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『コンビニ無双』─コンビニの重課金者になって無双する─  作者: 時雲仁
第一章 色々あってコンビニを始めます
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11話 車屋『ジンギスカン』

 正巳は、車屋『ジンギスカン』の店主を探して敷地内に入っていた。


 敷地内には、販売用の普通車が並べられている他、修理や点検をするであろう作業倉庫(ガレージ)、契約やら何やらを行うための店舗エリアがあった。中古車ショップならではのつくりだろう。


 展示している車の数は相当なものだったが、それよりも目を引くのはその作業倉庫(ガレージ)だ。それ自体の大きさもそうだが、機材の豊富さや関連する資材の量に目が行く。どうやら、自作の道具類も多数あるみたいだった。


 そんな、作業倉庫(ガレージ)の作業スペースに目的の人物はいた。


「こんにちは!」


 声を掛けるも、全く反応をしない。


 店主は現在巨大なタイヤの付いた自動車をクレーンで持ち上げ、その下のスペースに入り込んでいる。ここからは、時折青い光と金属音が聞こえるのみだ。


「すみません!!」


 ……作業音がうるさすぎて、こちらの声が聞こえていないみたいだ。


 一応、ヒトミには外で車を見て回っていて貰っているが、にゃん太を連れて来ないで本当に良かった。もしこんな場所に連れて来ていたら、直ぐに具合が悪くなっていただろう。


 ……匂いもきついが、音もきつい。


 慣れれば大した事ないのかも知れないが、素人が慣れるには少しばかり時間が要るだろう。もう一度声を掛けようかとも思ったが、何だか耳がムズムズしてきたので、一度外に退避する事にした。


 車を見て回っている筈のヒトミに、声を掛けようと思って歩き出したのだが……


「あれっ? お客さんですか?」


 不意に止んだ作業音と共に、車の下に居た男がズリ出て来た。ツナギを着ており、その手には溶接機と研磨機がそれぞれ握られている。


 ……30代後半と言った処だろうか。


「ええ、良い車が無いかと思いまして。……これは、修理しているんですか?」


 そう言って、先程男が手を付けていた車を指差した。すると、急に口角を上げた男は、両手に持っていた機械を作業台に置くと、話し始めた。


「いや、今やってるのは修理と言うよりは、"工作"に近いですね。元々骨組みを手に入れた処から手を付け始めてて、このタイヤなんてオークションで見つけたんですよ。で、実際に届いて組んでみたらタイヤがでかすぎて……結局、タイヤに合わせてフレームを変形させて、って感じですね。他にも――」


 その後も、レンチを片手に持ち替えた男による"紹介"は続いたが、楽しそうに話す様子を見ているだけで何だかこちらも楽しかったので、内容がさっぱりだったのは些細な事だった。


「――って感じで、結局エンジンはまだ決まってないんですけど、この躯体なら雪上なんかが似合いそうなんで、大型のエンジンを積んで雪の中をバリバリ走らせたいんすよねぇ」


「なるほど、確かに面白そうですね」


「ですよね! 絶対面白いと思うんすよ、でも前にやった大型スノージェットがヤバくて、危うく大爆発させそうになったんで、禁止喰らってるんですけどね……」


「な、なるほど……まあ安全が第一だと思うし、手足に怪我したら元も子もないですからね」


「そうなんすよねぇ。結構爆発はさせてて、腹とか足とかに破片が刺さったりしてるんですけど、流石にクビに刺さったら一発ですからねぇ」


 いや、破片が刺さったって……首に刺さらなくても十分ヤバいだろ。


「いやいや、作業着とか――って、その穴がそれ(・・)か……」


「ははは、いや、そうなんすよね。結構生地厚いんで大丈夫かと思ったんですけど、結構ダメっすねぇ」


 笑って『それ以来あんまりヤバい奴はやってませんよ』とか言っている。


「……そもそも、爆発って何してそう(・・)なったんですか?」


 もし、その爆発が車に乗っている最中に起こったモノだったとしたら、この店から車を買うのは止めた方が良いだろう。危なくてとてもでは無いが使いたくない。


「いやぁ、"実験中"に爆発しちゃって」


 そう言って笑っている。


「実験ですか?」


「そう、実験。色々新しい技術を耳にするたびに色々試すんだけど、それが結構ヤバいのが多くて、結構爆発するんすよねぇ」


 ……いや、『するんすよねぇ』じゃない。


「それで、色々な機材とかが有るんですか」


「そうなんですよね。一応倉庫が結構広いので、そこに資材なんかは大量に詰めて、機械は伝手を辿ったり、面白そうなのを見つけたらオークションで落としたり」


 どうやら収集家でもあるようだが、実際に使いもするらしい。先程説明された時の知識やもろもろの情報は、試したり勉強したりして蓄えられたモノなのだろう。


「あ、それで今日来たのは車を欲しくて来たんですけど……」


 『面白いモノ~』と言いながら、何やら引っ張ってこようとしていた男に声を掛けると、『あ、そうだったスね』と言って頭を掻いていた。


 そして、何やら申し訳なさそうにして来た。


「実は、ココに有る車は全て本社に引き上げされるので、売れないんですよ」


「えっ……それってどういう」


 『売れない』と言われたショックで、若干揺らぎながらも理由を聞いた。


「実は、フランチャイズしていたんですが、売り上げ不振で提携解除されて……おまけに、少しだけ販売用の車を整備(・・)していたせいで怒られちゃって……」


「因みに、どんな整備(・・)を?」


 整備すること自体は大した問題じゃないし、車を最良な状態で販売するのは車屋として素晴らしい事だと思う。しかし、会って間もないながらも、この人と話してみて感じたのは"飽くなき探求心"だ。その探求心で、"普通じゃない"整備をしていたとしても可笑しくは無いだろう。


「えっと、国産車のスポーツタイプで……スピード制限装置が窮屈そうだったから外して、その後空力を計算したらもっと良い形状が有る事に気が付いたから、3Dプリンターで出力した型を使ってボンネットを新調して……」


 その後、『エンジン音がうるさいから静音の為に工夫した』とか、『空間が空いて勿体なかったから、スパイ映画に出て来る車のガジェットを実装してみた』とか、『衝突警告センサーが前後にしかなかったから360度に付けて、警告音は切れる様にもした』とか言った事を聞かされた。


 色々突っ込みたくなったが、一々突っ込んでいたら切りが無さそうなので、如何にか堪えながら気になった事を聞いた。


「それじゃあ、ここはどうするんですか?」


「いやぁ、そうっスね……土地は退職金で買った俺の土地なんで、ここでそのまま修理屋でも開きますかね……一応借金もあるんで、金返さなきゃだし……」


 そう言って何処か遠い目をしている。


「ここで修理屋ですか」


 こう言っては悪いが、この人は儲けるつもりが有るのだろうか。こんな場所で再び車屋を開いても意味が無いだろうに。


「俺は色々弄れれば良いんすけど……まあ、そんな訳にも行かないすよね」


 そう言って寂しそうにしている。


「因みに、借金って言うのは?」

「ええ、実はフランチャイズの契約で毎月の上りを上納するんですが、最低金額と言うモノがあって、その額を入金していれば提携は解消されないんです。それで……」

 

 なるほど、事情が見えて来た。


「それで、毎月必要な分だけ借金して来た。と……」

「ですね……」


 それにしたって、十年もこの店舗が持っていたことに驚きなのだ。実際、俺が両親と一度来た記憶が有るので間違いない。


 10年前にもここで店をやっていた。


 そうなると、怖いのは借金の額なのだが……

 他人事とは言え、何となく気になってしまった。


「借金額はどれぐらいになってます?」

「えーっと、ニ千八百万円とかですかね?」


 いや、こちらに聞かれても知らない。それに、借金ニ千八百万円……大金ではあるが、想像していたよりも遥かに少ない。これだけ専用の機材や資材やなんだを買いつつ、食費や水道光熱費を払うとなると相当な金額になる筈なのだ。


「他に収入が?」


 思わず聞いてしまった。


 正直、突っ込み過ぎている事は分かっていたのだが、開けっ広げな雰囲気を持った男に影響されてか、普段よりだいぶ口が軽くなっている。


「昔は、メーカーさんからプレ車の枠作成依頼とか――結構いい金になるんすよね。最近では、マニアの人からチューンアップの依頼とかですね。数年前に、映画で使う乗り物作ってくれって依頼も受けた事ありますね」


「プレ車って?」


「ああ、何かコンセプトカーとかそんなんのヤツっすね」


 ……本当に、手先が器用なようだ。これだけ色々出来るのであれば、売り方で幾らでも食っていけそうな気もするのだが……


「そうなんですね……因みに、戻す以外の車って有りますか?」


 心の中で、幾つかの事を考えながらも、取り敢えず目先の目的を果たしてしまう事にした。そもそも、ヒトミの場合は期限付き――しかも、切れてるのだ。そちらを先に解決しなくてはいけない。


 正巳の言葉を聞いた店主は、一瞬何の事か分からなかったようだが、直ぐにハッとして口を開いた。


「え、ええ。一応ナンバーを取って、車検も通してある車もありますが……僕が作った車なんですけど。買って貰えると借金が減るので助かります、なんて……ははは」


 空笑いをしながら、『手を洗ってくるので少し待って居て下さい!』と言って、店舗側に繋がるドアへと消えて行った。


 その後姿を見送った後、どうやら予定通りに車を調達できそうな事に安堵していた。車検にも通ったナンバープレートの有る車と言うのだから、まあそれ程気を付ける必要はないだろう。


 車を見に行っているヒトミとにゃん太と合流する為に、車の"売り場"へと歩き始めた。


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