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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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66話 訓練コース

 シュアンを抱えたまま室内に戻ると、ファスが言った。


「こちらのモニターに、今どの辺りにいるかが表示されます」


 ファスが引き出したのは、薄型のモニターだった。どうやら、曲げられるモニターらしく、まるで少し厚手の布を引き出しているかのようだ。


 ファスが用意するのを見ていると、他の人達も集まって来た。


 その中にはジョンとグラハムは居なかったが、見るとソファで酒を開けていた。結果に興味がないのか、それともリーナが勝つ事を信じているのかは分からないが、二人は楽しそうだ。


 ファスが準備が出来たと言うので、モニターを見た。


「この"A-1"と"B-1"ってのがそうなのか?」


 モニター上の青と赤の点を見ながら言うと、ファスが頷く。


「はい。青の点――"A-1"がリュウアンで、赤の点"B-1"がリーナですね」


 それぞれ、地図上ではそれ程離れて見えないが、縮尺のされ方を見るに実際には一キロ以上差が付いているだろう。そして、現状でリードしているのは青の点だ。


 啖呵切るだけあって意外と根性があるらしい。


「リーナは、三か所も多く回らないといけないんだろ?」


 不安になった訳では無いが、何となくこのまま根性でペース維持されたら……と考えた正巳だったが、ファスの説明を聞いて(なるほどな)と思った。


「ええ、確かに只の長距離走であれば、その可能性もあっと思います。しかしここは"保養所"、英気を養い十分に心身共に鍛え上げる。その為の訓練設備なのです」


 どうやら、単に早く走ればよい訳では無いらしい。


「つまり、何らかの"訓練"な訳か……どんな訓練をさせられるんだ?」


 そう聞くと、掻い摘んで説明してくれた。


「初めの二か所は其々、"波打つ足場"と"バラ線の道"ですね。脚力と全身のストレッチです。他は、大きな岩が転がっている"岩エリア"や、湖の中心まで丸太の上を行く"丸太渡り"なんかがあります。一応、バンドの上部に何方に行けばよいかの矢印も出るので、大丈夫かと思います」


 ファスの説明を聞いていると、確かに何となく"大丈夫"な気がして来るが、よくよく考えて見るととんでもない訓練場な気がする。


 恐る恐る聞いてみる。


「それで、其々どれくらいの時間がかかるんだ?」


 単純に考えても、一つのエリア毎に約一~二キロメートルの距離があるのだ。"バラ線の道"は全身のストレッチとか言っているが、恐らくほふく前進の事だろう。


 ……普通に考えて、一キロほふく前進とか尋常じゃない。


 何とも言えない表情を浮かべた正巳に、ファスが言った。


「個人差はありますが、皆さん一周一時間ほどで帰って来ます」

「因みに、お前はどの位なんだ?」


 何となく聞いた正巳は、ファスの答えに苦笑しかなかった。


「私は、その半分ほどで」


 その後、シュアンが「動いてるの!」と、どうやら二人のレースの様子が気になるらしかった。正巳としては結果が分かれば良かったので、そこに下ろすとジョン達の居るソファまで歩いて行った。


 ソファは革製でゆったり四、五人が座れる大きさのモノだ。


 その前のテーブルには、幾つか持ち出して来たと思われるボトルがあった。恐らく、部屋の隅にあるカウンター辺りから持って来たのだろう。


「座っても良いか?」


 正巳が聞くと二人が頷いたので、グラハムの横に座る。


「正巳様は何を飲まれますか?」

「俺は水で頼む」


 ここでアルコールなど入れれば、途端に疲れにやられるだろう。頷いたファスがカウンターの方へと向かうのを見送ると、グラハムに聞いた。


「彼女、筋が良いんですか?」


 聞いたのは、グラハムが条件として出した"少女へ飛行機操縦の訓練を付ける"こと、に関してだった。正巳の言葉に頷いたグラハムが言う。


「きっと、独学でどうにかこうにかやって来たんでしょうなぁ、基本が無茶苦茶なんです。本当になってない。……ですがね、その代わりに"感"だけはずば抜けてる――風が見えるんですかね?」


 酔っているのか、途中で"どうなんですか?"と聞いて来るのに苦笑する。


「それは凄そうですね、私も少し興味があったので羨ましいくらいですよ」


 そう言って、他のメンバーと混ざってモニターの前で興奮する少女に呟いた。すると、それを聞いたグラハムは"我が意を得たり!"とばかりに言った。


「おお、坊ちゃんもですか! それじゃあ、わしがみっちりしごいて――」

「正巳様、こちらお水になります。それと、グラハムは早朝一周では足らないようですかね?」


 ファスの言葉に、グラハムは一気に酔いが覚めたようだった。


「ふむ、坊ちゃんの都合が良い時に顔を出せば、それで構わんよ」

「――だそうですので、ほどほどに見学(・・)されると宜しいかと思います」


 グラハムをけん制するファスに苦笑していた正巳だったが、歓声が聞こえて来た。


「おぉー追い抜かしたぜ!」

「すごいね、逆転だよ!」

「青は最初勢いが良かったけどな~」

「ね、それに比べて赤はペースが落ちないよね」


 どうやら、リーナがリュウアンを追い抜かしたらしい。仲間が抜かされている筈だが、どうやら実際に見ているのが青と赤の点と言う事で、"だれ"なのかはどうでも良くなっているみたいだ。


「思ったよりも早かったな」

「そうですね、第二地点後半(・・)ですか……」


 感心した正巳だったが、どうやらファスとして見れば引っ掛かる点があるらしい。


「どうした?」


 正巳が聞くとファスが答える。


「いえ、リーナであればもう少し早く抜けたはずですが、弛んでいる様ですね」


 そう言ったファスだったが、ジョンが恐る恐ると言う様子で言った。


「あの、旦那……リーナは女性なので、地面をすって前進するのは、男より少し遅くなっても仕方がないと言うかなんと言うか……その、夢が詰まっていますので、はい」


 ジョンの言葉でどうやら理解したらしい。


「む、そうでしたね、それでは仕方ないですね」

「それでは、明日の朝は普段通りで……?」


 頷いたファスにほっとするジョンを見ていた正巳だったが、グラハムの耳打ちで理由が分かった。


「旦那は厳しいからの、訓練は常に"班で一緒に"連帯責任なんじゃよ」


 以前、ファスの補助役でもあるミヤから聞いていたが、ファスは元々"戦闘員"タイプの執事だったらしく、そのキャリアも傭兵執事としての上に成り立っていたらしい。


 厳しい理由は何となく理解できるが、しっかり付いて来ているジョン達も凄いと思う。


 そんなこんなで、その後もしばらくのんびりと話していた面々だったが、モニターの前に集まったメンバーがざわざわとし始めた。


「どうした?」


 こちらに来たシュアンに聞くと、困ったような顔をして言った。


「あのね、青い点が途中で止まっちゃったんだよ?」

「止まった?」


 シュアンに連れられてモニターの前まで行くと、確かに止まっていた。


「きっと、休憩しているんだよ」


 そう言った正巳だったが、シュアンは心配そうに言う。


「あのね、それ迄は動いてたんだけどね、なんか止まったの」

「そうか……分かった、ちょっと待っててね」


 シュアンの説明は要領を得なかったが、どうやら他の人達も不安に感じていたらしい。不安そうにする面々に落ち着くように言うと、ファスに聞いた。


「確認出来たりしないか?」


「監視用ドローンがありますが……もしかすると、クライミング中に手を滑らせたのかも知れませんね。丁度この辺りは、短い崖が段々に連なっているエリアですので」


 そう言ったファスは、モニターの端を操作した。

 どうやら、このモニターで監視システムを起動したらしい。


「……これで、"A-1"の位置――リュウアン君の映像が映る筈です」


 操作し終えたファスに頷いた正巳だったが、その直後映った映像に思わず呟いた。


「まじか、これやばいんじゃないか?」


 そこには、うずくまったまま動かないリュウアンの姿があった。その様子を確認したファスは、数秒間モニターを見つめていたが、やがて言った。


「これは"肉離れ"でしょうね。高さ的に、落ちても打撲程度で済む筈ですから、恐らく足に力を入れた瞬間怪我したのでしょう。このままでは自力で帰れないでしょうから、迎えに行ってきます」


 そう言ったファスは、ジョンとグラハムの二人に「正巳様を頼みました」と言い、数度のストレッチをすると出て行った。あっという間の事で反応が出来ないでいたが、苦笑したジョンが言った。


「大丈夫です、旦那なら直ぐに戻ってきますよ」


 その絶対的な信頼を見て、正巳自身も何となく大丈夫な気がして来た。


「そうだよな……後は見守っているしかないよな」


 その後しばらく、心配そうなメンバーと一緒にモニターを見ていた。


 リュウアンは、うずくまったり腿をマッサージしていたりしたが、やがてモニター上に何やら影が現れ、あっという間にリュウアンを背負ってしまった。


 その後の様子もしっかりモニターに映されていたが、どうやら監視ドローンはリュウアンを映すように設定されているらしかった。


 きっと、腕に付けたバンドに反応しているのだろう。


 ファスがリュウアンを確保した後の動きを見ていたが、とてもひと一人背負っている動きとは思えなかった。それこそ、担いでいるのが綿人形か何かの様な勢いだ。


「すごいね、お父さん(・・・・)……」

「ああ、すごいな……」


 そんなこんなでモニターに釘付けになっていた正巳だったが、それ迄ファスがいた位置を、二人の男が担っていた事に気が付く事は無かった。

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