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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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69話 幸せそうなごはん

 心地よい目覚めだった。


 意識がぼんやりと覚醒していく中、吸い込んだ空気が澄んでいて、いつもと違う気配を何となく感じた。そして、薄目の向こうに見える木目の天井と、感じる人の気配……。


「あぁ、そうだったな……」


 ぼんやりと掠れる視界を目で擦りながら体を起こす。


 何となく足に重みを感じてそちらを見ると、そこには男の子が思いっきり乗っかっていた。その男の子を起こさないように横の布団へと寝かせると、壁際に寄り掛かっている男の姿が見えた。


 挨拶しようとして口を開いたが、他の子を起こしてしまわないかが気になって、結局手を上げて挨拶するに留めておいた。


 そんな様子に苦笑いして、男が低い声で返して来る。


「少し出るか?」


 それに頷いた正巳は軽く体を捻り、ストレッチさせてから立ち上がった。


 そこに雑魚寝しているのは、子供含めた男性八名だ。一番下の子で五、六歳ほどだろう。女性達には、隣の部屋――ベッドのある部屋に寝て貰っている。


 既に、何処に誰がどういう順番で寝ていたかも分からないほど、其々が滅茶苦茶な寝相をしている。そんな混乱状態の布団の上を、踏まないように気を付けながら移動すると、ようやく布団の外まで出る事が出来た。


「外は少し寒いからな……」


 そう言って差し出して来る上着を受け取ると、音が立たないように気を付けながら廊下に出た。


 ◇◆


 部屋の外に出た正巳は、上着を渡してくれた男――インシュンに断ってから顔を洗って、水分補給をして来た。朝の水はキュッと締まっていて、とても冷たかった。


「待たせたね」


 リビングに居たインシュンに声をかけると、インシュン本人は微妙な顔で頷いて来た。その様子から、朝に弱いのかと思って聞いたのだが――


「いや、そんなこたぁないぜ……」


 どうやら、テンションが低いのには別の理由があったらしい。


「それじゃあどうして――……あれ?」


 何となく、"足りていない"気がして首を傾げた正巳だったが、少し考えてみて気が付いた。そこに入る筈のファスが居なかった。何なら、グラハムもジョンも姿が無い。


 そんな正巳に、ため息を吐いたインシュンが言う。


「あいつ等、自分達が目を覚ましたタイミングで俺迄連れ出しやがったんだぜ、信じられるか?」


 と言いながら、「まったくよぉ俺は肉体派じゃねえんだよぉ」と続けている。どうやら、ファス達に"朝の運動"へと連れ出されていたらしい。


 当のファス達が見当たらないので、その事を聞いてみた。


「ファス達は何処に?」


「機体の整備やら何やらして来るって言ってたからなぁ……。でも、今日はリーを連れて行ったから、流石にそろそろ戻って来るんじゃ――」


 インシュンがまだ話し終えない内に、玄関で音がした。


「おはようございます、正巳様」

「おはよう、相変わらず朝早いね」


 ファスは、現在正巳の家住みだ。その為、ファスが尋常じゃない時間――日が昇る前に起きて、早朝のトレーニングに出ている事を知っていた。その為、ファスについてはいつも通りな訳だが……


 グラハムの横に居る少女に苦笑した。


「シェルリーは見学して来たのか?」


 そこに居たのは、"シェルリー"……グラハムが"飛行機の操縦を教える"と言った少女だ。


「です」


 短く答えた少女が欠伸をするのを見て、頬を緩めているとグラハムが言った。


「のんびりしている時間なんて、ありゃしませんからのぅ。今日は、基本的な機体の知識を頭から尻尾まで、順を追って説明してたんですわ」


 どうやら、早速今日から教習が始まっていたらしい。


 その後、手を洗って帰って来た面々と談笑していると、シュアンがトコトコと歩いて来た。


「あっお父さんだぁ~」


 まだ眠いのだろう。ふにゃふにゃと歩いて来ると、正巳の膝の上で落ち着いている。そんな様子を見ていたシェルリーが、シュアンを見てそれから正巳の膝へと視線をやっている。


 そして、ボソッと呟いた。


「いいな……ふてゅん(・・・・)……」


 呟いてからぼーっとしているので、リーナにお願いして布団へと連れて行ってもらった。


 その後、ファスが淹れてくれた珈琲を啜りながらのんびりしていると、寝起きの面々が起きて来た。どうやら、昨日の疲れが残っているメンバーが多いらしい。


「洗面台は廊下出た所にあるよ」


 ぞろぞろと出て行く姿に苦笑した正巳だったが、ファスの持って来た朝食を見て言った。


「顔を洗うより、朝食(この)匂い嗅いだ方が目が覚めそうだな」


 そこに出て来たのは、何処から出して来たのか焼き立てのピザだった。そのチーズの匂いを嗅いだだけでお腹がお腹が鳴って来たが、膝に乗っていたシュアンも同じらしかった。


「あのね、美味しそうなの! 今まで見た中で、一番幸せそうな朝ごはんなんだよ?!」


 目は覚めた様子だったが、どうやら感情に言葉が追い付いていないらしかった。


 そんな、興奮状態にあるシュアンが手を伸ばそうとするのを防いでいると、顔を洗いに行っていたメンバーがパラパラと戻って来た。


 戻って来た面々に共通していたのは、直ぐに手を伸ばそうとする事だったが、それは残らずシュアンによって防がれていた。


 正巳の一つ隣に座っていたインシュンは、少し恥ずかしそうに「俺が面倒を見るようになってから、ずっと"早い者勝ち"でやってたからなぁ……」と呟いていた。


 そんなインシュンの言葉を聞いて(これは、少しばかり"常識"としてのマナーを、差し支えない程度に教えとかないといけないかもな)と思った。


 その後、朝食を食べる前に手を合わせて「いただきます」と言う"心がけ"を話した正巳は、話している最中の"速く食べさせろ"オーラに苦笑したが、それでも全員が教えた通りにしているのを見てホッとした。


 朝食は、全員がお腹いっぱいになる量が十分にあった。


 食べ終えたシュアンに、朝食はファスが用意した事を伝えると「ありがとう」と伝えていて、それを見た正巳はまた、心が温かくなるのを感じた。


 朝食を摂ってから一時間ほど経ったところで、ファス達が出発する時間が来ていた。


「よろしく頼むな」


 そう言うと、頭を下げたファスが応えた。


「お任せください。きっと、ユンファも正巳様が気になる筈です」


 ファスの言葉に、(そこは"冒険に釣られる筈"とかだろうが……俺に気を使ったんだろうなぁ)と思った。しかし、それを口にするのも野暮なので、ただ頷くだけにしておいた。


「俺が死んでも、そいつらだけは頼むぜ」


 最後に搭乗して行くインシュンの"笑えない冗談"に「ファスが居るから大丈夫だ」と返すと、ハッチが閉まるのを見届けた。


 その後、加速し始めた機体はゆっくりと小さくなって行き、やがて、米粒からゴマ粒、そして毛先程の大きさになって行った。


 その姿を見送っていた正巳達だったが、やがて流れて来た雲、その向こうに消えた時点で言った。


「戻って来るまで何してようか……」


 その呟きに、最初に反応したのはシュアンだった。


 隣に立っていたシュアンは、手をめいっぱいに挙げると言った。


「あのね、探検したいの!」


 どうやらシュアンは、目の前に広がる"訓練コース"が、気になっているみたいだった。しかし、そんなシュアンにリュウアンが言った。


「なぁ、俺は休んでて良いよな? 流石に"訓練だ"なんて言わないよな?」


 どうやら、昨日の夜ファスにこってり絞られたのが、効いているみたいだった。そんなリュウアンに、ニヤリと笑って見せるとファスの調子を真似るようにして言った。


「ええ、その代わり治ったら"倍"しごきますから、そのつもりで。――なんて……」


 最後に冗談だと落ちを付けようとした。しかし、そんな正巳の視界には、既に大急ぎでロッジの中へと戻ろうとするリュウアンの姿が映っていた。


 何となく、トラウマ(・・・・)が残ってないかが気になったが、それならそれで先走り気味リュウアンの"抑え"になる気がした。


 ロッジの中へと戻ったリュウアンを見送った正巳は、そこに居るメンバーに対して言った。


「昨日の"コース"、少し体験してみたくはないか?」


 正巳の言葉に、その場にいた殆どのメンバーが手を上げていた。


 その様子を確認したジョンは頷いて言った。


「残ったのは私だけですが、指示を守ってもらえるなら案内しますよ」


 ファス、リーナ、インシュン、そしてパイロットのグラハム。この四人がいない今、ジョンが案内役になるのは必然だった。


「悪いな」

「いえいえ、旦那から"頼まれて"いましたので」


 どうやら、ファスに読まれていたらしい。


 普通なら驚く所なのだろう。しかし、既にそう言った"ファスの先回り"に慣れてしまっていた正巳は、頷くだけで納得していた。


「そうだったんだな」


 正巳が瞬時に受け入れている事に、ジョンの方が驚いていた程だったが、小さく自分を納得させる呟きをすると、案内を始める事にした。


「やはり、旦那の主人も旦那色……似たもの同士って事ですね」

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