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第六話 夕食を取りながら

相変わらずの説明会です。

 クロガネが、ミカヅチとエリナと共に夕食が配られている列に並ぶ。

 並びとしてはミカヅチ、クロガネ、エリナの順だ。

 だが気になる事があったので、クロガネはミカヅチ達に素直に訊ねた。


「……あの、夕食って何が出るんですか?」


 それに対するミカヅチの答えは単純だった。


「ん? あぁ……コンビニ弁当だよ。――というか、言葉使いは気にしなくて良いぜ。これから長い付き合いになるんだ。かたっ苦しいのは無しにしようや」


「え、あ……は……あぁ」


 ミカヅチからの突然の申し出に、クロガネは驚きながらも敬語を止めた。


「普通の弁当から丼モノ、麺やパンまで色々用意されてるから、自分の好きなモノを取ると良いわ」


 大雑把なミカヅチの説明を補う様に、後ろからエリナがそう教えてくれる。

 前のミカヅチが弁当を取り、そうして漸くクロガネの番になる。

 既に温められているのか、弁当からは湯気が立ち上っていた。


「お、君は見ない顔だね~」


 弁当を持って来た女性が、のんびりとした声でクロガネに声を掛けてきた。

 クロガネは女性の顔を見る。


「……え?」


 そんな呆けた声が、思わず口から漏れていた。

 女性は、のんびりとした優し気な口調に似合わぬ鋭い勝気そうな吊り目に、スサとは少し違う朱色の混ざった鮮やかな赤髪をポニーテールに束ねている。

 年齢は恐らく二十代中程だろうか。

 明らかに、容貌と口調が一致していない。

 世に”ギャップ萌え”という言葉があるのはクロガネも知っているが、彼女はそれ以上のギャップである。

 ”外見詐欺”と言っても良いかもしれない。

 女性はクロガネの顔を暫く睨みつける様な冷たい視線――彼女的には普通に見ているだけだが――で見、


「初めまして、かな~? 私はコードネーム”ツバキ”。一応この寮の寮長みたいな事をやらせて貰ってるんだ~。宜しくね~」


 そう言って吊り目を細めてニコリと笑う。


「あ……クロガネ、です。……お世話になります」


 クロガネは慌てて頭を下げる。

 そんな初々しいクロガネに、ツバキの顔は子供を見る母親の如く微笑む。


「うんうん。困った事があったらいつでも言ってね~。私で良いなら相談にのるから~。……さ、食べたいモノを選んで? タイミング良く外部拠点(セーフルーム)に行っている子達がいるから、全種類余ってるし」


「あ、はい」


 後ろにエリナがいる事も考えて、クロガネは素直にから揚げ弁当を取った。

 そして何処に座れば良いのかと視線を巡らせていると、既に席を取っていたスサが手招きしていたので、有難く其方に向かい、スサの対面に座った。

 その後エリナがクロガネの隣に座り、全員に配り終えた事を確認したツバキもスサの隣に腰を下ろす。

 其々ミカヅチがかつ丼、エリナがカルボナーラ、ツバキがサンドウィッチだった。

 そして四人で「いただきます」と声を揃えて食べ始める。

 クロガネもから揚げ弁当を食べようとして、ふと気付いた。


「…………なぁ、俺達オルフェって死者なんだよな? 食べ物食べても意味ないんじゃ?」


 そう、クロガネ達はオルフェ。死者である。

 物語に出てくる死者と言えば、死者(ゾンビ)食人鬼(グール)等が頭に思い浮かぶだろう。

 食べても意味がないのではと、今更ながらに思ったのだ。

 そんなクロガネに対し、ミカヅチ達は苦笑を浮かべ、顔を見合わせた。

 そしてミカヅチが箸でかつをつつきながら喋り出す。


「……あー。俺達オルフェってのは確かに死者だし、それを自覚してるんだが……小さな抵抗って奴だろうな。俺達は食べても意味が無いし、睡眠も必要ない。食事中に申し訳ないが、排泄だってしない。……ただ俺達は生前の行動を倣って()()()()()()だけだ。そうやって精神を保ってるってだけさ」


「……食べても意味が無いとかっていうのは」


 その質問に答えたのはツバキだった。


「あ~。……私達オルフェって死者だからモノを食べなくても生きていけるっていうのは想像出来るとおもうんだけど、私達は眠らない。ただ過去の記憶を回想するだけ。君もそうだったんじゃない?」


 確かに、とクロガネは頷く。

 覚醒前、クロガネが見たのは幼い頃の記憶だ。

 ……だが、それと同時に聞こえる筈の無い、妹の声が聞こえた様な――


「で、排泄っていうのはね~。私達の身体って、つまりはアポトシスと同じなんだよ。だから、食べた物も、その私達の()()のアポトシスが文字通り()()してしまうの~。微塵も残さずにね~」


「……体内のアポトシスって?」


 クロガネの思考は、ツバキの口から飛び出した事実に中断し、思わず聞き返していた。

 先に博士から説明されていた内容だが、クロガネの頭からはすっぽり抜けていた。

 サンドイッチを一口齧ったツバキは、それを咀嚼して飲み込んでから再び話し始める。


「博士達も話したと思うけれど……私達オルフェは死者から生み出されるけど、老死や衰弱死とかで死んだ人間はオルフェにはなれないの。私達オルフェは”失った身体をアポトシスが補い、仮初の命を得る事”で生まれるのよ~。つまり、端的に言ってしまえば、私達オルフェは”半アポトシス”って事よ~」


 「博士達の説明は難しいのよね~」穏やかで気の抜けた口調で、ツバキはそう呟いた。




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