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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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54話 空腹の理由

 ファスに関する話で盛り上がっていた正巳とフォンファだったが、その声を聞きつけてか奥から、ワラワラと人が出て来た。どうやら、外に出ていたメンバーも帰っていたらしい。


「あっ正巳さん、帰って来てたんですね!」

「お、ヒトミも上がって来たのか」


 頷くヒトミだったが、脇から出て来た博士に割り込まれる。


「ちょっとぉ、今日は私の日(・・・)なんだからぁ」


 言いながら飛び付こうとして来るが、途中でファスの威圧の籠った視線を受けて足を止めている。その様子に苦笑しながら、言葉を返した。


「いや、"私の日"って……。博士も研究終わったんですね」


 博士は昨日から研究の為に地下に籠っていたが、それがひと段落したのだろう。寝ていないのか、若干顔に疲れが浮かんで見える。


「そうなの。これからヒノキちゃんと乙女会(・・・)があるから、それで頑張ったのよ~」


 博士がそう言って振り返ると、建築家ヒノキがどうもと頭を下げて来る。


「乙女会と言うのは初耳ですが……。そうですね、確かに今日の何処かで研究施設のヒアリングをする予定でしたが……あら? そちらが今日の打合せ相手の?」


 ヒノキの言葉に、頷きながら紹介した。


「あぁ、こちらがフォンファさん。システム設計のスペシャリストで、色々と効率化して貰う事になってる。しばらく一緒すると思うから、よろしく頼むね」


 正巳の言葉にフォンファが付け加える。


「まだ、正式に契約した訳じゃないけどね」


 恐らく、特に何か意図した訳では無いのだろう。しかし――


「えっ、帰っちゃうんですか?」


 ヒトミが残念そうにしている。


「いや、そういう訳じゃないぞ。今日改めて確認をしてだな――」


 説明しようとした正巳だったが、無言で駆けだしたフォンファに驚いた。当のフォンファは、何故か両手を前に突き出したまま駆けていたが――ヒトミの前まで行くと、そのまま抱き着いた。


「帰らないよ~~居るよ~~ずっと居る!」

「ちょ、ちょっと……あの、友達でしたっけ?」


 抱きしめるフォンファに、困惑するヒトミ。


 余程驚いたのか、知り合いを通り越して友人だったかと首をひねっている。流石に、友人であったら忘れてなどいないだろうし、少しは自分の記憶に自信を持ってほしい。


 どうしたものかと思ったが、別に何か危害を加えている訳でも、誰かが被害にあった訳でもない。一先ず放っておく事にして、聞いた。


「あれは?」


 ヒトミに抱き着くファンファを見ながら、ファスが答える。


「恐らく、自分の妹に姿を重ねたのでしょう」

「似ているのか?」


 もし似ていると言うならば、どう似ているのかも気になるが……。


「そうですね、雰囲気は似ているかも知れません」

「……あほな子なのか?」


 悪気があった訳では無いが、咄嗟に出たのはこの言葉だったが――


 これは、先日ヒトミにとある注文を頼んだ結果、とんでもない量(段ボールひと箱分で良いのに、コンテナ一つ分)注文されたのが影響していた。


 きっと、ファスもその事を思い出したのだろう。苦笑すると言った。


「いえ、何方かと言うと優秀過ぎるほど優秀です。ただ、優秀過ぎる為か少しばかり思考の次元が外れていると言いますか……。まぁそうですね、"一日の活動に必要な分だけの栄養が欲しい"と料理を頼んだら、必要な分だけの栄養を"カプセル"に入れてくれるような子です」


 実体験なのだろう。どこか思い出すように言うファスに「なるほどな」と返すと、再びヒトミとフォンファへと目を向けた。


 その後しばらく、場所を移しても――ヒトミはフォンファに好きにされていた。


 その様子を伺うに、何となくだが(普通に容姿が似ているのだろうな)と結論付けていた。ファスは、珍しくその辺りを明言しなかったが……


 きっと、ファスとフォンファの間での取り決めがあるのだろう。


「……それじゃあ、もう少し横に拡張した方が良いですね」

「そうね、その辺りはヒノキちゃんに任せるわ」


 聞こえて来た声に目を向けると、途中で抜けていたヒノキと博士が戻って来るのが見えた。どうやら、リフォームの為の打合せが終わったらしい。


「終わった?」

「一先ずは」

「もう、完璧のぺきよ!」


 頷くヒノキに、嬉しそうな博士。


「そっか、それじゃあ次は――」


 言葉を続けようとした正巳だったが、そこで鳴ったお腹の音に苦笑した。


「一先ず昼にしようか」

「そうだね、ははは……」


 正巳の言葉に頬を掻いた腹の主だったが、その拍子に外れた拘束からヒトミが逃れて来た。


「正巳さん、どうして助けてくれないんですか~」


 ぽかぽかと叩いて来るが、攻撃力ゼロなので軽くいなす。


「そうだな、悪かった。……ファス、悪いが昼飯を出して来てくれるか?」


 ヒトミを受け止めた正巳に、ファスが頷くと倉庫へと下がって行った。


 この家には、コンビニの内食品の廃棄前の物が保管されている。量が量なので、保管する倉庫は巨大な冷蔵庫となっているが、その中から期限が迫るモノを片っ端から消費しているのだ。


時々、コンビニに列をなしている人たちに"サービス"として、期限直前のピザなどを温めて差し入れてるが、これも評判を上げてるらしい。まさにウィンウィンな関係だろう。


 その後、ヒトミの不満を黙って受けていたが、静かになったフォンファに目を向けると、ソファに黙って倒れ込んでいるのが見えた。


 両脇では博士とヒノキが様子を確認しているが、単にお腹が空いただけと知ってホッとしている。


「何時から食べてないの?」


 かすれた声でフォンファが答える。


「……きのうの……あさ」

「あら? 貴方、栄養カプセル持ってるじゃない」


 フォンファの腰に着いたポーチから、博士が何か錠剤を出す。


「……それは……いもうとからの、たいせつに……しまっておくの」


 力を振り絞ってソレを奪い返したフォンファは、大切そうに仕舞い直している。その様子を見ながら、つくづく妹の事が好きなんだなと思いながらも、突っ込まざるを得なかった。


「いや、それは必要だから貰ったんだろうに。摂らないと駄目だろ!」


 正巳の突っ込みに、フォンファが首を振る。


「だめ……たいせつ、もらった……いもうと……」

「いやいやいや、そんな遺言張りに言われても」


 フォンファの謎の行動に苦笑しながら、ふと思い出した。


「あれ? 公園で寝てたのは、お腹が空いてだったんじゃ……」


 そうだったとしたら、もっと早くお腹が空いていると言ってくれれば良かったのに。


「……」


 何か理由があったのかなと思ったが、無言でヒトミへと近づこうとしているのを見て思い直した。


「自業自得です。以前にも同じ事がありましたから」


 気にしないで下さい、と言うファスに頷く。


「そうだな。流石に、救いようがないかもな」


 必要な栄養を自分で摂らず、ここに着いてからは、ヒトミに夢中になる事で自分でそのタイミングを伸ばした。……完全な自業自得だろう。ただ――


「ただ、一緒に働くなら、その辺りを配慮するのも俺の仕事だよな」


 そう言うと、ファスが持って来た内の、クリーム入りのパンを取った。


「はら、ゆっくり――水と一緒に食べてくれ」

「あむ、あむ……おぃし……」


 パンをほお張りながら、水を流し込むフォンファだったが、所々でパンを詰まらせそうになっていた。それを、ゆっくり食べるようにと落ち着かせていたが、二つ食べ終えた処で落ち着いて来た。


「大丈夫そうだな……ファス、悪いが他も用意してくれるか?」


 ファスが持って来た中には、グラタンやピザ、餃子等があった。


「承知しました」


 ――その後、ファスが戻って来た処で皆で昼飯にした。


「そう言えば、ミヤはまだ帰って来ないのか?」


 朝方出かけたミヤだったが、もうとっくに帰っていても良いはずだ。


「そうですね。自動二輪車(ツーサイクル)――特注したバイクを受け取りに行った筈ですから、戻っていないとおかしいですが……なにか問題が起きたのかも――」


 正巳の言葉に、ファスが確認を取ろうとした所で爆音が聞こえて来た。


「……フルスロットルだな」


 腹の底から響いて来るような音だった。


「見て来ます」


 立ち上がろうとする正巳を制止したファスが、玄関へと歩いて行った。


 その後、近づいていた爆音は、家の前まで来たところで止まった。


 耳を澄ませていた一同は、玄関での短いやり取りと、聞こえて来た足音に"何か問題が起きたのだ"と悟った。そして、その扉へと視線を向けていたが……


 扉を開いたミヤの言葉に、正巳は立ち上がっていた。


「正巳様、車屋が乗っ取られます!」


 どういう事か詳しく聞きたい処だったが、その様子から伺うに、時間の余裕はないらしかった。

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