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第六話 燃える心と消え逝く魂

若干シリアス含みます。

念の為にかけたR15はこのときのためです。

いよいよ決戦。

「俺の梁山泊の中ではすべての事柄が不規則だ。よって、術の発動時間もイレギュラー。牧原はまともに動くことすらままならんだろう。だが、俺はこれをコントロールできる。さあ牧原、どうする。」


善田の自念結界「梁山泊」。重力以外すべての物理法則が存在せず、善田が意識して発現させない限りその空間は異空間そのもの。


勿論、慣性も摩擦もない。


投げたものは指から離れた瞬間に地に落ち、ものを地面に転がすと永久に滑り続ける。


初見なら、そのトリッキーさに面食らうことだろう。


善田は牧原の口が不自然に動いたり手が印を結ぼうとする瞬間に時間を引き伸ばし、術の発動を遅らせて叩くつもりであった。


「善田。お前は考え方が古いんだよ。だから駄目なんだ。だからいつまでも参謀止まりなんだよ」


だが、牧原はさして気にもとめない様子で言った。


「術の発動に詠唱や印が必要な時代は終わったんだ!」


---------------------------------------------------------



緑溢れる湖畔は、一瞬のうちに火の海へと変貌した。


あまりにも急であった。


「何故だ....発火燃焼は....入れていないはずだ....」


「頭が硬いな。だから、そういうところが古いと言っておるんだ。」


「牧原!何をした!?」


善田は驚きを隠せなかった。


「これだ。」


答えの代わりと言わんばかりに、一つの小さな鉄片のようなものを見せた。


「私の話をまともに聞いていれば分かってくれるかと思ったが。これが霊術派の科学そのものだ」


善田は瞬時に理解した。


「想像だが、その金属片に術を封じ込めるかなにかして、それをさっき発動させたんだろう。お前が持っているのはそれだけではないな?」


「当ててみろ」


「最低でも3つ。」


「ご明察。」


牧原は感心したように言った。


牧原がやったことは実に簡単。超強力な橙結界の発動で善田の自念結界を一瞬妨害して効果を減退、発火物系をバラ撒く術、火花を発生させる術を発動した。



「もし直にこれだけ大規模に燃やす術を発動するのでは一瞬のうちに発動できないし、そもそも自念結界なしでも俺にバレてしまうからな。」


善田の言う通りであった。


「これで貴様のフィールドは最早意味をなくした。私の圧倒的有利というわけだ。霊術派は古臭いアナログな幻術なんかよりもより未来性がある。お前もこちらに来い。働かせてやろう。最も、私はお前が嫌いだから下働きだろうがな」


「そんな誘いに乗ると思っているのかよ...グホッ.」


善田は相当消耗していた。体の中を焼けるような苦痛が走る。


「焼ける....延焼..まさか」


「独り言か?そんなに弱って、私に勝てるとでも?」


「お前という奴はなんという....ああ情けない。」


善田は頭を抱える。

誤算、いや、大誤算があった。


「ん?自分の無力さに今更気がついたか?無理もない。なにせ力の差が圧倒的すぎるからな」


「ああ、圧倒的だ。どうしようもないほどにな」


牧原はほくそ笑んだ。


「お?投降するか?大歓迎だぞ。」


「何を勘違いしてやがる。お前と俺じゃ”俺が”圧倒的すぎて勝負にならんと言っているんだ」


善田は牧原を睨みつけた。


「その割には、余裕がないように見えますがねぇ?」


「そうかな?よく周りを見てみろ」


「目をそらしている間に攻撃しようとでも?あがいても無駄.....何ッ」


見ると周囲で激しく燃えていた炎は善田の周りからは消え、牧原の方へどんどん進んでいっているではないか。


「何だこれは!善田!何をした!」


「何もしてない、と言ったら嘘になるか。お前が出した炎の条件をいじれないか試していたら、偶然その炎が近くに飛び火したんでな。炎の条件はいじれなかったが、延焼するという条件があることに気がつけたわけだ。それで、お前の周囲の地面を可燃物に変えておいた。ただそれだけだ。」


善田は淡々と答えた。


善田の誤算。それは、自分の自念結界(フィールド)を火の海にされたあと、結界が強制解除されたと誤解していたことであった。


実際は自念結界はそのまま。そしてその燃焼のダメージは、自念結界の特徴に則り善田自身に作用していた。


気付くのが遅れたせいで、彼は見た目の上では無傷だが、彼の精神は限界を迎えている。内側から燃やされるような苦しみを感じていた。


「お前には周りが見えていなかったのだ。これまでもそうだった。お前が霊術に鞍替えしようが、それが治っていないんじゃあ結果は同じさ。」


”周りが見えていない”

これは自分へ向けた言葉でもある。仲間を助けられなかったこと。結界を誤解していたこと。

仲間の無念もこめて。


「牧原。お前は屑だ。二度と我々の前に姿を現すことを禁じる。」


「善田!お前!覚悟しておけよ。いずれ俺の部下たちが、お前を殺しにくるぞ!お前なんてえええええええ!」


段々と火が牧原を襲う。焼ける熱さと痛みで悶える牧原の断末魔は、強く善田の頭に響いていたが、やがて静寂に飲まれた。


「残念だったな。その部下というやつはもう動きようがない。本部の術士がもう到着したようなんでな。」


善田は自念結界を解除した。


「お前の言うように霊術は科学的に使っていた。だが、所詮それは人工の産物。力を見誤ったな。」


見ると十数人の術士が逃げようとした数人の霊術師を捕まえ、待機しているようだった。


「おい!蒼月派はいるか?こいつが負傷している!手当してやれ!」


枢院はどうやら軽傷で済んだようで、気を失って倒れていた。すぐさま術士に治療を指示する。


すると、


「善田。」


声が聞こえた。


「仙鷹寺じゃないか。来てたんやな」


霊能者の襲撃を重く見た八百条が、仙鷹寺を戦線本部の長として送ったのである。


「親友のピンチときいて、何もしない友人(ひと)がいるか?」


仙鷹寺は笑って言った。


「お前も負傷しているじゃないか。」


「何を言ってるんだよ。この通り軽傷。絆創膏でなおる」


カラ元気を出して仙鷹寺に見栄を張ってみる。


「ふざけるなトシ。そんなやつれて何が軽傷だ。自念結界でも使ったか?」


真面目な眼差しで善田を見る仙鷹寺。図星であった。


「ああ、まあ、ちょっとな」


「あれだけ使うなと言っただろうが!」


そこには本気で怒る仙鷹寺の姿があった。


「その感じだと結界燃やされたか?死ぬぞお前!」


その剣幕に思わず俯き、一言、


「すまん」


「まあいい。ともかく、無事で良かったよ。」


微笑む仙鷹寺。そこには安堵の表情があった。


「命令だ、トシ。今からお前は真っ直ぐ戦線本部へ向かい、最優先で治療を受けろ。俺はこれから現場検証がある。」


「じゃ、そうさせてもらおうかな。」


善田はそう言うと去っていく。


「あ、そうそう。」


仙鷹寺は何かを思い出したように言った。


「うちの枢院くんはどうだったよ?」


立ち止まった善田は少し考えると、微笑んで言った。


「まだ残る青さはともかく。素晴らしい術士だった。また会って、共に戦ってみたいものだよ」


と。


人物簿


枢院健士

碧水派陽術士。

幻影を従える数少ない術士の一人。特に又蛇(またへび)には懐かれすぎているほど。

同年代の央宮、近衛とは親友。



仙鷹寺(せんようじ)奏也(そうや)

18歳。大学生。モテるらしいが、本人はダルがっている。

五寺が一家、仙鷹寺の当主。

陽炎派陽術士、ということになっているが、実際は蒼月以外のすべてを扱える。

苑佐での通り名「幻術界の最高戦力(バケモノ)

面倒くさがり屋。

10歳で苑佐との最終決戦に駆り出され生き残った数少ない術士。

央宮とは幼馴染。

枢院・善田編はこれにて終了。

次回からテーマが変わります。

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