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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第二章 仲間が増えるかも知れませんね
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45話 能天気

 約一時間後、開けた場所に停車した正巳達は、朝食の用意をしていた。


「このグリルはこのあたりで良いか?」


 車体に付いたボタンを操作し、車両上部の屋根を広げているファスに聞くと、頷いて応えて来る。


「はい、ありがとうございます」


 屋根が掛かり始めたのを確認し、外面に付いた洗面で顔を洗うヒトミを横目に言う。


「それにしても、本当に便利なもんだな」

「はい。一応、これだけで丸二か月は旅行出来ますので」


 そう、この車両(キャンピングカー)は野外での宿泊生活をコンセプトにしている為、色々な機能が付いている。その内の一つである簡易屋根機能だが、紫外線カットの布を使っていて、屋根が掛かるだけで涼しく感じた。


「正巳さん、それ出して来たって事は……お肉ですか!」


 顔を洗って来たヒトミが、嬉しそうにそんな事を言うものだから笑ってしまった。


「ははは、食いつき方がにゃン太みたいだな」

「それは似ますよ、家族ですからねっ!」


 何故か誇らしげに胸を張るヒトミに苦笑した。


「ふふ、そうだな。早く帰ってやらないとな」

「はい、お利口にお留守番していると思うので、お土産も買わないとですね!」


 何がいいかなと考え始めたヒトミを微笑ましく眺めていたが、途中でミヤが車両から降りて来た。


「おはよう、ミヤ」


 一瞬こちらを見て、直ぐに半歩下がったミヤが言う。


「……あの、はい。おはようございます、それですねあの……ちょっと借ります」

「あ、おいっ私は正巳様に朝食を――」


 入口手前にいたファスが車内に引っ張られて行くのを見送った正巳とヒトミだったが、その直後声が聞こえて来た。


「まったく、何で起こしてくれないんですかー! それに、何ですかこの顔の痕!」

「それは、お前も疲れているだろうからと正巳様の配慮が――」


「うるさいです、とにかくなんでこんな型が付いているのにっ!」

「それは、気持ち良さそうに寝ているのだから起こしては――」


「つっあほーこんな顔で務められる訳がないでしょうがー!」

「いや、それはそれで良いんじゃないか?」


「……それじゃあ、貴方がもし私と同じように顔に痕が付いたら、どうしますか?」

「うむ。そうだな、先ずは少し暖かめのお湯を用意してそれを布に含ませる。それをゆっくりと顔に付ける事で、自然と痕が薄れるのを促すな。お前も――」


「そうします、そうしますから早く用意して下さいっ!」


 ……何とも仲が良いようで、頼りにする側としては頼もしい限りだ。

 布を片手に戻って来たファスだったが、視線が合うと苦笑していた。


「多分夢見が悪かったんだと思います」


 苦笑いして言うファスに、備え付けの電子ポッドで沸かしたお湯を渡した正巳だったが、何か答える前に車両の中から声が飛んで来た。


「夢なんか見なかったわよっ!!」


 ミヤの声を聞きながらも、申し訳なさそうな顔で受け取るファスに応えた。


「……はは、早く行ってやってくれるか?」

「はい、申し訳ありません……」


 その後、洗面台でホットタオルを作ったファスは車両内へと戻って行った。その一部始終を正巳の横で見ていたヒトミが呟いた。


「女性って大変なんですね」

「いや、お前もそうだと思うんだがな……」


 他人事みたいに言ったヒトミは、正巳の言葉に首を傾げると、良い感じに火が通り始めていたグリルへと目を向けた。


「そんな事より、今日はソーセージを焼いても良いですか?」


 無垢の顔で見上げて来るヒトミに、(残念な子ってのはこういう奴の事を言うんだろうな……まぁ、これが良い所でもあり魅力でもあるんだろうが……)と、ため息を吐きつつも答えた。


「自分の食べられる分だけにしておけよ?」


 正巳の言葉に、明るい声が通った。


「はーい! 三本、いや四本かな……」


 ――その後、十分も経たぬ内に戻って来た二人を加えて朝食をとっていた。


「ほんっとうに、申し訳ありませんでしたー!」

「お恥ずかしい所をお見せしました。加えて、私どもの朝食まで用意して頂いて……」


 深々と頭を下げる二人に応える。


「大丈夫ですって、そんな事を一々気にしていたら病気になりますよ」

すぉうふぇふ(そうですよ)ふぃにふぃなひで(気にしないで)……下さい!」


「しかし、幾ら疲れていたとはいえ……申し訳ありませんっ!」


 既に何度か繰り返しているやり取りだったが、ミヤは自分の態度を思い出しては許せなかったらしい。恐らく、あの時のミヤは寝ぼけて素が出ていたのだろう。


 普段しっかりしている分、あのように少し荒ぶった(・・・・)姿は新鮮に感じた。


「|ふぉんふぁにふぃにふぃふぇるふぉ《そんなに気にしていると》――」

「お前は、口の中の物を食べてから話すんだ」


 行儀の悪いヒトミを軽く小突くと、さっきから水しか口にしていないミヤに言った。


「ミヤ、俺はさっきみたいな方が、打ち解けている感じがして嬉しかったよ。それに、ほらこいつくらいの方が色々と人生楽しいと思うぞ?」


 そう言って、皿によそった分を口に頬り込もうとしていた、ヒトミの頭に手を置いて見せた。


「"モグモグもぐ……"……どうしたんですか?」


 皿から目を上げたヒトミに笑いかけた正巳だったが、どうやらミヤに伝えたかった事も伝わったらしかった。ヒトミの事を見つめたミヤが言った。


「ふふ、そうですね」


 柔らかい笑みで答えるミヤを見ながらヒトミに目を向けると、ヒトミは若干不思議そうな顔をしていたが、直ぐに笑顔で言った。


「さては私に見とれてましたね、正巳さん~!」


 調子に乗ってそんな事を言い出すヒトミに、笑みを返すと言った。


「ヒトミ、赤いひげが出来てるぞ?」


 ソースが唇の上に着いている事を指摘した正巳に、ヒトミは頭を傾げていたが、ファスに布でふき取って貰って気が付いたらしかった。


「つっ―― 正巳さんのばかぁ~~!」


 拳でぽかぽかと叩くヒトミと、それを避けて走り出した正巳を見ていたミヤは、小さく呟いた。


「見習おうかしら……」


 その呟きを聞いていたファスは、少し間をおいて答えた。


「……まぁ、少し(・・)なら良いかもな」


 その後、何故か"ヒトミの良い所を三つ上げる"という謎の罰を受けた正巳だったが、賑やかなうちに朝食をとり終えていたのだった。

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