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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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47話 ドーソン博士

 担当者が責任者を呼びに行ってから数分後。ドア越しでも分かる、大きな話し声が聞こえて来た。言葉の意味は分からなかったが、何となく責めるような調子だ。


「訳してくれるか?」


 もし何か機嫌が悪いのであれば、こちらも気を付けなくてはいけない。そんな事を考えての頼みだったが……正巳の言葉を聞いたファスが、一瞬苦笑いを浮かべた気がした。


「承知しました……『もうっ、あなたのせいで怒って帰っちゃったら減給よっ! まったく、久し振りに可愛い子が来たと思ったのにっ! それでどの部屋なの、その男子が――』」


 ファスの口から出る言葉に困惑した正巳だったが、数秒聞いていてどういう(・・・・)話かようやく理解できた。そこで、確認しようと慌てて遮った。


「ちょっと待て、本当に訳して――」


 遅かった。


 確認する前に開いたドア。それに加えて、そこに立つ白衣の巨漢……


「この人が……?」


 一瞬思考停止した正巳だったが、フリーズしている場合では無かった。


「ええそうよぉ~! ようこそぉ、私の研究所(ラボ)へ!」


 長袖の白衣と黒ぶちの眼鏡、服の上からでも分かる隆起した筋肉。そして、その上に乗った整った顔……それ等全てが一つに組み合わさっている。


 もし、どこか少しでも違えばバランスが崩れる――そんな感想を持った正巳だったが、呆けて観察している場合ではなかった。


「あらぁ、良いわねぇ。黒髪黒目の男の子!」


 目の前に近づいて来た男は、そのままぐるりと正巳を一周すると手を握って来た。


「私はドーソン。博士と呼ぶ人も多いけど、好きに呼んでくれて構わないわ。趣味は男の子を愛でる事と研究ね! 本当は美容医薬品の研究をしたかったんだけど、故あって総合的な研究会社をやってる(・・・・)わ」


 博士の勢いに若干引きながらも、一つ引っ掛かった事があった。それを確認する為にも、先ずは来訪の目的を伝えよう。そう思ったのだが……


「初めまして、本郷正巳です。今日は試験段階にあると言う医薬品について――」

「ちょっとぉ、仕事の話なんて後で良いじゃない~もう少し貴方の事を教えてちょうだい~」


 早速本題に入ろうとするも遮られた正巳だったが、なるほどと思った。


 以前は、会社と言う"信頼の保証"が後ろ盾としてあった。しかし、今や只の一個人なのだ。重要な話をしようにも、先ずはお互いの事を知らなくては始まらない――そういう事なのだろう。


「分かりました。それにしても、日本語がお上手ですね」

「そうなの。わたし黒髪の子が好きでね、黒髪の子の居る国の言葉を覚えたのよ。日本語の他に、中国語、韓国語、アムハラ語、オロモ語、ソマリ語、ズールー語、ポルトガル語、スペイン語……」


 聞いた事のある言語もない言語もあったが、どうやらこの人は相当に変人(・・)勉強家(・・・)らしい。止まらない話に、適度に相づちを挟み口を開く。


「なるほど、私はファスの方がカッコ良いと思うんですがね……」


 そう、横にいるファスは男から見ても"美しい"と思う。

 しかし――


「違うのよ! ただ整っている顔が見たかったら、鏡を置いておけば十分なのよ。私が思うに、この黒髪と瞳の黒があってこそなのよね! メラニンの量でこの髪色は変わるのだけど――」


 その後しばらく話が続いたが、分かったのは男の趣味とその情熱のかけ方が半端ではない事。そして、その頭脳は頭抜けて優れていると言う事だった。


「それでですね、博士はこの製薬会社の経営をしているのですか?」

「あぁん、名前呼びで良いのに~」


 "良いのに~"と言いながら、どこか"呼びなさい"というニュアンスを感じる。


「……それでは、ドーソン博士?」


 正巳の言葉に「いけず~」と言いながらも、ようやく諦めたようで話し始めた。因みに、ドーソン博士は少し前のギャル達から日本語を学んでいたらしく、言い回しが若干古かった。


「そうよ、この会社は私の(・・)"100%"持ち株会社なの。以前は美容関連の会社にいたんだけどね、そこで"新薬開発"をしようとしたら追い出されちゃったのよ~」


 博士が話す間、後ろに立っていたファスが耳打ちしてくる。


「その時着手したのが、今研究中の"難病の薬"だったようですが、その理由は"高齢"の男性の為だったそうで……」


 ファスの耳打ちに頷いた正巳だったが、それよりも何よりも、衝撃的な事があった。


「あの、この"ラシュナー製薬会社"と言うのは……確かですね、画期的な新薬を立て続けに開発して、莫大な利益をあげる言わば"権利収益会社"で、社長の名前もラシュナーと付いたと……」


 そう、調査書によるとそういう話だった筈なのだ。だからこそ、一番確実であろう"金銭的対価"によって薬を得ようとしていた。


 しかし、ここまで話を聞いて来た正巳は、書面からの印象とは差を感じていた。


 正巳の疑問に、博士が笑顔を浮かべる。


「あらぁ、良く調べたのね~そうよ、表向きは"クリフォード・ラシュナー"としているわ。でも、正式には"クリフォード・ラシュナー・ドーソン"ね!」


 ……どうやら、間違いではないが完全では無かったらしい。


「それに、権利収益で資金集めをしたのは確かだけど、それは新薬の開発に必要な資金を用意する為だったのよ。ほら、自前で色々やるにはお金がかかるじゃない?」


 なるほど。言われて腑に落ちる話だが、この話も調査書には書かれていなかった。


 この程度をファス達が調査時に落としたとは思えない。それに、書いてはいたが読み落としたか、そもそも書いていなかったでは、大分大きな違いになってくるのだが……


 チラリとファスへ視線を向けると、目を伏して何処か申し訳なさそうにしていた。


「ふぅ、なるほどな……」


 ファスの様子と現状から状況を理解した正巳は、深くため息を吐いていた。


 ……なるほど、直接出向く(・・・・・)必要があるってのと、手土産がこんな物(・・・・)なのはそういう事だったのか。


 重ねてため息を吐きたくなった正巳だったが、どうにかこらえると言った。


「それで、私達はその"新薬"を売って頂きに来たのですが……その、これは手土産でして」


 若干緊張しながら込み袋を差し出すと、それ迄博士の後ろに控えていた男が出て来た。男が紙袋と博士の間に立とうとするのを見て、どうしたのかと思ったが、ファスの耳打ちに納得した。


 どうやら、これまで何度か"襲撃"があったらしい。


 新薬と言うのは、莫大な利益を生むものだが、同時に既得権益を破壊する事すらある。


 これ迄も何度か襲撃があったらしく、男も警戒したらしかった。


 しかし、そんな男に対して博士が何か言うと下がらせた。


「ごめんなさいね、この子も優秀なんだけど融通が利かなくてねぇ」


 ……護衛であれば、融通が利いてしまうのは駄目だろう。


「いえ、その方が良いですよ」


 苦笑すると、ゆっくりとした動作で紙袋を渡した。


 その場で紙袋を開いた博士だったが、中身を見た瞬間破顔していた。そんな博士の顔を見て、必死に羞恥心を殺していた正巳だったが、落ち着いて来た博士が言った。


「さあ、何が欲しいの! 何でも言ってみてちょうだい! サインを入れてくれるならそれなりに割り引くわ! もしかして自画像なの?!」


 矢継ぎ早に繰り出された言葉だったが、一度落ち着かせてから言った。


「私にはそんな才能は有りませんが……そうですね、サイン位ならいくらでも書きますよ」


 その後、自分の持って来た手土産にサインを入れると、自分の世界に入り始めた博士を横目に聞いた。


あれ(・・)は、誰が書いたんだ?」


 正巳に聞かれたファスは、心なしか照れると言った。


「……お恥ずかしながら私が」


 どうやら、手土産として持参した"肖像画"は、ファスの"作品"らしかった。


 恥ずかしそうなファスを横目に、ふと(今回"必要"だから用意したんだよな? 普段から俺の(・・)肖像画なんて書いてないよな?)――と思ったが、流石に自信過剰な気がして止めた。


 その後、研究所の金庫に保管される事になる"肖像画"だったが……まさか、これが将来とんでもない価値を付ける事になる等とは、そこにいた誰一人として想像すらしていなかった。

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