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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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63話 人攫いの理由

 ファスの言う処の"保養所"は、確かに素晴らしいものだった。


 ログハウス風の家に、五つほどある客室。それぞれの部屋に風呂はないものの、別で源泉が湧き出す露天風呂があり、何とサウナまで付いていた。


「ふぁ~疲れたなぁ~」


 露天風呂に浸かりながら息を吐く。


「正巳様?」


 後ろからの声に振り返ると、そこにはすっかり出来上がった男と、それを迷惑そうにしながらも支えるファスの姿がある。どうやら、ファスが持ち出した酒にやられたみたいだ。


「いや、気持ち良くてなぁ。それよりそいつは大丈夫か?」


 赤く火照った顔のインシュンを心配そうに見ると、ファスが頷く。


「はい、臭くなくなりました」


 念のため(・・・・)と言う事なのか、鼻を近づけるファスに苦笑する。


「いや、その事じゃないんだが……まぁ良いか」


 実は、こうして風呂に入っている理由の一つは"臭かった"からだったりする。


 そして、予想はしていたが――

 臭かった原因は、"フォンファ宅"から妹のユンファを攫おうとした結果だったらしい。ざまぁないとは思うが、顔を歪めて"下水を流れた話"をするインシュンは、思い出すのも嫌そうだった。


 因みに、他のメンバーや子供やらは、着いてすぐに風呂に放り込んでいた。今頃は、リビング辺りでゆったりとしている筈だが……まぁ、何かあってもジョンやリーナがどうにかしてくれるだろう。


「それにしても、まさかこうなるとは……」


 インシュンを風呂の淵に寄せながら、ファスが苦笑している。そんな様子を見ながら、正巳は確かになと頷いた。


「そうだな、俺も予想していなかったよ」


 頷いた正巳だったが、ファスは何処か不満げだった。正巳の言葉に相づちを打ちながらも、じっとこちらを見つめながら口を開く。


「……それで、正巳様はどこから起きてらしたんですか?」


 何となく言いたい事は分かったが、正しいか分からないので確認する。


「どこからと言うと、俺が"基地が破壊"されている時にも起きていた――そう思たって事か?」


 様子を伺いながら続ける。


「初めに説明したがなぁ……俺が目を覚ましたのは、ファス(おまえ)が屋根をぶっ壊す(・・・・)直前だよ。それで、色々聞こえて来たから良かったけどなぁ。そうじゃなきゃ今頃どうなっていた事か……」


 ファスが突入する直前聞こえて来た内容があって、今こうしてゆったりと出来ている。そうでなければ、ファスによる一方的な破壊が尽くされていただろう。


 これが、初め聞いた通り"傭兵"なんかであったら違ったのだろうが、インシュンはどうやら様々な情報を集めたりその下準備をする"工作員"らしかった。


 流石に、工作員ではファスの相手は務まらないだろう。


 正巳の言葉に、申し訳なさそうに言った。


「いえ、インシュンは"超一流"の工作員ですので、正巳様が協力せざるを得ないように"誘導"されたのかなとも思いまして……確かに、基地をしらみつぶしに"探した"のは悪手だったかも知れませんが」


 申し訳なさそうに言うが、とんでもない話だ。


 ファスは、正巳の姿が消えた事から(軍が身柄を拉致した)と思ったらしい。そして、何処かに捕らえられている筈の正巳を探し回り――その結果、ありとあらゆる立ち入り禁止エリアを……。


 そんなこんなで、ファスの事を止めようとする軍を壊滅させ……最終的には、慌てて空に逃げたインシュン達に気が付き空まで追いかけて来た。――そういう事だった。


 酔いつぶれているインシュンに視線をやりながら、ファスに言う。


「それで、これはもう決めた事ではあるが……本当に良いのか?」


 正巳の言葉にファスが頷く。


「ええ、正巳様の決定に従います」


「しかしなぁ、問題の組織って言うのは、俺でも知ってるくらいに有名でヤバイ奴らなんだろ?」


 ファスが頷く。


「国際的にテロ集団……最近ではテロ準国家(・・・)として認知されていますので」


 テロ準国家つまり、集団としてそれなりに規模の大きい団体なのだろう。


「そんな奴らがフォンファの妹を狙っているのか」


 つくづく面倒な話だ。


「それに、インシュンらを使ってユンファを狙いに来ていると言う事は、ユンファでないと解決できない問題があると言う事です。必ずこの後も狙われる事になるでしょう」


 なるほど、しつこいだろうなぁ……。


「もしここでインシュン達を解放すれば、ユンファを迎えに来た我々の事は確実に相手側に漏れる事になります……つまり、今彼らを殲滅しない以上、選択肢は一つしかありません」


 真っすぐ見て言うファスと視線を合わせ、そのままその腕や胸、腹部へと視線を移して行く。その全てが鍛え上げられていて、無駄がなく美しい。


「俺は付いて行けないんだよな?」

「申し訳ありませんが」


 決めたのは正巳でいて、危険な目に遭うのはファス。それに申し訳なさしかなかったが、正巳が付いて行くとそれだけ"成功率が落ち"、"危険になる"と言うのだから仕方がない。


 ファスを信じた自分を信じる事にして、インシュンを見てため息を吐いた。


「それにしても……"惚れた女性"を人質にされて、その女性の子供達と共に奮闘するとは……こんなに物語っぽい事してるやつが居るんだなぁ」


 正巳の言葉に、ファスが苦笑して同意を見せる。


「ええ、そうですね。ここ迄不器用な奴は少ないかと思います。私であれば、即座に殲滅しに行きますし……っと、甘いですね。腰が入っていませんよ」


 ファスの話中に、それ迄酔いつぶれていた筈のインシュンが腕を振った。しかしそれは、当たる前に難なく、ファスの手の平によって止められていた。


「くっそぉ、何だよ。俺はお前みたいな化け物じゃないんだよ!」


「貴方は工作員としては一流かもしれませんが、前線には出られませんね」


「ったりまえだろう、裏で動くのに表に出てどうするんだよ!」


「そんなんだから、必要な時に困るんです。今度鍛えて差し上げます」


 どうやら、インシュンが酔っていたのは"演技"だったらしい。正巳からすれば、インシュンの手刀も中々の速さだったと思うのだが……やはり、正巳が居ても邪魔になるだけらしい。


 話し合いでは、捕えられているインシュン達の大切な人を、テロ集団として悪名高い組織から助け出す事になっていた。


 そして、その集団の中に入り込む為には、ユンファが必須だ。


「なぁ、本当にフォンファには伝えなくて良いのか?」


 これは、本来の目的から考えると、言わば"寄り道"みたいなものなのだ。その寄り道の中で、守るべきユンファ(対象)を危険な目に遭わせると言うのは、少しまずい気がする。


「大丈夫です。以前にも同じような事がありましたし、それ以来任せられていますので」


 どうやら、フォンファとファスの間には、固い信頼があるらしい。


「それじゃあ、ユンファ本人の意思は?」


 そう、姉が大丈夫だと言っても、本人が嫌だと言ったら話にならないだろう。その辺りが問題になるのではと思ったが、どうやらファスの意見は違ったらしい。


「ユンファは少し……いえ、かなりこういった類の"冒険"が好きなので心配ないかと。それに、これ迄もついて来ようと色々大変な目に遭った記憶もありまして……」


 どうやら、そもそも少しは自重をさせなくてはいけない部類の人間だったみたいだ。ファスの言葉に苦笑しながら答えた。


「そういう事なら、任せるよ。それが最善だろうしな……」


 正巳がそう言うと、ファスは静かに頭を下げた。そんなファスに、何となく気恥ずかしい感情が沸いて来た正巳は、誤魔化すように言った。


「それじゃあ、上がったら例のガンソードを見せてくれよ!」


 急に話題を変えた正巳だったが、それにも微笑みをつくったファスは、頷くと共に言った。


「ええ、普段見せる事は有りませんが、今回はそれなりに酷使しましたからね。今日はメンテナンスの際に、特別にご覧に入れましょう」


 その後サウナに入り直した三人は、一同が待つ部屋へと戻る事にした。

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