表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
83/92

83話 白い絨毯の上で

 直ぐに刺した光が、雲の白さを際立たせている。


 厚みのある白い膨らみに、弾力がありそうな張り。

 集めて詰めれば、ふかふかの枕や布団になりそうだ。


 それに、目の前の大きな雲は絨毯の様で……ふむ。

 じっと見ていると、何となく上に乗れそうなそんな気さえして来る。


 そんな、窓の外を過ぎて行く雲を眺めていた正巳だったが、ふと何時の事だったか、子供の頃同じ様な事を考えていた気がして、懐かしさを覚えた。


 あれはそう、確か夏の日の夕方頃、友達と行ったプールの帰りで……。


「はは、年食っても中身は変わらない、か」


 デジャブに感じた原因を思い出して、スッキリした。


 正巳の様子を見ていたのか、ちょこちょこと移動して来たシュアンが膝に乗って来る。ここ二か月強の間で、正巳の膝の上はすっかりシュアンの定位置となっていた。


「何食べるの?」


 首を傾げたシュアンが、不思議そうに聞いて来る。

 どうやら「年食った」と言ったのを聞いて、勘違いしたらしい。


「いや、何かを食べる訳じゃ無いんだけどな……。そうだ、ほらあれ"わたあめ"に似てるな」


 説明するのが難しそうだったので早々に諦め、そのまま、窓の外に見える雲を指して誤魔化した。しかし、それを見たシュアンは、今度は首をさっきとは逆に傾げていた。


「わたーめ?」

「ああ、そうか……」


 どうやら、シュアンは"わたあめ"と言う物を知らないらしい。


「"わたあめ"って言ってな、こうふわふわしてて、食べると甘くて美味しいんだ。確か簡単に作れたはずだから、向こうに着いたら作ってやるな」


 そう言って約束すると、「甘い?」とニコニコしていた。


 昔、父親にお手製の"わたあめ機"で作って貰った事がある。あの時は、確か空き缶に穴を開け、缶の上にモーターを付けて回るようにしていた筈だ。そこに、砂糖を入れ下から炙れば……


「うん、出来そうだな」


 改めて、シュアンに楽しみにしている様にと言うと、頷いたシュアンが上目遣いに聞いて来る。


「あのね、皆にも教えて良い?」

「もちろんだよ」


 即答した正巳は、小走りで歩いて行く後ろ姿を見送ると、自分の頬が緩んでいる事に気付いて苦笑した。どうやらシュアンの"お願い"には、人をダメにする力があるみたいだ。


 その後、子供達の前で"わたあめ"について、身振り手振りで説明するシュアンを見ながら、その横で柔らかい表情を浮かべる男を確認していた。


「調子、良さそうだな……」


 そこに居たのはインシュンとレフィーナだった。


 二人とも、ひと月前とは比べ物にならない程に、顔色も表情も明るくなっている。一時、土気色になった時など気が気では無かったが、完全回復と言っても良いだろう。


 やがてシュアンのわたあめの話が終わると、興奮した子供達が二人へと駆け寄っていた。


 中には、インシュンの両腕(・・)に抱えられ、笑顔で話す子供もいる。そんな、賑やかで微笑ましい様子を見ていた処に、音もなく近づく人影があった。


 わざと視界に入るように来たからだろう、その人影には正巳も気が付いていた。


新しい(・・・)"腕"の方も、すっかり慣れたみたいですね」


 その正体はファスだったが、手にはグラスを持っている。どうやら、飲み物を持って来てくれたらしい。差し出されるグラスを、受け取りながら頷く。


「ユンファがまた手を加えたらしくてね、"反射反応の再現が出来た"って言ってたよ。ほんと、最初の義手でも十分凄いと思ったけど。ここまで来ると、何だか義手も悪くない気がしてくるね……」


 腕を失ったインシュンの為に、ファスは義手を用意していた。


 当然初めから使いこなせるわけもなく、慣れるまでは苦労したみたいだった。それでも数日で使いこなしていたのだから、さすがインシュン相当器用なのだろう。


 その後、実際に使いながら慣らして行きたいと言う本人の希望もあり、リハビリと称した墜落した機体の"解体撤去"に参加していたりもした。


 しかし、流石に精密機械だなのだ。負荷のかかる労働の後、義手が破損する事も何度となくあった。そんな時、義手の修理担当をしたのがユンファだったのだ。


 当のユンファも、しばらくは"新しいおもちゃ"とばかりに熱中していた。


 そんな、壊れては改良してを繰り返していた物で、今インシュンが使っている義手の耐久性は相当な物だろう。少なくとも、少し乱暴に扱ったぐらいでは壊れる事は無いはずだ。


 レフィーナと、子供達に囲まれているインシュンを見ながら、(助けて良かった)と心から思った。その後、こちらへと移動して来た子供達のリクエストで、向かっている国について話をする事になった。


 子供達の中には、何故かユンファも混じっていたが……そのキラキラと輝く瞳を見てしまっては、とてもでは無いがダメだと言う事は出来なかった。


「――と言う事で、今向かっている国は豊かで安全な国だ。それに、基本的に便利ではあるんだが、住む場所によっては不便で……まぁ、俺達が向かう先は、便利になる予定(・・)だから心配ないけどな!」


「予定なの?」


「そうだぞ。何でも揃う便利な店があってな、"コンビニ"って言うんだ」


「"こんびに"って何?」


「コンビニって言うのは……そうだな、必要な物が何でも揃うお店だな」


 正巳の言葉に、子供達は興味津々と言う様子だった。向こうに着いたら、タイミングを見て店に連れて行ったら良いかも知れない。


 子供達は兎も角インシュンには、何らかの形で仕事をして貰う事になるだろう。何をして貰うかは分からないが、取り敢えず初めはレジ打ちからだろうか。


「……ふむ、そう言えば改修したんだったか?」


 レジ打ちをするインシュンの姿を思い浮かべていた正巳だったが、出発する前設計のヒノキやフォンファに"依頼"していた事を何となく思い出して、首をひねっていた。


 それでも、二か月以上前の話である事と、短期間でそれほど変わる事は無いだろう――という思い込みがあった正巳は、重要な事を思い出したにも拘らず、唯一の進捗の確認機会を失ったのだった。


 何か引っかかりを感じながらも、気のせいだと思う事にした正巳は、再び始まった質問攻めに答える事にしたのだった。


「お兄ちゃんのお父さんも居るの?」

「そうだな、今は居ないかも知れないな」


「朝ご飯はなにー?」

「朝は、コーンフレークとかパンになるかもな」


「こーんふれーく?」

「そうだ、牛乳をかけて食べるんだがな、お手軽で美味しくて――」


 その後、しばらく続いた質問攻めも、やがて満足したのか少しずつ収まって行った。すっかり疲れ切った正巳に、ぶどうジュースを差し入れたファスが言った。


「お疲れ様です。もう数時間掛かりますので、正巳様もどうぞご寛ぎ下さい」


 それに頷いた正巳は、席を移動すると体を横にしたのだった。



 ◇◆



 主とする男が寛ぐ様子を見て、人知れず安堵の息を吐いていた。


(これで、一先ず腰を下ろせますかね……)


 既に、一週間ほど前に事が済んだと連絡があった。しかし、完全な処理を確認するまでは数日置かなければいけなかった。


 そして、それを確認するのは今日何事もなく出発できる事が、その最終確認項目だったのだ。


 一週間ほど前――


 墜落した機体の"撤去"を行っていたファスは、緊急通信から作戦が終了した事を確認していた。


(ようやく帰れますね……)


 既に、予定より一週間帰国時期を延長していた。これ以上伸びるとなると、流石に主人へ説明をしない訳には行かなかっただろう。何にせよ、"武力行使"が必要な危機も過ぎたのだ。


(一先ず喜んでおきましょうか)


 端末からの一方的な"報告"を確認しながら、頷いていた。


 途中で途切れる事なく、最後まで一息に報告がされたのを確認し通信を開いた。


「了解 ご苦労 解散」


 返したのは僅かに三語だけだったが、それを以て通信は終了された。


 情報の整理をしていたファスは、大量に得た情報の取捨選択を一瞬にして終えると頷いた。


(これで、"表"も"裏"も終わりましたね)


 その意味を知るのは、かつて"死神"として恐れられ、様々な依頼(オーダー)を一つも落とす事無く成功させ続けて来た男――ファスのみだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ