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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第一章 色々あってコンビニを始めます
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8話 就職先

 新しい就職先についての説明をしていた。


「――いや、そうじゃなくてだな」

「え、何処かの会社に面接に行くとかじゃないんですか?」


「だから、コンビニをつくるからそこで働かないか?って話なんだ」

「……つくる? コンビニを?」


 先程から同じ事を何度も言っているのだが……


「そういう事だ、俺がつくるコンビニでお前――ヒトミが働かないか?って話だ」


 そう言ってから『どうだ?』と聞いた。


「え、コンビニを始めるんですか?」

「そのつもりだ。ほら、不便だろ?」


「でも、沢山お金かかりますし、始め方知りませんし……」

「まあ、そこら辺は依頼したから大丈夫だ。お金に関しても心配ない」


 すると、納得したのか『コンビニ始めるんですね……』と言っていた。

 しかし、何故か他人事だったので"一応"聞いて見る事にした。


「ヒトミもウチで働くか?」


 そう言うと、ハッとして目を輝かせた。


「本当に良いんですか?」

「そのつもりなんだが」


「でもやっぱり私は、ほら、失敗しましたし……」


 そう言って、手元のにゃん太をくるくるとあやし始めた。

 どうやら、俺を"万引き犯"扱いした事を、それなりに反省しているらしい。


 反省するのは良いが、行き過ぎて腐られても困る。


「……失敗しても、学んで成長すれば問題ない。それに、良いのか?」


 不思議そうな顔をしたヒトミに『就職先だぞ?』と言うと、目を見開いた後で数度ぱちぱちと瞬きをして、言った。


「えっ、いえっ……有難いとは思いますが、それでも迷惑は掛けられませんのでっ」


 その様子からは"本心"がまるで隠しきれていなかったが、本人は"上手く隠しているつもり"らしかった。


 ……最高に目が泳いでいる。


 会社間の契約の時などは、騙し合い、出し抜き合いの面がある。そんな世界で心をすり減らして来た身としては、ヒトミの様にうぶな反応をされると、微笑ましさしかない。


「まあ、そこまで嫌なら(・・・)強制は出来ないな」


 そう言って、反応を見ながら続ける


「残念だけど仕方が無いよな、無理に働かせる訳には行かないし」


 ……ヒトミは、その視線を泳がせながらも口元を開きかけたり、やっぱり閉じたりを繰り返している。


 もう一押しだ。


「そうかぁ……それじゃあ、お願いしてた相手にも"断りの連絡"を入れないといけないなぁ……相手さんも結構張り切ってたんだけどなぁ、断ったら悲しがるかもなぁ」


 少しやり過ぎな気もしたが、出来る限りの"理由"を付けてみた。すると、それ迄迷っていたヒトミが口の中で何やら『断ったら迷惑になるみたいだし、仕方ないよね……』等と呟いてから、言った。


「そ、それじゃあ! 私が働きます!」

「でも、嫌々なら――」


「やりたいです! コンビニの仕事なら一通り分かります! 一生懸命働きます! ……働かせて貰えるならですけど」


 最後だけ尻すぼみになっていたが、待って居た言葉が聞けた。


 『働きたい』


 自発的な言葉が聞きたかった。


 人によって、働く意味や目的は違う。

 それこそ、生活の糧を得る事だけを目的にしている人も居るだろう。


 生活の糧が十分に担保されている人は、周囲の人の為に働く事もあるかも知れない。


 周囲の人の為に始めた仕事がやがて、社会の為、そして世界の為の仕事になる事だってあるかも知れないのだ。


 何にしても、働くという事は誰かの為になる事をする事だと思う。


 俺は、社長の為に働いていた。


 何にしても先ず、ヒトミには働く場が必要だ。働く場に関しては、既に電話でアポイントを取っている。予定では、一週間後に正式に決まる事になる。


 働く場が決まったら、モチベーションだ。これも人に寄るが、大半が自発的(・・・)であるか否かが重要になって来る。その為に、半ば誘導的では有ったが確認した。


 『働かせて貰えるなら』と言った後のヒトミは、俺の答えを待っているみたいだった。


 ――俺の答えなど、最初から示しているというのに。


「勿論、働いて欲しいさ。何せ、俺はコンビニの仕事は何も知らないからな!」


 堂々と言い放つ。


 敢えて、滑稽に見えるようにしたのだが……反応が無い。


 少しばかり心配になっていると、呆気に取られていたヒトミが急に笑い出した。


「それ、胸張って言う事ですか? ふふっ」

「いや、それはまあな……うん、そんなに笑わなくて良いと思うぞ?」


 ツボに入ったのか、ヒトミはお腹を抱えて笑い始めた。若干反応が遅かったが、ちゃんと伝わっていたみたいだ。てっきり、伝わっていなかったかと思ったが、伝わるまで時間が掛かっただけだったらしい。


 そんなヒトミに苦笑しながら、トテトテと歩いて来たにゃん太を抱き上げた。


「笑いすぎだよ。そう思うよな?」


 恥ずかしいのを隠す為に"にゃん太"を持ち上げると、ヒトミの顔が隠れるようにした。しかし、途中で先ほどのヒトミと全く同じ事をしていると気がつき、誤魔化すようにしてにゃん太を下に降ろした。


 そんな様子もヒトミは見ていたらしく、笑いに拍車をかけたようだった。


 その後、ヒトミの笑いが収まる迄の間、にゃん太と話していた。


「お前は可愛いなぁ」

「みやぁー?」


「あははは、ネコと話してる……ふふ、あははは!」


 そう言うヒトミも、公園でにゃん太に話しかけていた気がするが……まぁ、こういう時は黙っているのが良いのだろう。


 頭をコテっと倒したにゃん太の、首筋を撫でる。


「そうだぞ、お前の事だぞ」

「みゃぁ」


 その後にゃん太とのやり取りは、ヒトミの"笑いの発作"が落ち着くまで続いた。

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