3-6 明治11年・後編(上)
王子への参拝後も、ぼくは三日に一度、精養軒に通っている。だけどそれまでと違う点がひとつ。美賀子さんの仕事上がりを待って、屋敷まで送り届けるようになったんだ。上野から千駄木までは、人力車で15分ぐらい。ぼくたちはその時間で、互いに話をした。
美賀子さんの立場は複雑だった。彼女の居候先は、千駄木の華族・前田家の屋敷だ。昨年に先代が亡くなってからは、その息子が当主を務めている。彼女は12歳のとき、人買いに買われて東北から連れてこられた。千住宿で逃げようとしたところで、前田家の先代に出会った。人買いに連れ戻されるところを、先代は金を払って彼女を買い取った。いや、引き取ったという方がニュアンス的には正解だろう。
「養女にしてくれようとしたんです。奥様とご親戚から反対されて、叶いませんでしたが」
美賀子さんは女中として、屋敷で働くことになった。先代は勉強の時間を与えてくれて、簡単な読み書きは出来るようになった。それから二年後、彼女が14歳のとき、先代は知人が開業したレストランで、彼女を働かせることにした。
「英語を学んで、いろんな方と知り合えば、世界が広がるだろうと仰ってくれたんです。ほんとうに……お優しい方でした」
昨年、心疾患で倒れて先代はこの世を去った。突然のことだった。その後、息子が跡を継ぎ、彼女はいまも精養軒で働いている。
「息子さん……現当主の前田さんは、どんな方なの?」
「ご結婚されていて、小さなお子様が二人います。あの方は……先代様とは……違う考えをお持ちの方です」
「……違う考えって?」
精養軒の主な顧客は、庶民ではなく国内外の要人が占めている。彼らとの結びつきを深めることが、現当主の望みだという。
「先代様は、あたしがいずれ独立することをお望みでした。留学してもいいし、どなたか心に適う方がいれば結婚すればいいと……現当主の前田様は……顧客のなかで目星を付けていらっしゃる方々のうち……どなたかの妾になればいいとお考えです」
「なんだよそれ⁈」
ぼくは思わず声を荒げた。働いて生活の糧を得ている女性に、家のために愛人(妻でさえないとは!)になれだなんて、一体なんて奴だろう。結婚は神聖なものだ。たとえ貴族だって(ある程度は)個人の意思が尊重されるというのに。
「あたしは……遊女になるはずの女でした。屋敷に引き取られ、学んで仕事までご紹介いただいて……それだけでも過ぎたことです。前田様がお望みなら……お話を受け入れるつもりです」
「美賀子さんは……それでいいの?」
「あたしの意思など関係ありません」
「なんで?」
「なんでって……だって……あたしの意思など、どうして必要でしょう?」
「どうして……って……じゃあ、美賀子さんはどうしたいの?」
「え……」
「あなたは本当は、どうしたいの?」
「あたしは……」
黒い瞳が、まばたく度にきらめいた。
「あたしは……いろんなものを見てみたい。この東京だけではなく……いろんな物事が知りたいです」
「だったら……その気持ちを大切にしてください。自分を貶めないで、大切にして」
「そんなこと……女は皆そんなこと、考えたりはいたしません」
「それなら今から考えてください」
「……なぜ」
「……あなたが大事だからです。あなたが自分を大切にしなければ、ぼくが悲しくなります。どうか……ぼくのために、自分を尊重して。大切にしてください」
「…………なぜそんなことを」
「…………あなたが好きだから」
初めて精養軒を訪れてから、九回目の夜のことだった。
ぼくたちは屋敷に着くまで、互いに口を閉ざしていた。
車夫の息遣いだけが、夜道に響いた。
◆
三日後、また精養軒を訪れた。裏口から美賀子さんが出てくると、通りにでて人力車に乗りこんだ。先日の話には触れず、馬に乗って草地を駆けまわり、羊歯の茂る川辺を犬とともに転げまわった、幼い頃の話を聞かせた。美賀子さんは目を輝かせて、熱心に相槌をうってくれた。いつものように、車は屋敷の勝手口付近で止まった。
ぼくが先に降り、美賀子さんの手を支えて降ろした。
ふいに視線を感じて、振りかえった。勝手口に男がひとり立っていた。
「前田様……」
美賀子さんは男に頭を下げた。男は扉を顎でしゃくった。一度だけぼくを振りかえり、彼女はなにも言わず、扉のむこうに消えた。
男は立ち止まったまま、ぼくをじっと眺めていた。和装姿の30代半ば程の男だった。
「……前田と申します。美賀子の送迎は店の者に頼んでおりますが」
「……マイケル・サザランドと申します。どうぞクリブデン卿とお呼びください。英国から社会人類学の研究員として訪れて、上野の秋本さんの屋敷に滞在しています。美賀子さんの送迎はぼくから申し出たことです。どうかお咎めになりませんように」
「わざわざお手を煩わせなくとも構いませんが」
「ぼくが好きでしていることです。お気になさらず」
「……左様ですか」
男はぼくを睨めつけたあと、軽く頭を下げて、扉の奥に消えていった。ひと筋の風が吹き、男の舌打ちと吐きだした声が乗せられてきた。
「……ちっ……毛唐が」
それは小さな声だった。でもぼくには確かに聞こえた。
帰りの人力車に揺られながら、ぼくは男の声を思い返していた。驚いたのは、ぼくが大して傷ついていないことだった。不快ではあったけれど、むしろ……ぼくは心のなかで彼を嘲笑っていたんだ。井の中の蛙とは、彼のような男のことを言うのだろうなと。ガラス張りの天井をもつ駅舎も、地下を走る鉄道も、夜のリージェント通りに連なるガス灯のきらめきも、おまえには想像すらできないだろうと。ぼくのなかにも、西洋列強の支配者層であるという思いがあったんだ。この国の人間を見下す心がぼくのなかにも。それも無自覚に。ああ……なんて恥ずべきことだろう。
◆
翌日、ぼくは町田と美賀子さんと、市街に出かけた。
喫煙具屋で、アンソニーの土産用に煙管を買った。羅宇が象牙でできた珍しい品で、火皿は金で、その先は黒地に金の唐草模様になっている。瀟洒なデザインで、アンソニーの好みにも合うだろう。煙管は対のように、色違いの物があった。銀の火皿に、濃紺に銀の唐草模様。父さんの顔がぱっと浮かんだ。父さんは、自分の持ち物にはこだわりがあるけれど……東洋の煙管を使ってくれるだろうか。銀の煙管をじっと眺めていると、美賀子さんが「とても綺麗」と呟いた。ぼくは二つとも買うことにした。アンソニーも、父さんも……喜んでくれたらいいな。「きっと喜ばれます」と美賀子さんが笑ってくれた。
途中、写真館を見かけて立ち止まると、町田がすたすたと中に入っていった。ぼくたちは三人で写真を撮った。町田は写真師と二言三言、言葉を交わし、にやっと笑って、煙管をくわえて扉を開けた。写真師は、ぼくと美賀子さんにレンズを向けた。
「え?」
「あの方が、二人きりで撮ってあげろと仰いまして」
「えええ……」
美賀子さんは着物姿で椅子に腰かけ、ぼくは彼女の肩に手を添えた。渡された写真は、英国の夫婦のように見えた。
◆
夜になり、ぼくはベランダに出た。いつものように、町田が煙草を吸っていた。
「町田はさ……なに考えてんの?」
「なんの話だ?」
「ぼくを風呂屋に連れてって……美賀子さんとの仲を取り持つような真似をして……きみの目的はなに?」
「なーんだ……分かってんの。やっぱりあんたは、ばかじゃないねえ」
町田は煙草をふかしながら、嬉しそうな顔をした。
「あんた、秋本さんを滑稽だと思うか?」
「え……」
「西洋人の真似事をして、列強国に追いつこうとする……そんな日本人たちを滑稽だと思うか?」
「そんなことは……思わないけれど」
「おれは滑稽だと思うね。猿真似をしたところで、猿は猿だ。おれのこの洋装とおんなじだ。上辺だけ真似たところで、おれたちは西洋人になんてなれない」
「……ぼくたちが来なければよかったと思ってる?」
険しい視線を投げたあと……町田はふっと表情をゆるめた。
「べつにー?」
「……思ってるんだ。毛唐なんかがって」
「なんだそれ」
「美賀子さんを送ってったら……前田家の当主に言われた」
「はっ……あほらし」
小馬鹿にするように嗤われて、ぼくは眉をひそめた。
目の前の嘲笑が、揶揄うような笑みに変わった。
「あんたに言ってないよ。なあ……あんたの国はでかいんだろ?」
「ああ。大英帝国は……大きいよ」
「おれはね、士族の三男だ。御一新はおれが十歳のときだった。親父はあっさりと髷を落とした。へえ、こんなにあっけなく世の中は変わるもんなのか、ってね。子どもながらに驚いたねえ。おれはあんたたちが好きでもないし、嫌いでもない。英国でも米国でも、そんなにでかいんなら、遅かれ早かれこうなったんだろう。政府のお偉方が滑稽だとは思うが、前田のような男はもっと阿呆だと思うね。相手の力量も知らずに吠える犬みたいなもんだ」
皮肉めいた言葉を語りながらも、町田の目は優しかった。ぼくは黙って彼の声に耳を傾けた。
「おれはねえ……淋しいんだろうね」
「…………」
「子どもの頃に馴染んだ景色がどんどん消えていく。お偉方があんたたちの国を真似て、あちこち変えて、どんどん壊して、それが正しいことだって……なあ。あんたは見ただろう? 風呂屋の光景も、王子の自然も。あれだって、あと数十年……いやそんなには持たないだろうね。あんたが次に来たときは、きっと消えてるよ。この国は変わる。二度ともとには戻らないだろう」
「…………」
「あんたは最初から、おれと車夫と一緒に自分の手で荷物を運んだ。人力車にも馬にも乗らず、町を歩いた。風呂だって覗き見るだけじゃなく、一緒に入った。美賀子を……日本の女を自国の女とおんなじように扱った。あんたみたいな西洋人なら……消えていく景色を記憶に留めてくれて、いつか一緒に懐かしんでくれるかもなあ、なんてね。思ったんだよ、マイケル」
「…………うん。でも……ぼくは……前田さんを見下したよ。ぼくだって、他の西洋人と変わらない。差別の心がないわけじゃない」
「はっ。ま、自覚があるだけいんじゃない? そんなの、言わなきゃ分かんないのになあ。あんたも馬鹿正直だねえ、マイケル?」
楽しそうに見つめられて、ぼくは口を尖らせた。
「それになあ、面白いじゃないか」
「……え?」
「日本人の女と英国のお貴族様が所帯を持つなんて、な。みんなびっくりするだろうよ。そうやって血が混ざりあっていったなら……いつか西洋だとか東洋だとか、そんなんじゃない、違う文化が生まれるのかねえ?」
「それは……とても興味深いけれど。すぐには難しいんじゃないかな」
「冗談だ。そんな大層なこと期待してるわけじゃないよ。ただ面白がってるだけ。まあ、あんたらが一緒になったら祝ってやるよ」
「町田は……なんとも思ってないの? 美賀子さんのこと。きれいな女だって言ってただろう?」
「おれは秋本さんの三女と結婚するんでね」
「そう……なんだ」
「そう。暗黙の了解、てやつだ。いまは彼女の家庭教師をしてる。おれが東大を卒業して官吏になれば結婚するだろう」
「好きなの?」
「はっ、まだ13歳だぜ? 好きも嫌いもない。そういう約束ってことだ」
「……そっか」
「あんたは? どうするんだ? 美賀子のこと。仲良くなって、いい思い出をつくって、一年後にはさよならか?」
「ぼくは…………」
ぼくは口を閉ざした。町田は真面目な顔で、白い煙をたなびかせていた。
見上げれば、まるみを帯びた月が黄金色に輝いていた。
◆
部屋に戻ると、ぼくは懐中時計の裏蓋を開けた。この時計は、母さんが亡くなる一年前、ぼくが十歳のときに渡された物だ。裏蓋は二重構造になり、隠し蓋がついている。ぼくと母さんだけの秘密だった。中身は母さんの写真と髪の毛だ。母さんは、自分が亡くなったあと、父さんが自分の写真を仕舞いこむだろうと予想した。ぼくがいつまでも、母さんの死に執着しないようにと。そして実際、父さんはそうしたし、今なら、その気持ちも分からないわけじゃない。でも11歳のぼくは悲しくて淋しくて、その度に懐中時計の裏蓋を開けた。にっこりと笑う母さんの写真に、何度慰められたことだろう。母さんは懐中時計を渡しながら、悲しいときは悲しんでいいと言ってくれた。いつか時間が経てば忘れるのだから、それまでは、無理に忘れなくてもいいのだと。
母さんの髪の毛と写真を取りだして、ぼくはハンカチで包みこんだ。それから隠し蓋のなかに、昼間撮った写真と、ぼくの髪の毛をひと房入れた。
◆
翌日、精養軒を訪れたあと、ぼくは人力車には向かわずに、美賀子さんを不忍池のほとりに連れていった。満月が水面のなかで揺らめき、木々が黒い影を落とし、空気はしんと冷えきって、初冬の静かな夜だった。ぼくは懐中時計を手にして、それを美賀子さんの手のひらに乗せた。黒い瞳が大きくなり、時計とぼくとを交互に見やった。
「これは……?」
「ぼくの懐中時計です。母の形見のような物です」
ぼくは裏蓋を開いてみせた。彼女は驚いた顔で、ぼくを見つめた。
「あなたに貰ってほしいんです」
「そんな大事な物を……」
「ぼくと結婚して貰えませんか」
美賀子さんは息を呑んだ。ぼくは彼女から目をはなさなかった。
「あなたとどうなりたいのか、昨晩中考えていました。一年後、何事もなかったかのように英国に戻って、誰かと結婚することは……ぼくには考えられなかった。ぼくはあなたが好きです。一生を添い遂げる相手は、あなたがいい。お願いします。ぼくと一緒に英国に来てくれませんか」
「…………あなたは……貴族の御方だと……」
「……そうです」
「あたしが……あたしには……あたしなど……とても無理です。そんな……貴族の御方と結婚だなどと……反対されるに決まってます」
「自分を卑下しないでください。言ったでしょう? 自分を大切にしてくださいと。ぼくが、あなたがいいんです。それにぼくは貴族の御方ではなくて、マイケルです。いや……ミカと。できたら……そう呼んでほしいんだけど」
「そんな……無理です……そんなこと……とても」
「呼んでください。ミカと」
「そんなに……見つめないでください。顔に穴があきそうです……」
「では…………見つめるのはやめましょう」
ぼくは彼女の細い頤にふれた。唇は、軽く重ねただけだった。それでも美賀子さんは息を止め、大きな瞳をさらにひろげた。潤んで見えたのは、月明りのせいだろうか。
「…………どうしたらいいんでしょう」
「…………ミカと。そう呼んでくれたらいいんです」
「…………ミカ」
「……そう。それでいいんですよ」
ぼくたちは、再び唇を重ねた。彼女のなかは日向の朝露のようだった。
翌日、クリスマスの挨拶(当日には間に合わないけれど)とともに、父さんに「結婚したい女性がいる」と手紙を書いて送った。
ぼくは相変わらず、精養軒に通っていた。人力車のうえで、互いに言葉を交わしながら……ぼくたちは手を触れあわせ、人影が途絶えると唇を重ねた。次第に雪がちらつくようになった。そんな夜は、着物越しの美賀子がひときわ温かく感じられた。
クリスマス・イブも、特別なことはしなかった。ただ美賀子と手を繋いで、不忍池のまわりを散策した。池には弁天島がうかび、島に続く道の両脇に茶屋が立ち並んでいる。暗闇のなかに点々と、黄色の明かりが輝いていた。ぼくはリージェント通りのショーウインドーを思い出して、頬がゆるんだ。
「どうされました?」
小首を傾げる美賀子に、ぼくは笑って、クリスマス・キャロルを口ずさんだ。歌詞と意味を教えたら、彼女も一緒に歌ってくれた。雪がメトロノームのように、しんしんと落ちてきて……ぼくたちは月のない夜の道を、声を重ねながら一緒に歩いた。
クリスマス当日、朝食の席で、秋本さんは(いつもの和食を食べながら)、困惑した様子でぼくの顔を窺っていた。
「そのう……噂を耳にしましてな。あなたがある女性を気に入っていると……クリブデン卿。あなたは……その。美賀子とかいう給仕をあなたの滞在中……身の回りの世話をさせる女中として、側におきたいとお望みでしょうな?」
「は?」
「いや! あのですな……精養軒の支配人は、あまりそういうことに良い顔をしませんが……それに前田家の当主が……先代は見識を備えた御方でしたが……どうもあの男は狭量で話が通じにくい……ああいや失礼いたしました。まあとにかく、わたしが打診してみましょう」
「女中ではありません。ぼくは彼女と結婚したいんです」
秋本さんは、餅のような二重あごを撫で、小さな目をしょぼしょぼさせた。
「は……はっ⁈」
「ぼくは美賀子さんと結婚したいんです。あなたに協力していただけるなら、ありがたいのですが」
秋本さんは、信じられないといった顔で、口をぱくぱく開き、えー、あー、などと言葉を濁して「失礼」と言い慌てて席を立った。
町田は目を細め、なにも言わず煙管に火をつけた。
数日後、夕食の席で、秋本さんは、申し訳なさそうに首を横にふった。
「あの朝に、公爵に電報を打ちましてな……もしあの御方がご賛同なさるなら、わたしも協力はやぶさかではありません。しかし……話にならない。諦めさせろ……と一蹴なさりました。すみません、クリブデン卿。この件で、あなたをお助けすることはできません」
ぼくは父さんに電報を打った。「この話を続けるならば、送金を止める」と返事がきた。年の瀬の、桶に張った水が凍るような朝のことだった。ぼくは氷を叩いて割った。肌が切れて水に赤い筋が流れていった。ぼくにはなんの力もない。秋本さんや公使館の皆や精養軒の支配人が良くしてくれるのは、ぼくが公爵家の息子だからだ。ぼく自身には……なんの力もない。
血はすぐに止まった。まだ八カ月の猶予がある。なんとか父さんを説得して、美賀子を英国に連れて帰ろう。ぼくはそう心に決めた。
年末年始は、町田は生家に帰り、ぼくは秋本さんの家族や親戚とともに過ごした。公使館にも挨拶に伺って、サー・ハリー・パークスご夫妻たちと、シャンパンで祝った。やがて町田が戻り、土産だと羊羹を渡された。竹の皮に包まれた蒸し羊羹で、切るとふわりといい香りが漂った。
◆
年明けから一週間が過ぎた。夕方から雨が降り始め、闇が深まるにつれて激しさを増した。ぼくは紅茶を飲みながら、暖炉の前に腰かけて、本を膝に乗せて半分眠りかけていた。コツコツコツと窓を叩く音がした。風で小石が舞っているんだろう。そう思ったが、音はいつまでも鳴り止まない。ぼくは窓に目をむけて、小さな悲鳴を上げた。窓のむこうには……ずぶ濡れの美賀子が立っていた。




