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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第一章 色々あってコンビニを始めます
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4話 二人と一匹と

 会社を解雇された帰り道は、一人と一匹が増えていた。


 その帰りの途中で、『そう言えば、片桐に最後の挨拶しなかったな』と思い出した。


 会社の同期の一人で、それなりに仲良かった数少ない内の一人なのだが……『まぁ、誰かから事情を聴くか』と、頭の中から追い払う事にした。


 猫ちゃんは、そのままだと電車に乗れないので、仕方なくレジ袋に入って貰った。


 猫ちゃん――いや、にゃん太(・・・・)は現在レジ袋の中で静かにしている。


 その、にゃん太の入ったレジ袋を膝にのせているのは、"レジ子"基、神楽坂(カグラザカ)ヒトミだ。……何やら、申し訳なさそうにしている。


 その理由は、俺を泥棒扱いした事でも、弁当を全て食べてしまった事でも、交通費が無くて俺が代わりに出した事でも、これから家に泊まりに来る事でもない。


 その事(・・・)を考えていたらしいヒトミが、声を掛けて来た。


「あ、あの……さっきの『兄です』って、ありがとうございました」


 ヒトミが恥ずかしそうに言う。


「なに、良いさ。それに、電車賃が無い事忘れてて悪かった」

「いえいえいえ。そんな、挙動がおかしかった私のせいなので」


「まあ確かに、駅員に職質されるのは初めて見たな」

「ぷふぅ~」


 俺の言葉に少しだけ頬を膨らませたヒトミが、自分の頬に手を当て、熱を冷ますような仕草をしている。それは良いのだが、膝の上のにゃん太に気を付けて欲しい。


 バランスを崩したにゃん太が"にゃぁ~"と鳴いている。


 にゃん太を気遣っていた正巳だったが、先程の事を思い返して内心苦笑した。


 先程ヒトミは、お金が無い事を俺に言い出せずにあたふたしていた。そのヒトミの行動を不審に思った駅員が、『失礼ですが~』と声を掛けて来たのだ。


 通常の駅員とは違ったので、鉄道警察とかそう言ったモノだろう。職質をされているヒトミを見て、『兄ですがなにか?』と割って入ったのだ。


 正直、駅員から本当の兄妹かの確認をされると思った。しかし、直後に抱き着いて来たヒトミに、駅員が直ぐに開放してくれたのだ。きっと、何やら気まずさを感じたのだろう。


 駅員も驚いていたが、俺だって驚いた。


「ほら、もう直ぐだ」


 車両内の、駅案内のパネルを指差す。


 そこには、予め教えておいた"最寄り駅"の名前が点灯していた。


「あ、ほんとです!」

「にゃっ!?」


 ヒトミが腰を浮かす様にして反応したせいか、袋に入っていたにゃん太が声を上げた。


 車内に居る乗客の視線が痛い。


「……」


 ジトっとした目でヒトミへ視線をやる。


「にゃ、にゃあぁ~」


 ヒトミが猫の鳴きまねをしている。


「……」


 お尻をするようにして、少しずつヒトミの隣から離れて行く。座った時は混んでいたが、その大半が途中で降りる為"ガラガラ"なのだ。


「な、なんで離れるんですかぁ~」

「いや、お前が挙動不審だからに決まってるだろ」


「そんなぁ~」

「く、来るなって」


「え~……」

「ったく。ほら、着くぞ?」


 最後の方は乗客の殆どが笑顔になっていた。

 取り敢えず、ただ逃げる事にならずに良かった。


 まあ、ある意味逃げるのと変わらないのだが……。


「わぁ、凄い――」

「凄い、田舎(・・)か?」


「い、いえ、その、私の地元よりは大丈夫です!」


「大丈夫、っておい……」


 余りにもフォローが下手過ぎて苦笑しながら、駅のホームへと降りた。


 ◇◆


 ――無駄に豪華な駅舎を歩く。


「何だか寂しい感じですね」


 ヒトミが、ビニール袋の底を両手で抱えながら言う。


「まあ、そうだな。特徴のない街だが、強いて言えば"駅だけ立派な街"が特徴だからな。仕方ない」


 俺がそう言うと、ヒトミは引きつった笑いを浮かべていた。


 その後、何事も無くガランとした駅舎を抜けた。


 駅舎を抜け、改札を出る。


 改札後にある階段を、数段下りてから言った。


「ようこそ我が街へ!」


 少しおどけたポーズを取って、手を差し出す。ヒトミは、一瞬面食らった顔をしたが直ぐに、頬をにへらっと緩ませて手を出して来た。


 今日一日で色々な事があった事と相まって、ここ最近の疲れがピークに来ていたのだろう。普段だと絶対にしない事をしている。


 ……その自覚はある。


 しかし、そんな事はどうでも良い。


 今日はいつもと違う"今日"なのだ。


 ヒトミが差し出して来た手を掴むと、『さぁ、お嬢様此方へ』とおどけて言う。


 すると、ヒトミは笑いながらも『良きに計らいなさ~い!』と言った。


 ◇◆


 その後、こんな調子で街の中を紹介しながら自宅へと戻って来た。


「ただいま~」


 いつも通り、ドアを開くと右手にある鍵置き場にカギを置き、一歩外で待っていたヒトミに手招きをした。すると、ヒトミは恐る恐ると言った感じで聞いてくる。


「他に誰か居るんですか?」

「いや、居ないが……どうしてだ?」


「あ、いえ、さっき『ただいま』って」

「あぁ、帰った時はな。癖なんだ」


 そう、出る時は自分一人だと知っているが、帰りは違う。


 両親が帰っている可能性が有るのだ。


 だから、いつ家に帰っていても大丈夫なように"挨拶"を欠かさないようにしている。


 正巳の『癖なんだ』という言葉を聞いたヒトミは、少し考えるそぶりをしていたが、直ぐに"まぁ、いっか"と言った風に表情を変えた。


「お、お邪魔しま~す!」

「あ、にゃん太は風呂――じゃ無くて良いか、洗面台で綺麗にしてくれ」


 流石に、公園で寝ていたであろうにゃん太を、そのまま家の中に入れる事は出来ない。


「はい。……その、お風呂お借りしても良いですか?」

「ん? あぁ、良いが?」

「そ、それで、ついでに私も入ってしまったりしても?」


 モジモジして、俯いている。


「あぁ、良いぞ。もしだったら着替えも持ってくるか?」


 一応、母の着替えが箪笥にしまってある。


 母は平均的な体型なので、問題無いだろう。


 ……胸の辺りは母の方が大きいので、心配だが。


 そんな事を考えながら見ていると、プルプルと震え出したヒトミに怒られた。


「あんまり、胸ばかり見ないで下さい」

「いや、悪かった。……うん」


 何となく、哀れんだ様な調子になってしまったのは仕方ないだろう。

 つくづく(格差って有るんだな)と思ってしまったのは秘密だ。


「それで、着替えは必要か?」

「そ、その……」


「ん?」

「もしかして、その……」


 煮え切らない。


「どうした?」

「あの、そういう(・・・・)趣味ですか?」


 わけ分からん。


「そういうって、どう云う?」

「そ、その『自分の服を着せたい』とか『後で脱いだ服を着て喜ぶ』とか……」


 微妙に恥ずかしそうにしながら言っているのがまた、頭にくる。


「あほか、んなわけないわ」

「それじゃあ、普通に私に男物の服を着ろって事ですね……安心しましたぁ~」


 未だに勘違いをしている。


「違うわっ! あれだ、ちゃんと女物があるから!」

「え!? ……あっ! そういう事なんですね、分かりました!!」


 勢いよく頭を振って『分かった』と言うと、そのまま廊下を歩いて行ってしまった。風呂が何処か分かるのだろうか……。


 案の定――


「すみませ~ん、お風呂ってどこですかぁ?」


 ヒトミの声が、廊下の先から聞こえて来た。


「そうなるだろうなぁ」


 苦笑した正巳は、ヒトミに風呂の場所を教えに行く事にした。


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