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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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74話 デスマスク

 作業が終わったらしい。


 数時間単位で待つ事を覚悟していたが、実際に待ったのは二十分にも満たなかった。


「終わったよ?」


 そう言って歩いて来るユンファに聞いた。


「何を作っていたのですか?」

「……ついて来て、そっちのも」


 ファスの言葉に直接答える事は無かったが、どうやら行けば分かるらしい。ユンファに"そっちの"と言われた二人は微妙な顔をしていたが、それでも慎重な様子で歩いていた。


 スタスタ歩くユンファの後について行くと、前を歩いていたユンファが振り返った。


「これ付けて、僕の代わりに行ってくる」


 一瞬何を言っているのか分からなかったが、ユンファの指す機械を見て理解した。


 ユンファの指していた機械は、大型で他の機械と繋がっていたが、その表には半透明なカバーが付いていた。そのカバーを手で引くと、抵抗なく開いた。


「これは、デスマスク――いや"立体マスク"ですね……」


 そこに有ったのは、まるでそのまま頭の皮を綺麗に剥いだようなフェイスマスクだった。どうやら、作っていたのはマスク(コレ)だったらしい。


 実は、以前ユンファに依頼して、同じような物を作って貰った事がある。その為、初めて見る物では無かったが、問題なのはこれをユンファが作ったと言う事だ。


 リーナとインシュンも、覗き込むとマスクに興奮している。


「凄いですね、これ質感とかまるっきり肌と同じです!」


 薄皮の為、あまり不用意に触れない方が良いのだが……。


「うっわ何だこれ! ……あれだな、趣味の悪いイカれた奴が飾ってそうだな」


 良い反応だが、デスマスクを作るのが趣味の男を知っている身としては、何とも言えない。もしかすると、インシュンも男の事を知っているのかも知れない。


 二人の反応を見ながら、ユンファに聞いた。


「これは、どういった理由で作ったんでしょうか?」


 半ば答えが出ている質問だったが、こういうのは思い込みで判断せず、きちんと答え合わせをする事が重要なのだ。聞きながらマスクを受け取る。


 とても薄く出来ていて、質感はしっとりしている。頭はツルツルで両目の部分は空洞。それでも、これが誰のマスクかは分かった。


「僕の代わりに行ってくる。眼球レンズと指紋焼き付けもする……?」


 相変わらず言葉足らずだが、言いたい事は分かった。いや、ユンファが言ったのは初めの言葉と同じだったが、その後の内容ではっきりした。


「つまり、ユンファの代わりに私達の内誰かが変装して、(インシュンの)大切な人の奪還に向かう――と、そういう事ですね?」


「そう」


 やはり、そう言う事だった。


 ユンファがここまでの会話を聞いていた事は分かっていたが、どうやらその内容を聞いていて出した答えがコレだったらしい。


「理由を聞いても?」


 ファスの問いにユンファが頷く。


「気になる」


 その言葉に一瞬意味を考えてしまったが、瞳の中の好奇心(ひかり)を見て苦笑した。


「"気になる"ですか。……分かりました」


 こうなってしまっては、誰にも止められないだろう。


 それに、リスクがある任務に強制は出来ない。

 どうしようかと代わりの案を考え始めたファスだったが、それを見てユンファが口を開いた。


「大丈夫、ちゃんと合わせて(・・・・)マスクも作った」

「そうですか……、分かりました」


 ファスとユンファの会話を聞いていた二人が、慌てて言った。


「おっおい大丈夫なのか、それ?!」

「それって、私が変装するって事ですか?!」


 説明を求める二人に対し、順番に対応する。


「大丈夫です、このフェイス自体は完璧にコピーされた物ですので。演じる側さえ問題無ければ、見ただけでは看破できません。本当であればリーナに頼むのが良いのですが、しかし――」


 そう出来ない理由を話そうとしたファスだったが、そこで突然鳴った"呼び出し音"に言葉を止める事になった。その音は、丁度来客を知らせるインターフォンの音にそっくりだった。


 音に反応してユンファが呟く。


「誰か来た」


 それは、あたかも"お隣さんが来た"とでも言うような感じだったが、その様子を確認したファス含めた三人は身構える事になった。


 ユンファが操作すると、外の様子が壁に投影された。


「これは……近くの基地の部隊――軍隊じゃないか」


 映し出されたのは、敷地の前に並ぶ迷彩車両やそこから出て来る軍人の姿だった。


「もしかして、旦那がここに居る事を知って?」


 リーナの言葉に、昨日自分が起こした騒動を思い出して苦笑した。


「そうだとしたら、ここに居るのは不味いかも知れませんね。これ迄は、ここも軍の保護下にあった訳ですが、その軍が出張って来たとなると……出ましょうか」


 当然だが、ファスとしては"帰還しましょう"と言う意味だった。しかし、それを聞いたインシュンは、青い顔をして必死になって言った。


「いやいや、別に攻撃を加えなくても良いんじゃないか?! ほらユンファ(この子)も守らないといけないし、それにこちらが立ち去ればきっと追いかけて来ないだろうっ!?」


 何故か必死になっているのを見て、短くため息を吐くと言った。


「帰還する事に賛成です。私も別に、意味なく戦闘を始めるような事はしませんので」


「そ、そうだよな、ハハハ……」


 空笑いするインシュンに苦笑するが、何時までもこうしている余裕は無いだろう。リーナとユンファにも確認をすると、二人とも頷いたので脱出する事にした。


「そと、出る道あるから……」


 ユンファがパネルを操作すると、壁の一部が横に割れた。


 それを確認したファスは、二人に先に行くように言ってユンファを待った。


 どうやら、脱出口は下水に通じるように出来ているらしい。先に向かった二人が小さい悲鳴を上げているのが聞こえたが、気にしない事にした。


 フェイスマスクを懐に仕舞うと、ユンファの様子を確認する。


 何やら、パネル操作をしているのが見えるが、きっと"外出"する際の支度なのだろう。そのまま待っていると、小さな旅行用のケースを持ってユンファが来た。


「荷物とは珍しいですね」


 ユンファが荷物を持ち歩く事を見たことが無かった。


「これで全部、必要な物は入ってる」


 これ迄、殆ど外には出ず家の中で暮らして来たユンファだ。もしかすると、"楽しみ"なのかも知れない。――そう考えて少しばかり微笑んだが、ユンファが手を引いて来て急ぐ事にした。


「早く出ないといけない」


 何となく、必死な雰囲気を感じて答えた。


「そうですね、正巳様もお待ちですし急ぎましょうか」


 ファスの言葉に、若干首を傾げていたが直ぐに小走りで歩き始めた。その手に持たれた荷物ケースを代わりに持つと、ファス自身も出口へと歩き始めた。


 ◇◆


「これに乗って、出る」


 出口には、水の張られた水路とそこに浮かんだカプセルがあった。


 どうやら、一つのカプセルに付き二人乗りらしい。


「おい、マジでこれに乗るのか?」


「どうなるか想像は付きますが、本当に乗るのですか……」


 そこに居た二人から、其々否定的な意見を受けるが仕方ないだろう。


「大丈夫です、上を見て祈っていれば直ぐに着きますので」

「いやいや、これってあの下水に繋がってるんだろ?」


「ですから、目を閉じて祈っていれば――」


 同じ言葉を繰り返そうとしたファスだったが、その横をするりと抜けたユンファが乗り込むと言った。その言葉は短かかったが、嫌な予感と体を動かすには十分だった。


「もう少しで、ここ爆発する」


「はぁ……はあ?!」

「なるほど」


 ユンファの様子から、嘘でないと悟ったファスは急いで乗り込むと、インシュンも中に引きずり込んだ。上手く滑り込むように調整したから、怪我はしていないだろう。


「おい、ファスお前っ!」

「出ましょう――」


 ユンファの隣にリーナが乗り込むのを確認すると、カプセルのカバーを閉めた。


 何となく、安っぽく見えたカプセルだったが、そこらへんは流石だったらしい。見た目にそぐわない精巧な作りで、ぴっちりと閉まったのが確認出来た。


「おいっ、爆発って嘘だよな? なあ?!」


 横でうるさいインシュンだったが、水路が傾き始めたのを受けて静かになる。その後、ゆっくりと前に進み始めたカプセルの中、ファスは小さく呟いた。


「釘をさすのを忘れていましたね……」


 それは、昔聞いた"拠点を放棄する際の仕掛け"の事だったが、きっとフォンファでさえこの展開は予想していなかっただろう。


 少しずつスピードを上げて行くカプセルの中、横で縮まっている男が怪我をしないよう、配慮する事にした。

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