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第七話 実情

取り敢えず連続投稿はここまで。


これ以降は出来うる限り期間を開けずに投稿できればと思いますが、何分執筆速度が遅いのと、毎日執筆出来る訳ではないので、ご了承下さいませ。

「半アポトシス……ですか」


 驚きに眼を見開いているクロガネに、ツバキは「そうそう」と頷く。


「君も見たんじゃない? ほら、首輪を付けられたおっきな部屋で、試験管の中に浮かんでる()()


 ツバキの言葉に、クロガネはあのSF映画に出てきそうな部屋を思い出す。

 確かに、部屋の中央にあった大きな試験管の中に見た事も無い、ピンク色の肉塊の様なモノが浮かんでいて、それを研究者達が熱心に見守っていた。


「思い出したか? ……それが研究者達がホープ……【希望(ホープ)】と呼んでいるアポトシスだ。正式名称は別にあるけどな」


 食事を再開したツバキの説明を、粗方食べ終えたミカヅチが引き継ぐ。

 その間、エリナは話に加わることなく、相槌を打ちながら綺麗な所作でカルボナーラを食べていた。


「俺達はその【ホープ】から取り出されたアポトシスを形成する組織みたいなモノを移植されて出来るんだ。だから【半アポトシス】。毒を以て毒を制す……は適切じゃないか。ま、そんなもんさ。だから、俺達は生前の姿から変化してたりするんだよ。髪の色やら眼の色やらな」


 彼等オルフェの、まるでファンタジーの様な髪や眼の色の原因を知り、クロガネは内心納得する。

 赤髪といえど、ツバキやミカヅチの様な鮮やかな色の人間など、染める以外では存在しない。

 なら、隣で食事を続けるエリナもそうなのだろうかとクロガネは思った。

 彼女も、綺麗な金髪に鮮やかな赤い眼だ。

 珍しいといえる色ではないが、ここまで綺麗な色をしていると、作り物の様に見えてくる。


「ま、最悪顔の造形も変わっちまったりするんだがな。……そこのエリナみたいにな」


「――え?」


 クロガネは隣に座るエリナに顔を向けた。


「えぇ、そうよ」


 エリナはクロガネの顔を一瞥すると、別に大した事ではないとでもいう様に肯定した。


「貴方は頭部から下が大怪我だったけれど、私の場合は頭部が一番酷かったらしくてね。起きたらこんな容貌になってたわ。……まぁ脳の損傷が酷くて生前の名前や容姿を、私は覚えていないのだけれど」


 淡々と、笑みさえ浮かべてエリナは語る。

 更に、ミカヅチが話を続ける。


「お前さんみたいに、頭部が無事な奴は良いんだが、頭部――脳を損傷した奴ってのは大なり小なり記憶の欠損があるんだ。エリナの場合は、それが他人より酷かったってだけだな」


 ――気持ちが悪い。


 クロガネはそう感じた。

 別にミカヅチ達が気持ち悪いという事では無い。

 ここまで接して、彼等はクロガネに親切にしてくれたし、無知な自分を馬鹿にするでも無く丁寧に接してくれた。

 あの性格の悪そうな十条博士や、大事な事は説明してくれなかった三条博士より、信用出来る。


 気持ちが悪いと感じたのは、自分が……自分の身体が知らずの内に半アポトシス(そんなもの)などというモノになり果てていた事に、そう感じたのだ。

 先程三条博士に見せて貰った自分の死体は、首から下が見るに堪えない惨状になっていたのだ。

 つまり、首から下の大部分が以前の自分とは全く違う、文字通り()であるという事だ。

 そう考えてしまった瞬間、まるで首から下が自分の物では無い様な気がしたのだ。


 それと同時に、それを淡々と、笑みを浮かべて話せる彼等は、既に割り切っているのだろうと思った。

 ……自分はどうなのだろうか。

 例えばオルフェとして戦うとして、十年・二十年戦い続ければ、彼等と同じく、自分の死を笑って言える様になってしまうのだろうか。


 三条博士が言っていた通り、妹を殺したアポトシスが憎いという感情は存在する。

 首輪も付けられた以上、最早従うしかない事も理解している。


 いつか、妹を大事に思っていた記憶や、幼い頃の両親との思いですらも、色褪せ、他人事の様になるのだろうか?


 それは嫌だと、クロガネはそう感じた。




 食事を終えたクロガネは、ミカヅチ・ツバキと別れ、自身の生活スペースまで案内してくれるというエリナについてオルフェの居住区であるという施設の廊下を歩いていた。

 時折他のオルフェとすれ違い、軽く頭を下げる程度でエリナに遅れない様にとついていく。

 オルフェ達もそれを知っているのか、そんな態度のクロガネを怒る者はいなかった。

 廊下を進む中、クロガネは前を歩くエリナに尋ねる。


「……なぁ、どうして窓が無いんだ?」


 クロガネの言う通り、施設には窓が無かった。

 ただ真っ白な廊下が先まで続いているだけである。


「ここは首都から少し離れた郊外にあるのだけど、元々廃校になった高校の施設なの。オルフェという存在を生者の眼から隠す為に、居住スペースは高校の教室棟があった場所の地下に建てられているのよ。つまり、私達が今歩いているのは地下と言う事ね」


 エリナは、クロガネが聞いていない事まで説明してくれる。

 それが親切心からだとわかっている為、クロガネは素直に「そうなんだ」と頷いた。

 ついでとばかりに、クロガネは質問をぶつける。


「オルフェって何人いるんだ?」


「貴方、起きた時に会った十条博士に番号で呼ばれなかった?」


 そう言えば、とクロガネは覚醒当初を思い出す。

 確かに、あの性悪捻くれ眼鏡は番号で自分を呼んだ。


「……確か二千何番って言ってたな」


「そう。私達の組織――単に研究所とかって呼んでるけど、その創設はアポトシスの襲来とほぼ同時期程度よ。その時の中で”還った”オルフェもいるわ」


「……還る? それって帰るとかじゃなくてか?」


 オルフェと言う存在に付きまとう単語は難しい。

 覚えるのだけでも大変だ。


「えぇ、私達は本来あるべき形から捻じ曲げられた存在。だから、あるべき形に戻るって意味で、オルフェがその姿を失う事を”還る”っていうのよ。……まぁ研究者達が言ってるだけで、ミカヅチさんとかツバキさんとか古くからいる人以外の大抵のオルフェは普通に”死んだ”とか”逝った”って言うけれど」


「じゃあ、エリナもオルフェになって長いのか?」


 今更ながら、異性に対して呼び捨てで良かったのかと気になってしまう。

 だが、エリナはそれを気にしている様子は無い為、クロガネも気にしない事にした。


「いえ、私はオルフェになって五年位になるわ」


「いや、十分長いと思うけど……」


 襲撃であれ程甚大な被害を齎すアポトシスと日々戦っているのである。

 それで五年も生きていれば長い方だろう。


「私なんて大した事じゃないわ。……ショウゾウさんなんかは五十年以上って聞くし、この国に存在するオルフェの中で最も古い人は百年って人もいた筈よ。この支部にはいないけれど」


 百年。

 人の一生にも等しい時を、オルフェとの闘いに費やしている。

 そんな人もいるのかと、クロガネはただ素直に驚いた。


「えぇっと……話を戻すけれど、今活動しているという前提であれば、この国だけで二千人にも満たないわ。全国に六ヶ所の支部がある事と、アポトシスの出現頻度を考えれば、オルフェはいればいるだけ助かるの」


 そして目的地に到着したのか、エリナはとある部屋の前で立ち止まると、部屋の鍵なのだろう、扉の横についている装置に通すと、扉が開く。

 中は小型の冷蔵庫やクローゼットに簡素なベッドが設置されたホテルの様な内装だった。

 エリナは使った鍵をクロガネに差し出す。


「これがこの部屋の鍵よ。無くさないようにね? それと、明日の朝は迎えに来るわ。それまではゆっくり休んで頂戴」


「あぁ、有難う」


 クロガネは鍵を受け取る。

 クロガネが鍵を受け取ると、エリナは右手を差し出して来た。


「クロガネ君」


「……? あ、あぁ。そう言う事か」


 エリナが握手を求めているのだと察して同じ様に右手を差し出して握手をしてクロガネが頷くと、エリナは手を放して薄く笑う。


「同じチームメイト同士、仲良くやりましょう。互いに”還る”事のない様にね。じゃ、また明日の朝に迎えに来るわ」


 そう言うと、エリナは小さく手を上げて振りながら、金髪を翻して去っていった。

 クロガネは、エリナを見送ると部屋に入る。

 すると、扉は自動的に閉じた。

 どうやら人を認知して開閉をしているらしい。

 それを気にする事なく、クロガネはまるでゾンビの様にヨタヨタと歩いてベッドに倒れる。

 死者故に疲れや睡眠といった概念が無い事は理解していたが、クロガネは眠る様にして眼を閉じた。



……今更ながらにジャンルがローファンタジーで良かったのだろうか?



次回は火曜か水曜に投稿します。


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