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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第三章 暗躍しているつもりは無いのですが
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92話 太眉芋虫

 穏やかな日差しが体を包み込むと、それまで我慢していたのぞけ(・・・)がのぼって来る。


「ふぁ~~」


 我慢できずに大きく欠伸をした正巳は、それを誤魔化すように伸び上がると呟いた。


「みんな寝ちゃったな……」


 そこには其々、丸まったりうつ伏せになったりして眠る子供達の姿があった。


 どうやら、朝からハイテンションだった子供達も、昼食を終え太陽がてっぺんを過ぎる頃にはエネルギー切れになっていたらしい。普段通りであれば、一時間ほどで目を覚ます筈だ。


「目が覚めたらまた大変そうだ」


 充電完了した子供達の姿を想像しながら苦笑する。


 朝の時点での子供達を十段階のうち三とすれば、昼寝から起きた子供達はその倍以上。七はあると言って良い。ちなみに、Maxになるのは夜で寝る前の時間帯だ。


 ……こうして寝ていれば天使なんだけどな。


 気持ち良さそうにして眠る子供達を順に見て行くと、その中に混じって眠る少女の姿がある。生まれも育ちも違うのに、こうして見ていると、まるで兄弟姉妹のように見えてくるから不思議だ。


 寝息を立てて眠るヒトミに苦笑しながら、何か悪戯でもしてやろと思った。


 髭を描くか、それとも……。


 考えながら手を伸ばすも、伸ばした先に目当ての物は無かった。


「そうか、片付けたんだったな」


 以前そこには腰の高さほどの棚があり、その中には文具が入っていた。それが、子供達が来た事でつまづいたりぶつかったりしては危ないと、二階に片付けていたのだ。


 取りに行くかと立ち上がった正巳だったが、廊下に出た所でやって来るファスの姿が見えた。


「ちょうど良かった。ペンを――」

「正巳様、ご報告が――」


 目が合ったファスに口を開くも、余程の急用だったのか声が重なった。


「申し訳ありません。ペンでしたらこちらに……」


 そう言って胸ポケットから二種類のペンを出すので、反射的に礼を言うと太い方を受け取った。


「それで報告と言うのは?」


 戻りながら聞くと、それに頷いたファスが落ち着いた様子で言った。


「先程連絡があり、国府田(こくふだ)様が亡くなられたとの事です」


 一瞬誰の事を言っているのかと首を傾げるも、つい先日都市開発計画の際何度も上がった名前だったなと思い出した。続けて、そう言えばそれ以前にも一度見た名前だったなと言う事も……。


 すぐに顔と名前が一致しなかった正巳だったが、これには理由があった。


 と言うのも、普段呼ぶときに目にするのはもう一方の名前であり、こちらの本名は一度も本人から聞いた事は無かった為だった。正巳自身、書類に目を通していなければ知る事は無かっただろう。


 国府田国安――亡くなったのは、大地主であり正巳もお世話になったお爺さんだった。最近では子供達もお世話になっており、少なからず関わりの深い人物だった。


 正巳は少し頑固な処のある怖いお爺さんとして認知していたものの、子供達からすれば遊び相手だったのかも知れない。伸ばしていた手を途中で止めた正巳は、状況を理解し言った。


「原因は何だ?」

「寿命だそうです」


「例の病気でなくてか?」

「はい、そちらは抑えられていた様ですので」


 続けて「確かに病気による体力の低下もあるでしょうが」と言ったファスは、残念ですと目を伏せる。本当の処は分からないが、ファスが言うのであればそうなのだろう。


「そうか、ご高齢だったからな……」


 そう呟いた正巳は、深く呼吸をすると息を整え言った。


「葬式はいつだ?」

明後日(みょうごにち)の夕方、十七時からと言う事です」


 それに頷いた正巳は、出席すると伝えるとふと思った。


「……なぁ、こいつらも連れて行くわけに行かないか?」


 薄々難しいだろうなと思いながら聞いた正巳だったが、目を閉じ小さく首を振ったファスを見て短く息を吐いた。仕方のない事ではある。あるが……


 このままでは子供達にとっても良くないだろう。


 目を閉じ顎に手を当てると考え始めた。


 そもそも子供達を連れて行けないのは、その姿を大勢の視線に晒してしまう事で、生じる問題があるからだ。この問題は、子供達の身の安全にかかわる事であって、軽く扱う事は出来ない。


「であればやはり……」


 現状と避けなければならない事とを整理した正巳は、再び向き直ると言った。


「急で悪いが、今日か明日でアポを取れないか?」

「それは国府田様にでしょうか?」


「ああ。出来れば人払いも頼みたい」

「子供らも連れて行かれると?」


「そうだ。他に人がいなければ問題ないだろう?」

「そこまでする理由、お聞きしてもよろしいですか?」


 ファスからしてみれば、敢えてする必要があるようには思えないのだろう。どう答えたものかと思ったが、遊びに行って楽しかったと話してくれた時の子供達の顔を、思い出して言った。


「きちんと別れを教えるのも"教育"だからな」


 それに直ぐには答えなかったものの、やがて何かを思い出すかのように頷いた後で言った。


「明日は難しいでしょうが、本日中であれば可能かと」

「本当か?」

「ええ、何時に向かいましょうか」


 もしかするとファスは、この展開を読んでいたのかも知れない。とんとん拍子に進む話に困惑するも、一度落ち着かせるともう一度子供達の顔を見てから答えた。


「そうだな、夕食を終えてから向かおう」


 場合によっては、食事どころで無くなる子も出るかも知れない。もしそうなっては、今度は別の心配を抱える事になるだろう。夕食を終えてからと言った正巳に「私もその意見には賛成です」と頷いたファスは、早速準備をして来ますと下がって行った。



 ◆◇



 その後、日が傾き始めた処で目を覚まし始めた子供達は、夕食は何ですかと元気に合唱をしていた。食卓の席にはファスの姿があったが、どうやら準備の方は終えて来たらしい。


 夕食の席は、珍しく大人の面子も揃っていた。


 休日であればまだしも、平日の夕食ではそうそうない事だったが、子供達は少しも疑問に思う様子もなく「みんなでご飯だね」と楽しそうだった。


 ヒトミ含めた大人の面々には、前もってお爺さんが亡くなった事は伝えていたものの、特に夕食に集まって欲しいと言った訳ではない。どうやら其々が、子供達を心配して集まったらしかった。


 普段より賑やかな夕食を終えると、インシュンとレフィーナが話があると子供達を集めた。これは二人と話して決めた事だったが、二人が"親"として責任を果たしたいとの事だった。


 子供達全員がそこで理解できたかは怪しい処ではあったが、二人の話を聞いた後「最後に挨拶をしたい人はいる?」と聞かれ、ほぼ(・・)全員が頷いていた。


 一人頷かなかったのは意外な事にシュアンだった。


 話を聞けば、どうやら「さよならをしたら本当に居なくなってしまうから」と言う事らしかった。それで、どうしようかと視線を向けて来たインシュンとレフィーナに「自分が見ておくから行ってこい」と言った。


 本人が行かないと言っているのだ。


 それを無理に連れて行っては、きっとシュアンの心に余計な負担をかける事になる。


 近くまで来たシュアンを膝に抱えると、出て行く子供達を見送った。出て行くとき、何を考えたのかホアンが自分も残ると言い出したが、まだ小さい事もあって正巳が見ている事になった。


 出て行った子供達と、出発した車の音が遠ざかったのを確認したのだろう。膝の上で丸まっていたシュアンは、「ごめんなさい」と小さく言った。


 それに「大丈夫だ」と答えた正巳は、シュアンの緊張が取れるまでしばらくそのままでいた。


 その後、ようやく普段の様子に戻ったシュアンは、ふと正巳のポケットにペンが入っているのを見つけると「どうしてペンを持ってるの?」と聞いて来た。


 それで、そのペンでヒトミの顔に悪戯しようとしていたんだと言うと、「楽しそう」と笑っていた。恐らくだが、ヒトミはそれを聞いていたのだろう。


 不自然な動きで寄って来たヒトミが、何故だか直ぐ近くの床で寝始めた。


 その様子を見たシュアンが悪戯を思いついたという顔で「今ならお姉ちゃんにいたずら出来るね」と言って来たので、笑いながらそうだなと答えた。


 こういう時のヒトミの行動には、つくづく頭が上がらない。


 寝たふりをしているヒトミに近づくと、ペンの蓋を取って書く真似をした。シュアンもその反応と、実際に書いた後の事を想像してか笑っていた。


 その時間は出て行った子供達が帰るまで続いたが、顔を洗いたいと言ったシュアンに付き添った正巳は、その時床に置いたペンが悲劇を起こすなど思いもしていなかった。


 晩酌しながら話をしている大人たちの横、テーブルの下で横になったヒトミは、ペタペタと近づく足音と何となく感じる顔への感触に首を傾げていた。それでも目を開けなかったのはきっと、自分は寝ている(・・・・)んだと言う設定に忠実だったからだろう。


 シュアンの洗面に付き合った正巳は、帰って来て見て吹き出しそうになった。


 そこには、眉をしかめながらも必死に寝たふりを続けるヒトミと、その横でぺたりとお尻を床に付け、必死にペンで眉を追加するホアンの姿があった。


 ホアンの事だ、きっと正巳の事をジッと観察していて、書けてないのを見て手伝おうとでもしたのだろう。その様子を見ながら、悪気の無い行動ほど怖い事はないなと、そう心から思った。


 ◆◇


「ちょっとなんで笑うのよ~!」


 わざとらしく大きな声で言うヒトミは、場の空気を和ませようとしているのだろう。太い眉を上手にくねらせ、まるで芋虫か何かのように動かしていた。


「まゆげ!」

「そう、お姉ちゃん眉変なの!」

「フフハハハハッハハ!」

「イーヒッヒッヒ~」


 笑い転げる子供達に、そんなにうけると思っていなかったのか、こちらを向いたヒトミが言う。


「ねえ、正巳さんそんなに可笑しいですか?」

「ふはっ、フハハハハ!」


 首を傾げるヒトミだったが、シリアスな心とあまりにもアンバランスな感情に、自然と声を上げて笑っていた。子供達も笑っているが、どうやらきちんとお別れが出来たらしい。


 対して、あまりにも笑われる事に首を傾げたヒトミは、何を思ったのか席を立つと、鏡のある洗面まで走って行った。笑われ方が気になったのだろう。


「って! ちょっとー!! 何ですかこれー!!」


 てっきり、自分の眉が芋虫になっていると知った上で、やっていたのかと思ったが……どうやら違ったらしい。声を上げて驚いたヒトミは、その後走って来るとぽかぽかと叩いて抗議していた。


「もっと可愛くしてくれたと思ったのに!! それに、正巳さんはもっとこう、猫ちゃん髭とか書いてくれてたじゃないですか!」


 どうやら、正巳が描いたラインだけが残っていたと思っていたらしい。


 それにひとしきり笑った正巳は、咳払いすると切り替えて言った。


「お前は知らないかも知れないがな、太い眉毛には"魔除け"の意味があるんだぞ」


 正巳の言葉にピタリと動きを止めたヒトミは、そうなんですか?と見上げて来る。それに大真面目な顔で頷くと、「笑う門には福来るって言うだろ?」と続けた。


 それに、少しの間首を傾げつつ考えていたヒトミだったが、結局は「そうですね聞いた事あります!」と納得した様子だった。


 ヒトミの横には楽しそうに笑うシュアンの姿もあったが、その様子を見て(今回はヒトミに助けられたな)と思った。きっとあのままでは、沈んだ気持ちのまま一日が終わっていた筈だ。


 そんな事、あのお爺さんも望んでいる筈が無い。


「豪快な人だったもんな……」


 呟いてみて、お爺さんが「笑え! 辛い時には笑え! 転んで痛くても笑え! 笑っていればいつかは人生が笑いかけて来る。そういうもんだ」と言っていたのを思い出した。


 生きていれば、つらい事も悲しい事もあるだろう。


 一時悲しんで俯く事があっても良い。


 それでも、いつかは上を向いて前へ進まなくてはいけない。


 それならば笑っている方が良いだろう。


「せめて水性なら良かったかもな」


 ヒトミの様子を見ながら呟くと、小さな足でトテトテと歩いて来たホアンが首を傾げたが、それを笑って何でもないぞと抱えると言った。


「可愛くできたな」


 それに嬉しそうに頷くとホアンが言った。


「なのネ!」

少し長い回となりましたが、分割せずに投稿させて頂きました。

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