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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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78話 慌ただしく過ぎる日々

 リーナとグラハムが、ユンファを連れて帰ってから約一ヶ月が経過した。


 結果から言えば、大変なひと月だった。


 大変(・・)だった理由は幾つかあるが、正巳自身に関する事で言うとやはり、思いの外ジョンのしごき(・・・)が厳しかった事が挙げられるだろう。


 それ以外にも色々有ったが、事件級は二つ。


 一つは、飛行機の操縦を教わるシェルリーが、グラハムの目を盗んで離陸させ危うく墜落させそうになった事で、もう一つは、ユンファが保養所が備えていたらしい"隠し兵器"を起動させ、危うく近隣諸国へ戦争を仕掛けそうになった事だ。


 それでも、何とかシェルリーは墜落させなかったし、ユンファに関しても近隣諸国のレーダー情報を改竄して丸く収めていたが……。


 ユンファに話を聞いた処、近隣国への対処として、クラッキングを行い一時的な"故障"と言う事で誤魔化したらしかった。

 結果、気の毒な事に近隣国はレーダーの一斉整備、点検、取り換えを実施した様だったが……まぁ実際"事"にならずに良かった。


 怖くてそれ以上聞かなかったが、ひと段落付いた後でユンファが「レーダー、安く買えるかも」と楽しそうにしていた。どんなルートでどうやって買うのか分からないが、それらしい物を見かけても触れないでおこうと心に決めた。


 対して、飛行機を落としそうになったシェルリーは、グラハムから大目玉を喰らってしょげていたが……その日の夜、グラハムは「あいつは見所がある」と言って喜んでいた。

 度胸があると言う事らしかったが、もしかすると"飛行機乗り"と言う人種は、上達する過程で頭のねじを落として来るのかも知れない。


 そんなこんなで大きな問題もあった訳だが、良い事も同じか、それ以上にあった。


 一つ目に挙げるとすれば、何と言っても子供達と打ち解けた事だろう。


 元々純粋な子が多く、警戒が解けてからは良く話しかけてくれるようになった。それだけでなく、遊び相手として仲良くなった一部の子供達は、姿を見れば飛びついて来るまでになっていた。


 ジョンのしごきを受けた後でも"遊んでくれ"と来るものだから、初めの内は遊びながら意識が落ちる事もしばしばあったが……。

 それでも、目が覚めると掛布団が掛けられていたり、時には隣に子供達が寝ていたりして、それはそれでとてもほっこりした。


 他の子供達も、皆が自分の出来る事を手伝おうとしていたし、実際手伝っていた。


 因みに、やたら威勢の良かったリュウアンは、リーナから"整備"を教わっていた。

 頭を下げて頼んで来たらしかったが、リーナを見つめるその視線に、時折熱いものが含まれている気がしたのは、気のせいじゃなかったのかも知れない。


 リーナに気付く素振りは皆無だったが、リュウアンの想いが届く日は来るのだろうか……。


 そんなこんなで色々有りつつも、あっという間のひと月だった。


 あっという間過ぎて、つい昨日あたりにこの保養所に来たような錯覚すらあったが、保養所(ここ)での生活の慣れと子供達との距離感が、その逆――ずっと前から一緒だっだ様な感覚も与えていた。


 午前の訓練を終えた正巳は、戻るなり飛びついて来たシュアンと、後に付いて来たメイ(少し引っ込み思案な所のある女の子でシュアンと一緒に居る事が多かった)と共に、ストレッチをしていた。


 訓練の前と後にストレッチをするのが習慣となっていたが、その甲斐あってかなり柔らかくなったと思う。筋が伸びるのをイメージしながら、座った状態で足を開き体を倒す。


「いつつっ……」


 柔らかくなったと言っても、元が元なのだ。限界まで倒しても、完全にべったりと言う訳には行かない。無理しない程度に繰り返すと、それに倣ってシュアンとメイも体を倒していた。


「流石に柔らかいな」

「そうなの?」


 何でもない様にべたっと体を倒すシュアンに感心すると、首を傾けて返して来る。ついこの前まで、正巳とさほど変わらなかった筈だが流石、子供は柔らかさが違うらしい。


 シュアンを褒めた正巳だったが、その横から聞こえて来たうめき声に苦笑した。元々固くはあったが、初めと比べても全く改善した気がしない。


「メイも……うん、ましになった……かな?」


 唇を噛みながら踏ん張るメイに言うと、納得が行かないのか方頬を膨らませて返して来る。


「なんで、疑問形ですっ――!」


 頑張っている様に見えたが、限界だったらしい。

 体を反らすと、呻きながら転がっている。


 その様子を見ながら、別の筋を伸ばすストレッチに変えて行く。


「……それで、皆はどうしたんだ?」


 いつもだともう少しひと気があるのだが、今日は何故かリビングに誰も居なかった。


 まぁ、皆が居ないのはまだ分かる。しかし、先に戻った筈のジョンの姿が無いのは少々違和感があった。これ迄、ストレッチを終えるまでが訓練だと、あれだけ言っていたのに。


 正巳の言葉にシュアンが答えた。


つうしん(・・・・)が入ったって、ユンちゃんが言ってたの」

「通信?」


「そうなの、"戻って来る"って言ってた」

「……なるほど?」


 どういう事かとメイに顔を向けるが、頷いてるだけで状況は伝わって来ない。


「終わったら見に行くか……」


 呟いた正巳は、ストレッチの続きを始めた。これもまた、飽くまで自然な行動だった訳だが、ひと月前であれば中断して直ぐに向かっていただろう。


 しかし、体と言うのはナマ物であって、手を抜けばそれがそのまま出てしまう。一度サボれば取り戻すまでに倍以上の労力がかかるのだ。


 ◇◆


「よし、それじゃあ行くか」


 シュアンに案内を頼むと、頷いて言った。


「こっち! ユンちゃんの処だよ!」


 皆が集まっているのは、どうやらユンファの部屋だったらしい。


 "ユンファの部屋"と言っても、元は大き目の物置きだった場所であって、ユンファもそこは作業場としてのみ使用している。


 物置き以外にも機能はあるのだが、モニターやらケーブルやらで埋め尽くされているもので、そのイメージから"ユンファの部屋"と呼ばれていた。


 そこは、奥にある大部屋の隅を降りた処で――


「これは、また随分とややこしくなったな」


 倉庫兼シェルターである"ユンファの部屋"には、全員が集合していた。


 集まった人で奥まで見えなかったが、それでも前回覗いた時に増して機械類が増えた気がする。ユンファは、「古い物でも使い方次第」と言っていたが……これではゴミ山の様だ。


「正巳様、終えましたか?」


 こちらに気付いたジョンが確認を取って来るが、分かっていての"確認"なのだろう。その言葉遣いが"訓練外"の時の物だった。訓練中は、もっと厳しくて――


「ああ、きっちりな」


 その影響からか正巳自身、いつの間にか平時は"部下"に対するような口調になっていた。


 満足そうに頷くジョンに言う。


「また"増えた"な……」


 すると、それに頷いたジョンは苦笑しながら答えた。


「はい、どうやら掘り出し物が多かったようで、先程縦二メートル、横三メートル程有る前時代の化石みたいな機械を持って来るようにと言われまして……多分三百キロは下らないと……」


 どうやら、先週敷地内で見つけた"第三基地倉庫跡"――蔦や苔で覆われた場所で、恐らく半世紀は前の遺物――は、ユンファの興味を惹くモノが多かったらしい。


 ゲッソリしているジョンを見ながら、本題から逸れていたのを修正する事にした。気の毒ではあるが、ユンファからの依頼はどうにか頑張って貰うしかない。


「それで、"通信が入った"とか"戻って来る"って聞いたが、それはどういう事なんだ?」


 人だかりへ視線をやりながら聞くと、ジョンが言った。


「ユンファ様は、旦那様とインシュンさんの補助をしていた――ここまでは宜しいかと思います」


 確認を取って来るので頷く。


 そう、そもそもユンファがこの保養所の防衛兵器を起動しそうになったのも、どうやらファスが危険な状況だと知って、起こそうとした行動だったらしい。


 その後、ジョンとリーナの説得を受け止めていたが、別の形で支援していたのは知っている。先を促すと、ジョンが続ける。


「それで、今日まで救出作戦が続いていた訳ですが……」


 ここまで来てようやく理解した。


「もしかして?」

「はい。全て(・・)終わったので、帰って来るそうです」


 その言葉を聞いて最初に浮かんだのは"喜び"だった。


 もちろん家に帰れるのもそうだが、何よりこの訓練施設から逃れられるのが一番大きい。いや、訓練施設では無く保養所なのだが……ジョンがいる事で事情が変わって来る。


 この男は、こちらが筋肉痛にならないギリギリ且つ、全リソースを使い切る寸前まで追い込んでくるのだ。筋肉痛などで体が動かなければまだ休む事も出来るだろうが、それも無いのだ。


 延々と続く訓練の、その果てしなさが辛かった。


 思わず目を閉じていた正巳だったが、肝心な事を聞くのを忘れていた。


「それでいつ帰って来るんだ? 二人、いや三人(・・)とも無事か?」


 声が大きかった為だろう。集まっていた子供達がこちらを振り返った。何となく集中していたのを邪魔した気がして、「気にするな」と言おうとしたのだが――


 奥から聞こえて来た言葉に、それ処では無くなった。


「一人衰弱、一人負傷……でも三人無事」

「負傷って、それでいつ着くんだ!?」


 正巳の様子に、間に居た子供達が移動してくれた。


「ユンファ?」


 左右に開けた先には大きなモニターが六つ並び、何やら見慣れない記号が流れて表示されている。モニターの前に居たユンファは、振り向くと言った。


「4,3,2―― いま」


 その言葉の直後、轟音と共に爆音が上がった。

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