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魔導騎士物語

テイルグラシア共和国大議事堂に首長国各国の最新鋭魔導騎士(ムービングドール)が勇ましい巨体を台座に王者の風格を醸し出し鎮座している。

魔導騎士はそれぞれの国の要の武装の一つ。力の証。

最新鋭の魔導騎士が鎮座するなかに風化し体躯の大部分が石化風化をして顔面装甲も七割崩れたみすぼらしい姿の魔導騎士が静かに鎮座している。


「ふん、いつまで貴国は始まりの魔導騎士を盾に共和国代表議長国でいるつもりなんだ?」


白の最新鋭の魔導騎士の前に座る獅子の獣亜人のタイギレイ国王が声をあげる。


「確かに。タイギレイ国王の言葉も最もだ。いくら我らの上位種のハイエルフ王国とはいえ稼働も出来ないただの置物の始まりの魔導騎士に縋る貴国は議長を退くべきでは無いのか?」


最新鋭の漆黒の魔導騎士の前に座る若いダークエルフのフォルタプル国王も続けて声をあげる。

フォルタプル王国は近年タイギレイ王国と近密となっている。

共和国となり強大な国家となり敵対国が近隣諸国にほぼ居なくなり百ハ十六年間平和を享受していた。共和国各国は魔導騎士の最新鋭化と武装強化を行い主に中型魔獣退治で獲た魔石交易でそれぞれの国は潤っていた。

しかしその煽りをテレスターレ王国は食っていた。

共和国の近隣諸国が過剰に国境沿いで行う魔獣退治でテレスターレ国内に魔獣が近付けず魔石交易も他国程出来ない。

しかし肥沃な大地のお陰で農作物の交易輸出で王国の収入は安定している。


「テレスターレ王代理よ。そなたの国の意地も解らぬではない。しかし唯一の魔導騎士の稼働もままならぬ貴国が議長国と言うのも考えものでは無いか?我々は共和国だ。決して敵対的している訳では無い。アブグレイブは最早、力の証とは言えぬ姿では無いか。この場より魔導騎士保存館で庶民に保ったお姿を御披露目しその記憶に残し行くのがアブグレイブの役目では無いか?」


茶塗装の魔導騎士の前に座る若いドワーフのダイザーフ国王も鼻息に笑いをかけて続けて声をあげる。

その言葉に発言権の無い小国の代表達からも賛同の声が上がる。

(アブグレイブだって好き好んでここにいるのでは無いのに!)

テレスターレ国王代理として各国の王達から蔑む様な視線を浴びる事に耐えているテレスターレ王女ミレーニアは項垂れている。

三人の兄王子達は交易のために諸外国に出掛けており父の国王もアブグレイブ達の修復作業の疲れからの体調不良で寝込んでいる。

ミレーニアは仕方なく共和国議会に代理として来ているに過ぎないのだが。

他国からの風当たりが思った以上に強く妬みにも捉えられる。

(アブグレイブは唯一の始まりの魔導騎士ではありませんわ!何も知らない方々は!デノグレイブスを纏える魔装騎士がこの場に居れば…ウィフィー兄叔父様がこの場にいらしたならば…)


ミレーニアは瞳に悔し涙を溜めゆっくりと振り返りアブグレイブを見上げる。

装甲のあちらこちらに大小の亀裂が走りミレーニアが幼い頃に比べれば石化もかなり進んでいる。

顔面装甲も剥がれ落ち雄々しく凛々しかった姿も見る影も無い。

アブグレイブもミレーニアを静かに優しく見下ろしているかのようだった。


(小娘が国王代理だと?忌々しい!我々も舐められたものだ!この議会で議長の座からテレスターレ王国をなんとしても引き摺り落とさねばな。共和国代表が一同に次に揃うのは5年後だ。なんとしても我が国が議長国となり共和国の主導権をおさめる為に!鍵の主導権さえあればあの忌々しいみすぼらしい半石像を見るのも今年迄だ!)


タイギレイ国王は野望の炎を募らせていた。

しかし各国はあまり強く意見は出来ない。


敵対はしたくはないが目障りには思うのだ。

議会で大国の傘の下で賛同し馴染みのある大国が議長国になればとそのお零れをとすり寄っている。


(これは議会ではありませんわ…共和国議会と言う名ばかりの国落としではありませんか。ならばアタクシもこのまま舐められたままではありませんわ!)


ミレーニアは最後の切り札を切る覚悟をする。

父の国王も兄王子達も共和国を保つ為に平和の為にと我慢をしてきた。


しかし各国のこの態度は目に余るものだ。

いくら若く見えようともこの各国代表達よりもミレーニアの方が年齢は上なのだ。

見下される謂れはない。

ミレーニアの瞳に凛とした魔力の輝きが宿る。


「ならばアタクシからもテレスターレ王国代表として本会議にて我が国からの交易品の値上げを申し上げます!今まで購入費を滞納していた国々にも即時支払い請求を致します!我が国が今まで低価格で輸出していた品々も適正価格での交易と致します!我が国のアブグレイブからの技術供与も全て今後五十年間停止しアブグレイブの技術を使用した魔導騎士から技術使用料を魔導騎士建造年からの徴収も行います!その徴収を断ると言うのならばアタクシにも考えがあります!アタクシの見た目が若く見えようともアタクシは貴方方よりも年齢は重ねております!見下される謂れはありませんわ!貴方方には本当にがっかり致しました!何ですか!戦が無くなって平和に過ごして要ることに不満なのですか?魔導騎士がいくら最新鋭となっても魔導核の起動技術は我が国のからの技術が無ければ貴方方の魔導騎士もアブグレイブと同じくただの置物となる事をお忘れの様ですわね!アタクシ本当に怒り心頭ですわ!共和国という馴れ合いの終わりの様ですね!何か勘違いをしているようですが魔導核の起動は物理的な物ではありませんわ!アタクシ怒髪天ですわ!全ての魔導力核よ!ミレーニアの名においてその仮初めの命の稼働停止を命じます!」


ミレーニアの言葉に怒りが滲み先ほど迄の弱々しい姫君と違う態度に各国代表達は狼狽え始める。

共和国となり馴れ合いが続き薄れ忘れかけていた。

テレスターレ王国は共和国最強のハイエルフの魔導国家だと言うことを。

共和国の要だと言うことを。


先の戦では戦女神の降臨と吟われたミカサリーヌの娘のミレーニアに暴言に近い言葉を投げ付けていた。

今まで威風堂々と鎮座していた国々の魔導騎士達が次々に力無く項垂れ始める。

議事堂内からざわめきが上がり始める。


「テレスターレ議長代理!御再考を!ミレーニア殿下!これでは共和国を保つが出来ませぬ!どうか御再考を!国が!民が戦火に晒されてしまう!御再考を!」


「我がテレスターレ王国が議長国なのが気に入らないので御座いましょ?ミレーニアはテレスターレ王国は議長国の辞意を示したまでですわ。貴国の魔導騎士が最新鋭?所詮アブグレイブの模造品の傀儡が?傀儡が力の証なのでしょ?先にテレスターレ王国に敵対視してきたのは貴方方ですわ!本会議での貴方方の発言は全て書記官達によって記録されていますわ!」


議事堂の扉が大きな激突音をあげ開かれるとテレスターレ王妃ミカサリーヌが美しい顔に怒りの形相で声をあげる。ミレーニアが魔導力を行使したのを感じ迎賓館より急ぎミカサリーヌは議事堂にやってきた。

テレスターレ王国において最も怒らせてはいけないミカサリーヌを怒らせてしまった。

ミカサリーヌの提案で共和国という同盟国となった事を百ハ十年という年月の平和で忘れていた。


「フォルタプル国王?共和国は終わりと言うことですのでテレスターレ王国は貴国と協定全てを破棄致します。貴国との魔石交易を全面禁止とします。ああ、魔導騎士が動かないのでは討伐もままならないでしょうね。魔境の魔獣に貴国が蹂躙されてしまうかも知れませんね?わたくしの愛機アブグレイブを貶した事は許しがたいですわね!タイギレイ国王?あなたも!」


ミカサリーヌの冷たい突き抜く様な視線がフォルタプル国王を射貫く。

フォルタプル国王は唇をわなわなと震わせうつむき冷たい汗を顔から滴らせる。

フォルタプル国王は見た目が自分より若く見えるミレーニアを見下していた。

自惚れていた。

ミレーニアがここまでの強権を発動出来るとは思って居なかった。


「違うのだ!ミカサリーヌ王妃!アブグレイブを貶したのではないのだ。我が国の魔導騎士達を停止されたら我が国は隣国のバルガノール帝国から進攻されてしまう!ミカサリーヌ王妃!御再考を!」


獣人国王がミカサリーヌにすがり付く。

ミカサリーヌは目も繰れずに言い放つ。


「魔導騎士達に稼働停止を命じたのはわたくしではありませんわ。ミレーニアですわね。貴方が縋るのはわたくしではありませんわね。優しいミレーニアを怒らせてしまったのは貴方方ですわ!休眠状態のアブグレイブを無理矢理この場に引き摺り出したのも貴方方では?先の大戦での損傷を癒しているアブグレイブを毎年治癒庫からこの場迄わざわざ移動させ輸送に紛れて損傷を増やそうとの浅はかな考えも!今年の間者達も全て捕らえましたわ!模造品を作った程度で自惚れたようですわね。模造品は所詮模造品。外見だけの傀儡だと言うことに気付かない愚かな者達だ事。今後起きる魔人族との戦も御自身達で行って下さいませ。ダークエルフの貴方はまたあちらこちらと身を置くと良いですわね。フォルタプル国王?もし我が王国と交えると言うならばわが親族内の随一の強者を竜騎士ウィルフィルムを更に魔族を狩り滅ぼしかけた魔族を狩る悪魔 魔装機神デノグレクブスを先陣に致しますので御覚悟を!」


最新鋭の魔導騎士と言っても魔導核の建造も稼働もテレスターレ王国ではないと出来ない。

魔導核を起動させるほどの魔力を保有した魔導騎士が居ないのだ。

起動後の魔導騎士の操縦が出来る騎士が居るだけなのだ。





フィルの背中に一瞬強烈な寒気が走った。


「…風邪か?寒くなって来たからな…気を付けなければ。ミリュム寒くないか?」


フィルの膝の上で大人しく絵本を読んで居るミリュムの頭を撫でフィルは優しく声をかける。ミリュムは何度も頷いて笑顔で絵本を読んでいた。

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