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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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70話 さあ、飛びましょうか

 出発した機体は、安定した飛行を見せていた。


「問題は?」

「多少雲は暑いですが、上にいるんで関係ないですな」


 確かに、見渡す限りずっと雲が広がっている。


「着陸には支障ないか?」

「まぁ、何とかなるでしょう」


 この男が何とかなると言うなら、そうなのだろう。


 グラハムの肩に手を置くと、「着時発時で頼む」と一言だけ言って下がった。後ろから「あいよ旦那!」と聞こえて来たが、その声は弾んで聞こえた。


「……やはり、飛んでいる時が一番生き生きしていますね」


 かつては、"飛んでいないと死ぬ"とまで言われた男だが、他に"後続の教育"という趣味を見つけた今でも、一番楽しいのはやはり飛んでいる時らしかった。


 操縦室を出たファスは、準備を終えて待っていた面々を見て言った。


「さて、あと数刻で目標座標です。最終確認をしましょうか」


 ファスの言葉で再三となる作戦確認をすると、装備確認へ移った。


 装備はそれほど多くは無い。と言うのも、目標であるユンファを確保して急いで撤収する、言わば"スピード重視"なのだから当然だ。


「なぁ、姉ちゃんは怖くないのか?」

「リーナです」


 インシュンがリーナに絡んでいる。


「あぁ、リーナちゃんか。それで怖くないの?」


 パラシュートに不備が無い事を確認をしながら、リーナが首を傾げる。


「怖いって、落下傘の事ですか?」

「そうだよ、高い所から飛ぶんだぜ?」


 どうやら、インシュンは怖いらしかった。


「私は整備士とは言っても、空軍所属でしたからね。それに、一時特殊部隊に所属してましたから。何方かというと、懐かしくてわくわくしますね」


 リーナの言葉に、意味が分からないという顔をしているインシュンに聞いた。


「任務でそういう経験は無いんですか?」


「無いない、そんな状況に陥ってたら工作員失格だぜ? 誰にも悟られず、裏で終わらしておくのが基本だろ。そんな、緊急脱出しなけりゃいけなくなるなんて、工作員としては二流だぜ……」


「なるほど、確かに表で動くのは我々の仕事でしたからね」


「だろ? だから、俺がこんな物付けて、飛ぶわけには行かないと思うんだよ。そうだほら、俺はこの機体が着陸してから直ぐ向かえば――」


「それで、訓練は受けられた経験が?」


「あるよ、嫌だったから最小限なっ!」


 駄々をこね始めそうなインシュンだったが、その言葉を聞いて頷いたファスは言った。


「そうですか、安心しました」


「おいおい、安心って何が――」


 ファスの言葉に食付いたインシュンだったが、機内放送が鳴ると共に状況を理解したらしかった。


『目標座標迄十、九、八、七……――』


 カウントが始まると共に、ファスが後部ハッチを開き始めた。


「くっそ、結局かよ!」


 嫌そうな顔をしているインシュンに、気合いを入れようかと思った。しかし、何やら呟いた後に覚悟を決めたらしかった。


 風の音で声が通らなくなっているので、ハンドサインで指示を出した。


 "飛べ"


 リーナが降りる。三、二、一、……


 "飛べ"


 一瞬躊躇するも、インシュンが降りる。


 あれだけ嫌がっていた割には安定した降下だ。


 その様子を確認すると、横についているボタンを押した。


 "ゴー"


 足を踏み出すと、自然に頭が倒れて行くのに任せ落下し始めた。


 後部ハッチは、十秒後には閉まっているだろう。


(作戦開始ですね)


 約束のリミットは残り約九十分だ。


 この時間は、飛行機の燃料を補給してくる都合もあっての時間設定だったが、万が一問題があった場合でも時間内に対処する理由も含まれていた。


 必ず、時間までには約束の場所に居なくてはいけない。


 この後待つ、厄介な"説得任務"の事へと意識を向けたファスだったが、雲の中へと突入した事で、一先ず目の前の事に集中する事にした。


(さて、二人は……あれですね)


 落下による風圧と付着する水滴に煽られながら目を凝らすと、微かに赤と青の光が見えた。どうやら、二人は先に、ある程度ポジションを確保していたらしい。


 光っているのは、雲の中でお互いを見失わないようにだ。単独任務であれば不要だが、複数人の場合は必要に応じて使用する。


(なるほど、"苦手"なのではなく"嫌い"なんですね)


 二人の光を見つけたファスは、広げていた両腕を閉じた。


 腕を閉じる事で空気の抵抗が少なくなったファスは、瞬時にして二人の横に追いつくと、其々が認識した事を確認してスイッチを切った。


 ファスが切った時点で二人の色も消えた。


(ここからは集中ですね)


 今回は、作戦用のスーツも着て来ている訳では無いのだ。パラシュートを開くタイミングなども含め、全ての行動はファスの指示で動く事になる。


 互いの距離が近くなり過ぎないように、離れないように気を付けながら降下していると、ようやく雲の切れ目が見え始めた。


(少し流されましたね)


 自分達の位置が、予定の座標より少しずれている事を確認したファスは、若干方向をずらす事をハンドサインで伝えると、片腕を動かして方向をずらした。


(……ふむ、リーナはともかくインシュンも流石ですね)


 ぴたりとバランスを保ったまま付いて来ている事を確認したファスは、あと数秒もしない内に目標高度に達する事を確認し、"散開"の指示を出した。


 二人が十分な距離離れた時点で開くと、ほぼ同時にもう二つパラシュートが開くのが確認出来た。


 眼下に見え始めた街並みと、その中に見える小さな白い家を確認した。目的地点を確認したファスは、今のところ軍基地に動きが無い事に安堵していた。


(ここで介入されても面倒ですからね)


 もし戦闘が始まってしまえば、ベストを尽くす他無い。しかし、それはそれで時間とリスクが掛かって来る。一番良いのは"不介入"を通してくれるのが一番助かるのだ。


 はっきりと白い家が視認出来た処で、微調整をしながら降りて行った。


 地上には住民が集まってこちらを見ていたが、着地した時点で蜘蛛の子を散らす様に散って行った。きっと、何か危ないやつらに見えたのだろう。


 散って行く住民の姿を見ながら、(軍の方に報告が行きそうだな)と思った。この辺りには警察などは存在しないが、治安維持の面では軍がその役割を果たしているのだ。


「時間との勝負ですね……」


 そう呟いたファスは、着地を終えた二人に言った。


「それでは、訪問しましょうか」

明日も更新します。

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