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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第三章 暗躍しているつもりは無いのですが
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91話 サンタクロース

 聞こえてくる歓声に、身体をひねってストレッチすると立ち上がる。


 ソファには、同じく寝落ちしたらしいヒトミが未だに寝たままだったが、その幸せそうな寝顔を見てしまっては起こすに起こせなかった。


「……まぁ、無理に起こしてもな」


 そう呟いて部屋を出ると、廊下の先から聞こえる声に頬が緩むのを感じた。


「喜んで貰えたみたいだな」

「そのようです」


 いつの間に控えていたのか、一歩後ろに立つファスにチラリと視線を向けると頷く。初めの頃は驚いたものだったが、今ではすっかり慣れてしまった。


 邪魔しないように静かに扉を開くと、その先でお菓子を広げて喜ぶ姿が見えた。


 中には、自分の貰ったものを見せ合いっこしたり、朝日に透かしてみて目を輝かせていたりする子もいたが、気になったのはある男の子の持つお菓子の剣だった。


 その男の子は、ヒトミが最後に渡しに行った子だったが、手に持った剣が記憶にあるデザインと違っていたのだ。明るい内に一度確認しているので間違い無いだろう。


 どうして変わってるんだと首を傾げていると、同じ剣の形をしたお菓子を貰っていた子が近づいて言った。


「あ、そっちのもカッコいいね!」

「そう?」


 その先は銀色の包みに包まれていて、少しばかり不格好に見えた。


「うん、先が分かれててかっこ良い!」

「そう……うん、そうだね!」


 そのやり取りに頬を緩めた正巳だったが、首を傾げて少し考えると言った。


「手間かけさせたみたいだな」


 それに「何の事でしょうか」としらばっくれるファスだったが、その頬に付いたチョコを見て苦笑した。こうなったファスはきっと、どうやっても認めないだろう。


「おはようございます」

「ミヤか、お前も泊ったのか」


 てっきり昨夜の内に戻ったかと思ったが、どうやら違ったらしい。


「ええ、ふふ誰かさんの"お菓子作り"に巻き込まれまして」


 あっさりとばらしたミヤに、一瞬ではあったがファスの顔が引きつった。


「っ、おま――失礼しました。どうやらミヤ(こいつ)は寝不足なようです。すぐに帰らせますので」


 恐らくミヤは被害者なのだろう。引きずって行こうとするファスに「二階を使って良いぞ」と言うと、「いえそんな訳には行きません」と返って来る。


 しかし、それに「礼ぐらいさせてくれ」と言うと、目を閉じて数秒考えたファスが結局一礼して二階へと連れて行った。何だかんだ、ファスとミヤは良いコンビだと思う。


「それにしても、ファスがお菓子づくりとはな。きっと、初めてだったんだろうな……」


 何となく、どうにかしようとするファスと上手く行かない状況。それを見ていて、ちょうど良いタイミングで助けに入るミヤの図が見えた。


「何が"はじめて"なんですか~?」


 急に聞こえた声に身体をビクリとさせると、それを見て楽しそうに笑うヒトミが続けた。


「あ、もしかして……今回のサンタさんのご褒美を独り占めですか~」


 きっとまだ寝ぼけているのだろう。取り敢えず顔を洗って来いと言うと、もう一度子供達のその嬉しそうな笑顔を焼き付けてヒトミの後を追った。



 ◆◇◆◇



「あ、ちょっとまだ動かないで下さい」

「えぇ、もう大丈夫ですよ? ヒトミちゃん~」


「ダメです。洋服に着いたチョコの染みは残るんですから!」

「大丈夫ですよ、これも持って帰れば担当者が掃除してくれますから」


「ちょっと動かないで下さい!」

「えぇ……何で"洗剤"なんて出してるんです?」


「チョコレートは油分を沢山含んでるので、洗剤で落とさないといけないんです」

「へぇ~そうなんですね」


 どうやら、ファスとミヤはギリギリまで"お菓子作り"をしていたらしい。その理由は、言うまでも無く『折れてしまった剣の先』を直す為だろう。


 鈍感なヒトミでも流石に気付いたらしい。


 目を輝かせて見せに来た男の子に笑顔になるも、ソレ(・・)を見て首をグルグルさせた後、正巳を見つけると視線で「これはどういう事です?」と訴えて来た。


 が、それに笑って返していると、何処かのタイミングで思い出したのか「ああぁ!!」と声を上げて頭を抱えていた。その後、こっそり誰が直したのかと聞いて来たので、黙って視線で誘導したのだった。


 ……手前に居たファスを通り越して、奥にいたミヤだと思い込む辺りヒトミクオリティではあったが。まぁ、その辺りはご愛敬だろう。


 その後、子供達から「これは貰っても良いのかな」と聞かれたので「誰の名前が書いてあった?」と聞いた。すると、元気な声で「僕の!」「私の!」と答えがあったので、頷いて「それじゃあそれは皆のだ」と返しておいた。


 そう、子供達は少しずつではあったが、"文字"の勉強をしていたのだ。今回のは普段頑張っている"ご褒美"でもある。膝に乗って来たシュアンが、正巳をじっと見つめると微笑んだ。


「ありがとうお兄ちゃん(・・・・・)


 それに「俺じゃなくてサンタさんにだろ?」と答えようとした正巳だったが、その様子から(これは完全にバレてるな)と苦笑すると、口の前に人差し指を立てて「秘密だぞ」と言った。


 その後、朝食の為にインシュンとレフィーナが合流した。


 はじめ、嬉しそうな子供達とその反応を見て楽しんでいる様子だったが、広げて見せ大切そうにする子供達に次第に目の端に涙を溜めると、互いに顔を見合わせて笑っていた。


 その横顔はとても幸せそうだった。


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