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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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76話 機体調達

 基地まで足となる機体を調達しに来た二人だったが、難なく目的の格納庫へと潜入を終えていた。目の前にあるのは、現役で運用されている戦闘機だ。


 前後に二人乗れる仕様のもので、丁度良かった。


 格納庫脇に有ったロッカーを開くと、中にはヘルメットがある。


「それ大丈夫なのか?」


 ロッカーのカギが大破しているのを見たのだろう。心配しているインシュンに答えた。


「ええ、警報装置の類は有りませんでしたので」

「いや、そうじゃなくてだな……」


 苦笑するインシュンに首を傾げながら、手に取ったヘルメットを手渡した。


「これは"予備"でしょうが、使用に問題は無いかと思います」

「いや、そうでもなくてだな。只でさえ色々と面倒起こしてるのに……はぁ」


 途中で言葉を切ったインシュンだったが、きっとそれ程重要でない事だったのだろう。その様子を横目にコックピットに乗ると準備を始めた。


 ――五分後。


「始動準備開始、格納ハッチ開け――」

「了解、ハッチ開く!」


 目の前のシャッターが開き始めたのを見て、エンジンを始動する。

 インシュンも乗り込み、いよいよ出発かと言う処だった。


「おい、前!」


 計器の確認をしていたファスだったが、インシュンの声に顔を上げた。


「来ましたか……」


 そこには、戦車の姿があった。

 慌てているインシュンに言った。


「大丈夫です。その機体には、火薬量の多い"投下型爆弾"を積んでいますので。基地の事を考えて、最悪離陸した後に撃墜したいでしょう。ただ、道を塞がれても困りますからね……」


 言いながら、標準装備のミサイルのボタンに指をかけた。


 最新の戦車なのだ、照準された時のアラームは標準装備だろう。そのまま数秒待っていると、慌てた様子で戦車が車体を移動させた。


 その様子を確認して言う。


「行きましょう」

「……」


 無言のインシュンの答えに、スロットルをゆっくりと動かした。ゆっくりと機体が移動し、格納庫を出ると走路へとハンドルを切った。


 ここ迄はファスの予定通りだったが、そこで予想していなかった事が起こった。


「おい、何か走って来た奴がいるぞ?」


 インシュンの言葉に横を向くと、走路の横を必死に走って何やら、身振り手振りしている男がいた。一瞬警戒するも、男が何も装備――武器の類を持っていないのを確認して、少し気になった。


「止まるのか?」


 聞いて来たインシュンは大まじめな様子だったが、あり得ないだろう。


「いえ、その必要はないでしょう」


 そう言うと、構わず発進の為に直線が長い線に入った。そして、そのままスロットルを上げて行くが……どうやらインシュンは、未だに追いかけて来ている男が気になっているらしい。


「なぁ、あの男なんか泣いてないか?」

「ええ、そうかも知れませんね」


「なぁ、ほら胸元から紙か何か出して――」


 余りにもしつこいので言った。


「リスクを負って、止まりますか?」


 ファスからすればあり得ない選択だったが、インシュンは悩んでいるらしい。これはきっと、担当して来た分野が違うからこその差なのだろう。


 一つの行動が命取りになる"現場"で、命の駆け引きをして来たファス。工作員としてあらゆる状況を考え、"裏方"として可能性を生かすインシュン。


 状況的には"現場"――今まさに行動中なのだ。


 普通に考えて、インシュンの言葉に意識を割く事は合理的では無いだろう。


 しかし、この日のファスは何時もとは少し違った。


 きっと、ここ半年以上守る対象がいて、そちらに意識を回していたからだろう。今いるのは、自分と同業の男のみなのだ。いざとなれば、多少危険を冒してでも脱出する方法はある。


 口を開いて尚一瞬悩んだが、結果的に言った。


「分かりました。あの男の話を聞いてみましょうか……ただ、責任を取る必要があるかも知れないと、それだけはお忘れないようにお願いします」


 リスクのある行動で、その責任はインシュンにも発生する――そう伝えたファスだったが、インシュンの何とも悩ましい返事に少しだけ後悔しそうになった。


「ああ、そうだな……。すまん、専門外の俺が口出しする事じゃなかった。だけどな、何となく止まった方が良いような気がしてなぁ……違ったらすまない」


 そのまま移動して行くと、丁度何処からも狙う場所が無いような"死角"に止まった。ここから再発進するとなると少々面倒な事になるが……いざとなったら、やる所までやろう。


 機体が減速したのを見たのだろう、息を切らしながら走って来る男を見てため息を吐いた。


「さて、吉と出るか凶と出るか……」


 ――男の手に握られていたのは写真らしかった。その写真には、男と女性と女の子が写っていたが、汗と涙でクシャクシャになっていた。


 ◇◆


「お手伝いさせて頂きます!」


 目の前で敬礼する男に、苦笑しか出なかった


 男は、この基地の司令官でリーと行った筈だ。その後ろに控えているのは、心から安堵した様子の男で、追いかけて走って来た男でもある。


「宜しいんですか?」


 視界の端、滑走路の端に移動されている機体を見ながら言うと、頷いて答えて来る。


「勿論です。お約束も頂きましたし、どうぞ使って下さい!」


 リー司令官には、"約束"と言って良いのか"基地の損害を補填する事"と、"必ず機体は返還する"と言っておいた。てっきり、順を追って責任を追及する――とでも言われるのかと思ったが、予想外が過ぎて驚いた。


 ここ迄読んでいたのかとも思ったが、どうやら全くそう言った事は無かったらしい。インシュンの驚いている様子を見ながら、今回ばかりはお手柄だと思った。


「それでは、私共は急ぎますので」


 都合が悪くなる前にさっさと去るのが吉と考えたファスは、早速出発しようとしたのだが、おずおずと出て来た男が言った。


「あの……、あの機体でなくてはいけませんか?」


「そういう訳ではありませんが」


 男が何か言いたげだったので、促すと続けて言う。


「いえ、失礼ながら噂ではかなり徹底的に使うと。そうお話を聞いていまして……そのですね、あれは少々高くつきまして、出来れば他の機体の方が有難いのです」


 なるほどと思った。


 持ち出した機体は最新機では無いが、それでも一機当たり150億円程だろう。状況によっては、乗り捨てて来る可能性もある。


「それでは、どれであれば宜しいですか?」


 そう答えたファスに、副官の男は顔を明るくした。


「おい、持ってこい」


 無線で指示したと思ったら、一番端の格納庫が開いた。


 そこから近づいて来た機体を見ながら、副官は「この機体だったら好きにして下さい」と言った。余程酷い機体かと思ったが、実物を見て驚いた。


「これは……、良いんでしょうか?」


 そこに出て来たのは、旧型機では無く現行機――それも、出来れば辞めて欲しいと言われた機体よりも新しい機体だった。それこそ買おうと思ったら、先程の機体二機でも足らないだろう。


 どんな裏があるのかと構えていたが、その話を聞いて納得した。


「これは、元々他国の物だったのです。それが武器商が取り扱っているのを見つけ、没収しまして……色々と表には出せない機体なので、この際こちらを使われては如何かなと……」


 どうやら、体良く処分して欲しいらしい。きっと、その構造やら何やらは研究を終えたのだろう。断る理由も無かったので、喜んで使わせてもらう事にした。


「分かりました。そういう事であれば使わせて頂きます」


 始終ニコニコしていた司令官と、疲れた様子の副官に挨拶をすると、機体の確認へと向かった。


 ◇◆


 ファスとインシュンが、機体の点検に入った頃――


 グラハムは無事、ユンファ達と合流を終えていた。


「――と言う事で、旦那はそのまま向かうらしいです」


 リーナの説明に笑う。


「ガハハハ、旦那らしい!」

「ええ、きっと戻って待っていれば問題ないでしょう」


 頷いたグラハムは、後ろの女性に言った。


「そちらが、ユンファ嬢ですな?」

「そう」


 こくんと頷いたユンファに、機体を指して言った。


「コイツで少しばかり飛びますが、苦手ではないですかい?」


 グラハムの言葉に、ユンファは視線を回したが、少し物足りなさそうに言った。


「つまらなそう」


 その言葉に、リーナは爆笑していたがグラハムとしては、黙っている訳には行かなかった。


「おう、それじゃあ乗ってのお楽しみだな!」


 そう言うと乗り込み始めたが、途中で宙を裂くような音がした。


「むっ、随分低いのぅ……」


 一瞬だったが、その機影から戦闘機――それも、あまり良い噂の利かない"じゃじゃ馬"の音がした。方向からして、基地の方から来たみたいだが……。


 若干嫌な予感がしたが、だからと言って出来る事も無い。


「あれなら楽しい!」


 横でおかしな事を言っている娘に、さっさと乗るように言うと空に祈った。


 ――旦那が無事で、願いが叶うように。


 空にはただ、一つの線が雲となって残されていた。

次話で正巳視点に戻ります。

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