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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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46話 交渉開始

 朝食をとり終えた正巳達は、再び先を急いでいた。


 再び走り始めてから約三十分ほどが経過している。予定では、もうそろそろ目的の製薬会社が見えてくるはずだが……先に建物が見えないかと確認しながら、言った。


「再確認にはなるが、このラシュナー製薬会社……創業者にして社長兼会長の男、クリフォード・ラシュナーへの手土産は、こんなもので良いのか? どう考えても馬鹿にしていると思うんだが……」


 そう言いながら、手に持った紙袋を(いぶか)しげに見る。そんな正巳に、ファスが頷きながら答えて来る。


「間違いありませんので、安心して全てを託して下さい」


 ファスに続きミヤにも視線を向けると、同様に頷いて来る。


「もし違えば、責任をとりますのでご安心を」

「責任?」


 ミヤの言葉に、若干の疑問を挟む。


「はい。その場合、どういう方法をとってしても、契約を取り付けて来ますので」

「……危ない方法じゃないよな?」


 何となくそう聞いた正巳に、ミヤが不敵な笑みで応えた。


「ふふ、それはヒミツ(・・・)です」

「……そういうのは良くないぞ?」


 唇に指を当てて言うミヤに、正巳が真剣なトーンで言った。すると、そのやりとりを隣で聞いていたファスが答えた。


「大丈夫です。単に別ルートでの依頼に切り替えるだけですので、正巳様が心配されるような事はないかと。それに、コイツにそんな器量はありませんので」


 ファスの言葉に一安心した正巳だったが、ミヤがファスに抗議の言葉を向けている中、お腹を膨らませて沈んでいたヒトミが聞いて来た。


「それって、どんな方法なんですか?」

「ん? ……あぁ、いやそうだなどうなんだろうな」


 まさか、普通じゃない接待を予想したなんて言えるはずも無く、ファスに振った。すると、正巳の振りに反応したファスが答える。


「そうですね。例えば、何方かが倒れるまでお酒を飲むとか、美味しい料理を振る舞うとかですかね。それと、どうやら目的地(・・・)が見えて来たようです」


 ファスの言葉に前を見ると、確かにそこには建物が見え始めていた。


 まだ遠くに見える建物だったが、遠目でも分かるほど大きく、どうやら社屋と工場が併設されているらしかった。ぱっと見た感じでは、七、八階建てに見える。


アレ(・・)がそうか……ほら、ヒトミも見てみるといい」

「あ、ほんとですね! へぇ~大きいんですね!」


 体を乗り出して見入っている。


「……よくやった」

「いえ、タイミングが良かっただけかと」

「ヒトミ様がいる時は、発言に気を付けます」


 そんな事をヒソヒソと話していた三人だったが、その横で、ヒトミは目を輝かせていた。


「はぁ~凄いですね! ここ等辺で一番大きな建物ですねぇ~」


 その後、余計な刺激をしないようにしていた一同だったが、無事到着していた。


「話を通して来ますので、少々お待ち下さい」


 車両から降りて行くファスを見送った正巳達だったが、その後ファスと警備員の様子に何となく違和感を感じた。と言うのも、ファスが話しかけた後から明らかに警備の男の態度が悪くなったのだ。


 それ迄直立していたのに、足をだらりと延ばしている。その後、顔をしかめたりした後、終いには後ろポケットから出した煙草を吸い始めた。


「駐車スペースを教えて頂きました」

「……そうか、ご苦労だった」


 聞きたい事があったが、抑える事にした。


 その後、両脇が高級車だったのと、車の間隔が狭かったのとでギリギリだったが、どうにか問題無く駐車できていた。他の場所は幾らでも空いていたのだが……


 どうやら、警備の男による一種の嫌がらせらしい。


 通訳及び仲介は全てファスが行う事になっていたが、どうやらファスも思う処があったらしい。警備の男が去った後、言った。


「……あの男の態度は、交渉に役立てましょう」


 静かにそう言ったファスに頷くと、さっそく交渉に向かう事にした。


「それじゃあ、行くか!」



 ◇◆



 ――10分後。


 案内された部屋で、担当者らしき男の説明を聞いていた。ヒトミとミヤには悪いが、交渉の間は車両で待ってもらう事になっている。


 担当者の通訳をしたファスに聞く。


「……つまり、ここでは新薬研究含め小ロットの生産を行っていると?」


 ロットとは、主に生産と出荷における単位の事だが、小ロットは一度に生産する最小単位だ。


「はい、そのようですね」


 なるほど、丁度良いのではないだろうか。


「それじゃあ、その薬品を直接買う事は出来るか聞いてくれ」

「はい、少々お待ち下さい――」


 ファスが聞き、担当者が答える。

 担当者は、短髪に笑顔が良く似合う男だった。


「正巳様、どうやらここから直接購入する事は難しいようです。少なくとも、中ロットでの依頼をして、別の場所に存在する製薬工場を稼働させる必要があるみたいです」


 ……なるほど、まぁ確かにそうなるのは当たり前か。一々小さな単位での依頼に対応していては、利益を出す事が難しくなる。


「そうか、それじゃあそれで構わないから、金額面と条件の交渉に移ってくれ」


 頷いたファスが話し始めたのだが……その直後、担当の男が慌て始めた。慌てて何か聞いて来る男を見ながら、ファスに聞いた。


「なんて言ってるんだ?」


 すると、ファスが口の端に笑みを浮かべながら言った。


「はい、どうやら"客"とは思っていなかったらしく、『権限を持つ者を連れて来るので少し待っていてほしい』と言う事です」


 ファスの様子を伺うに、恐らくはこの流れを想定していたのだろう。一体どんなアポイントメントの取り方、どんな繋げ方をしたのか気にはなったが、今はそれよりも重要な事がある。


「"問題ない"と伝えてくれ」


 正巳の言葉にやけに恭しく頷いたファスは、向き直ると通訳を始めた。


 その後、話しの長さから何となく正巳の伝えた事よりも遥かに多い気がしたが、正巳からしてみれば大した事ではないと思っていたので、特に気にする事は無かった。


 その後、やり取りを見守ていた正巳にファスが言った。


「どうやら、責任者が出て来るみたいです」


 何となく、目の前の男が"担当者"で"責任者"だと思っていたのだが、そういう訳では無かったらしい。きっと、権限を持つ者とやらが出て来るのだろう。


 頭を下げた担当者の言葉をファスが訳す。


「このままお待ち下さいとの事です」


 どこか恭しくなった担当者だったが、正巳が頷くと退出した。


 担当者を見送った正巳だったが――


「……寒気しないか?」


 気のせいか、うなじをゾワリと何かが這った気がした。

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