3:仮入部、そして
「ぜひわが野球部に!―――」
…おはようございます。
悠です。
「続いてバレー部の紹介を―――」
今日は一限を使って部活動紹介をしています。
……先輩方は新入部員をたくさん集めるべく、気合いの入った実演と紹介をしている。
「ねぇハルカ、もう入る部活決めた?」
「おれは陸上部に決まってるぞ」
「あんたには聞いてない」
「ガーン!」
いやコウは陸上推薦なんだから陸上部に入んなかったら裏切りでしょ。
「で、ハルカ。どうなの?やっぱり調理部?」
「いや、それ以外の部活に入ろうと思ってる。まだ決まってないけどね。」
「じゃあはる!陸上部に入ろうぜ!」
「ハルカ、文芸部なんていいんじゃない?手先器用なんだからいかせるよ、きっと」
「そうだね、面白そうだ」
「ガガーン!(無視された…)」
僕は運動神経がとてつもなく悪い。それに鈍足だ。
だからコウには悪いけど、運動部には入るつもりはないし、
陸上部なんてもってのほかだ。
「――最後は、ラグビー部の紹介です。よろしくお願いします。」
「おっ、これで最後か」
「この学校のラグビー部は、部員が少なくて困ってるらしいよ」
「そうなんだ……」
だからといって入る気はないけど。
だって怖そうだし…
「これから、ラグビー部の紹介を始めます。ラグビー部は―――」
……放課後。
今日から仮入部の期間だ。
僕は1人で見学をして周りながら入る部活を決めようと思い、香織とコウと別れていた。
「まずどこからいこうかな……」
部活動紹介の時を思い出す。
……ちなみに、最後のラグビー部の紹介は結構印象に残った。
ラグビーというならば、怖そうな大男が大勢いるのかと思っていたが……
「――高校のラグビーは、どんな人でもできます!体の小さい人でも低く姿勢をとったり、人数をかければ大きな相手も倒せます!」
「体の大きさよりも、運動能力よりも、ラグビーで求められるものは、仲間を思う気持ちです!」
「仲間を助けるための必死なタックルや、ボールへの執着心は、周りに感動を与えます!」
「心と体を鍛えたいなら、ラグビーしかありません!―――」
……意外と紹介に出てきたラグビー部員は、大男というより、むしろ細めの体型の人が多かった。
そして、実演の方は、「タッチフット」というものをやっていた。
タックルのかわりに相手をタッチすることでディフェンスするというゲームだそうだ。
ボールを持ったほうは多彩なパスやステップを使い、相手を抜こうとし、
ディフェンス側はラインを作って相手を捕まえようとしていた。どちら側も声を出し合ってコミュニケーションをとり、仲間をサポートしていた。
また、時々、攻撃側のサインプレーが決まり、綺麗にディフェンスラインを切っていったときには、「おぉ〜」と歓声が上がった。
……抜けた時はさぞ気持ちいいんだろうなぁ。
僕はラグビーはやりたくはなかったが、この「タッチフット」という遊びは少しやってみたくなった。
「…ラグビーのことはいいとして。さて、どこから回ろうかな。」
部活動紹介の紙をみる。
「………よし、文芸部から行ってみよう。」
僕は紙を見ながら文芸部の部室を目指した。
「ふう。今日はこんなものかな。」
文芸部→美術部→書道部→調理部というふうに回ってきたが、以外にも時間がかかって、もう帰らなければいけない時間になっていた。
「なんだか疲れた…」
どの部活でも部室をちょっと覗いただけで(半強制的に)招かれ、長々と勧誘された。
実績も結構あるみたいだったし、活動内容も面白そうだったが、
残念なことにどの部活も男子部員が少なすぎた。
調理部なんて女子率100%だ。
僕は香織以外の女の子とあまりしゃべったことがないので、そんな部活に入ろうとは思えなかった。
「残念だったな……」
また明日別の部活を見て回るか。
それでもいい部活が見つからなかったら誰かクラスの男子を誘ってどこかの文化部に入るか、
それでもだめだったら有一得意な水泳に入るか………だな。
「よし、帰ろう」
帰る支度を終えて教室を出る。
すると、反対側の教室からグラウンドが見え、まだ活動している運動部を見つけた。
「こんな終了時間ぎりぎりまでやっているのか……」
どこの部活だろう。
……窓の近くに行ってみてみると、すぐにわかった。
「ラグビー部か……」
「「オンサーーイド!!」」
大きな声とともにボールが空高く蹴り上げられる。
試合形式の練習をやっているのかな。
「ハイったぁ!」
ボールを取った人にきれいなタックルが決まる。
ボールは手から転がり、素早くそれにタックルした側のチームの人が拾った。
「鈴木!右だ!放れ!」
「パシッ」
すごいスピードで走りこんできた人にパスがされる。
すると、うまい具合にディフェンスの間を抜けて、そのまま走り抜けた。
「ピーーーーー!!トライ!」
どうやらトライ(相手のゴールラインの奥にあるインゴールにボールをつけること=五点)が決まったようだ。
「ナイストライ!新井さん!」
トライを取った人が声をかけられる。
なんかかなり小さい人だなけど……
三年生なのだろうか。
「ありがとな!ナイスパスだ」
……朝の「タッチフット」をやっている時とはまるで迫力が違った。
一つのボールをめぐる激しい攻防に、圧倒された。
「………。」
やっぱり僕にはあんなこと、できそうにないな。
そう思いながらも、僕は練習が終わるまで飽きることなく見ていたのだった。