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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第一章 色々あってコンビニを始めます
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27話 にゃん太はお留守番

 女性から、無事ヒトミの家を取り戻した事を聞いて安堵していた。


「そうか……良かった」


 正巳が安心してそう言うと、『しかし――』と女性が続けた。


「しかし今回は、かなり危ない所でした」

「どういう事だ?」


「はい、今回我々は入念に調査した所、ヒトミ様の実家が国の調整区域と言う情報を掴みました。この地域には、新たに国の重要施設をつくる計画が有ったのです」


 ……そうだったのか。


「それがどうして"危ない"んだ?」

「はい、実はこの区域で立ち退いていないのは、ヒトミ様の家のみだったみたいなのです」


「なるほど……だが……」

「そうです、ヒトミ様は一年以上家を離れていてその事を知りませんでした」


 そう、ヒトミは自分の親の残した家の借金を返す為、如何にかしようと出稼ぎに来ていたのだ。そんなヒトミが立ち退きの話がある事など知らないだろう。


「それじゃあ誰が――いや、もしかして不動産屋か?」


 何となく、この前ヒトミの家で会った紺のスーツを着た男を思い出した。そんな正巳を裏付けるように、女性が言う。


「その通りです。どうやら代理交渉権を持っていたみたいで――恐らく知らない内にヒトミ様が契約書に名前を書いていたのでしょう。その交渉権を使って、立ち退きをしないという対応を取っていたようです」


 ……ヒトミの名を語って、"立ち退き拒否"か。


 ここまで聞いた正巳は、全容が理解出来て来た。


「つまり、不動産屋はヒトミから土地の権利を奪って、その土地を高額で国に売りつける。若しくは何らかの交渉の道具として使おうとした――ってことか?」


 正巳が言うと、女性が『その通りです!』と興奮気味に答えた。


 ……どうやら、そう言う事らしい。


「――と言う事らしい」


 途中からすり寄って来ていたヒトミに聞かせるために、スマフォの音を"スピーカー"にしていた正巳は、隣で聞いていたヒトミに話を振った。


「……そう言う事だったんですね」


 そう呟いたヒトミに、『正巳様、この会話は正巳様と我々のみの特秘事項でして』と女性が言ったが、『この件に関しては、ヒトミと俺は一蓮托生――分けて考える事は出来ない』と言うと、暫く黙ってしまった。


 しかし、やがて『流石です、私が認めただけはあります。これならきっとみんなの事だって……』とぶつぶつ呟き始めたので、放っておく事にした。


 問題なのは、ヒトミだ。


 今回の話で、家が戻っても結局国に渡さなくてはいけない事が分かったのだ。


 これ迄辛い思いをして、それでも頑張って来て、もう駄目だと思った処でようやく光が見えたのだ。それが、最終的に全てを失う事になるとは思っても居なかっただろう。


「ヒトミ……」


 何といえば良いのか悩んでいたのだが、そんな様子を察知したのか、ヒトミが言った。


「良いんです。実は、今回家が戻ってきたら、一度だけ家の中を見て歩いてその後は家を売ろうと思ってたんです。そうすれば、正巳さんに掛けた迷惑分を少しでも返せるかなと思いましたし……」


「……」


「それに、私がどうしても果たしたかったのは、両親の残した"夢"であるこの家をきちんと、借金の無い形にしてあげたかったんです」


 そう言ったヒトミは、その目尻に雫を浮かばせながら続けた。


「――ほら、夢が叶っちゃいました。正巳さんのおかげで私とお父さん、お母さんの夢が叶っちゃったんです……だから、もう大丈夫なんです。そうです――」


 そこで一呼吸すると、ヒトミは落ち着いた様子で言った。


「お願いします、どうか、正巳さんに返せるぐらいに十分な金額で家を売って下さい。売れたお金は全部正巳さんにあげて下さい。足りなかったら言ってください!」


 すかさず口を開こうとした正巳だったが、目の前のヒトミの強い意志を持った眼に、何も言う事が出来なかった。


 正巳が何も言わないのを確認してか、一拍おいて女性が答えた。


「……承知しました。最善を尽くします」

「ありがとうございます」


 もう一度ヒトミを見た正巳だったが、その顔を見て、もう何かを言うのは諦めた。


「……そうだな、そう決めたのなら」


 そう言った正巳は、女性に対して別件で話があると伝えた。


「男の人に代わって貰えますか?」


 一応、ここでコンビニに関する事で、少し聞いておこうと思ったのだ。

 しかし――


「少々お待ちください。……ファースト?」


 女性が呼びかけているが、やはり男の事は"ファースト"と呼んでいるらしい。


「……ファーストがいない? ……待機状況は――"一号車"から"十二号車"まで問題無し。"一号機"から"十二号機"は……――サード! ファーストが『ショート』で移動中!」


 ……どうやら、そこにはいないらしいが、それにしても『ファーストがサードでショート』とか言っていて、混乱しないのだろうか……


 何となく『混乱しないのか、混乱しそうになったらどうしているのか』と聞きたくなったが、それが現実逃避の一種である事は自覚していたので、黙っている事にした。


 聞こえて来る内容を聞いている以上、どうやら話した事のある二人以外にも何人か居るらしかった。慌てた様子が受話器の向こうから伝わって来る。


「……どうしたんだ?」


 流石に、聞かずにはいられなかった。

 すると、少し慌てた様子だった女性が呼吸を整えてから言った。


「はい、実は――『はい、……ええ。その方向は……なるほど分かりました』」


 ……途中で無線が入ったらしい。

 しばらく他の人と話していたが、やがて戻って来た。


「どうやら、あの男(ファースト)はそちらに向かったみたいです……恐らく『偽装に違いない! 目視で確認しなくては信用できない!』等と考えたのでしょう」


 重い口調で申し訳なそうに言った女性に、答える。


「まあ、来るのであれば、それはそれで面倒が省けて良いです。それより、落札したヒトミの家はどうすれば良いんですか?」


 そう答えた正巳に、ホッとした様子で『感謝します』と言った後、その手順について教えてくれた。どうやら、ヒトミの実家に行けば良いらしい。


 確認すると、家のスペアキーを持っているという事だったので向かう事にした。部屋はまだ借りているので、男性――ファーストが来ても問題無いだろう。


「よし、それじゃあさっさと手続きして、取り戻そうか!」


 そう言った正巳に微笑むと、ヒトミは元気に応えた。


「はい!」


 眠っているにゃん太を起こしても可哀そうなので、そのまま寝かせておく事にした。にゃん太であれば、変に問題を起こす事も無いだろう。


 良い子でお留守番できるように、猫缶を一つ開けると、水と共に近くに置いておいた。


 その後車に乗った二人は、ヒトミの実家へと向かった。


 ……アクセルを踏む時も、ブレーキを踏む際も、筋肉痛が辛かった。


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