


 あぁ……

 もう今年のザクロの実の呪いの分は冥界にいたから、来年から冥界で夜を過ごす事になっているんだよね。

 ケルベロスにきちんと伝わっていなかったのかな?


「ケルベロス……あのね? それは来年からで……」


「ええっ!? そんなあぁ! 嫌です! ペルセポネ様だけがわたしの癒しなんです!」

「ペルセポネ様あああぁ!」

「それだけが楽しみだったのにぃぃ!」


 ケルベロスの三つの頭が泣きながら騒ぎだす。

 昔も、冥界での仕事が大変過ぎて、わたしに撫でられる事だけが唯一の癒しだったみたいだし。

 かわいそうになってきちゃった……


「ええ!? じゃあ天界にも来てよぉ! お父様もペルセポネと過ごしたいよぉ!」


 お父様……

 すっかりいつも通りだね。


「そうね! それがいいわ!」


 お母様まで……


「ぺるみ。そうすればいい」


 え?

 吉田のおじいちゃん?

 

「ぺるみって何?」


「んん? ペルセポネと月海るみを合体させて『ぺるみ』だ! かわいいだろ! あははは!」


 合体って……

 

「皆がぺるみを好きなんだ。皆と一緒に過ごせばもっともっとおもしろいぞ! あははは!」


「吉田のおじいちゃん……」


「月海……ばあちゃんだけが、かわいい月海を独り占めしたら申し訳ねぇからなぁ。デメテルも冥界のケルベロスも我慢してたんだ。そうしてやろう?」


「おばあちゃん……うん。ありがとう」


 おばあちゃんに抱きつくと優しく髪を撫でてくれる。


「ぺるみ……そう呼ぶからなぁ? ペルセポネの最期の話を聞いたら……月海って呼ぶのが心苦しくてなぁ。でも月海は月海だから……いつまでも、ばあちゃんのかわいい孫だからなぁ。だから、ぺるみだ」


「うん……うん」


 嬉しいよ。

 おばあちゃん……


「で? ぺるぺるは一日をどうやって分けるんだ?」


 吉田のおじいちゃん?

 今、ぺるぺるって呼んだ……?


「うーん……じゃあ、夜の十時から朝の六時までが冥界で……六時から第三地区で過ごして……お昼の二時から天界に……」


「やったぁ! もう十時を過ぎてますよ! ペルセポネ様! 時間がもったいないです! 早く冥界に帰りましょう!」


 ケルベロスがわたしを抱きかかえると空高くジャンプする。


「え? ケルベロス?」


 冥界までジャンプで行くの!?

 まだ皆にルゥの最期の姿を見守ってくれてありがとうって言っていないのに!


「みんなぁ! ありがとう! また明日ね!」


 かなり上空まで来たけど聞こえたかな?




 その時、地上では……


「やれやれ……ケルベロスにも困ったものだ。では、わたしも冥界に戻ろう。デメテル、落ち着いたか?」


「そうね。もう大丈夫よ? ハデス、また明日ね。ペルセポネをよろしくね」


「あぁ。何よりも大切にする。今度こそ……」


 ハデスが冥界に空間移動するとデメテルが重要な事を思い出す。


「ああ! どうしましょう! ハデスは知っているのかしら?」


「んん? デメテル? どうしたんだ?」


「ヨシダさん……実は……ペルセポネはモフモフに一時間に一度触れないと禁断症状が現れる特異体質なの……」


 幸せの島が静まり返る。


「嘘だろ? オレ……嫌な予感しかしないんだけど……」


 この後……ヒヨコのベリアルの呟きが現実のものとなる事をまだ誰も知らない。


新しく始まったペルセポネ達の物語をこれからもよろしくお願いします。

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