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第三話 オルフェという存在

「こ……これってどういう事ですか!?」


 書類に書いてある事実を受け入れる事など出来る筈も無く、蓮夜はガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。

 三条博士は詰め寄った蓮夜の肩を掴み、落ち着かせる様に椅子に座らせる。

 そして「まぁ気持ちはわかるよ」と眉尻を下げ、


「疑ってしまうのは仕方の無い事だろうけれど、ちゃんとした病院での診断結果だよ。……この近くにある総合病院のね。……まぁ息が掛かってないかと言われてしまえば掛かってるんだけどね。うちの上層部はこの国の中枢ともがっちり癒着してるから……」


 そう言いながら机の上に置いてあった据え置きのパソコンに付属されたキーボードを慣れた手つきで叩き、本体を動かして画面を蓮夜に見せる。

 映っていたのは書類の端に書かれていた病院名と同じ病院のホームページだった。

 写真を見るに、非常に大きな病院らしかった。


「歴史もそれなりに古いし、救急なんかもやっている大きな病院さ。勿論、ちゃんと検査はしたよ。その上で、君は”死亡”と判断されたんだ。……というか、火を見るよりも明らかだったというべきかな」


 ――君に見せるべきかは迷うけど。

 そう一言言ってから、三条博士はマウスを動かしてデスクトップに表示されていたファイルの内一つを開き、中の写真データを開く。

 そこに映っていたのは――


「――っ!!」


 死体だった。

 いや、どう見ても死んでいる様にしか見えない程の重傷を負った人間の――蓮夜の写真だった。

 頭部の怪我はそこまで酷くないが、首から下は凄惨の一言だった。

 右足は太腿の部分から下が何かに引き千切られたみたいに消失しており、左足は原型がわからない程に潰れている。

 そして首から下も何かに斬られたかのように右肩の付け根から断ち切られ、左手も肘から先が無くなっていた。

 明らかに、この写真を見れば生きていたら奇跡と誰もが言うだろう。


(……自分が――死んだ?)


 胃の中が逆流する様な気がして、蓮夜は思わず口を押える。

 質の悪いジョークだ。そう思いたいが、あの時の記憶がそれを否定する。

 むしろ、この状態で声も出せていたのが奇跡なのだと医学知識等皆無に等しい頭でも理解出来る。

 それ程に、惨たらしい酷い姿だった。

 だが、だが――


「……これが二週間前の。君が死んだ時の写真だ」


「……なんで…………こんなモノが」


 二週間も意識を失っていたという言葉にすら気付かない様子で、クロガネはジッと写真を見ていた。

 その頭の中では、怒りと困惑が入り混じっていた。

 写真を撮っている間に救助してくれれば助かったのではないか。

 そんな考えが思い浮かび、言おうとしたが喉から出てこず、ただ口から息だけが漏れた。


「……君はアポトシスに襲われて、でも()()()()()()()に済んだんだ。……結果的に死んでしまったけれどね。食われてしまった人間は、オルフェにすらなれない」


 目の前に座る三条博士は、淡々と話している。

 それが当たり前みたいに。

 珍しい事ではないと言う様に。

 ふと、蓮夜の中にとある疑問が浮かぶ。


「……待ってください。アンタ達は『俺はオルフェになった』って言いましたよね。それって――」


「うん、そうだよ。君は確かに”オルフェ”になった」


 蓮夜の質問に、三条博士はあっさりと頷く。

 そして続けて三条博士の口から放たれた言葉は、耳を疑う様な真実(はなし)だった。


「”オルフェ”はね。……死んだ人間がなるモノなんだよ」





 三条博士はオルフェの成り立ちについて話し始めた。


 かつてアポトシスが来襲し、人類がその数を減少させていた頃。

 生存者の数がまた一人、また一人と減っていく日々の中、研究者達や技術者達はアポトシスに対抗しうる兵器の製造にやっきになっていた。

 しかし、どの様な最新兵器であろうとアポトシスを滅ぼすには足らず、とある国ではアポトシスが大量発生したという別の国に向けて核を放つ事さえした。

 だが、それでも尚アポトシスを殺し尽くすには足りなかったのだ。

 そもそも、異界からやってくる超常的な存在に対し、物量的に制限のある銃などの兵器は相性が悪すぎた。

 アポトシスの身体は、人類が思っているより遥かに固く、柔軟で、かつ肉体復元能力――治癒力が高かったのだ。

 更に、ただの兵器ではアポトシスの身体を構成しているモノを殺し切れないという事を発見された。

 そこで、学者や研究者達が模索したのが『恒久的かつ効果的な兵器』の製造だ。

 だが、その様なモノが出来れば苦労はしない。


 しかし、とある研究者達が生み出してしまったのだ。

 アポトシスに対抗しうる存在を。

 それはある意味奇跡と言っても良いだろう。



 それが”オルフェ”。

 いや、その前身である名も付けられなかった存在だ。

 それが生まれた理由は一つ。


『毒を以て毒を制す』。

 アポトシスにはアポトシス。


 ひょんなことから入手したアポトシスの細胞――といって良いのかはわからないが――を生身の人間に融合させたのだ。

 だが、適合率は低くかった。

 それと同時に、人道的な問題と数的な問題が上がった。


 ――ただでさえ少なくなっている人間を戦わせたとしたら、尚の事その数が減るのではないか。

 融合したとて、それは人間と呼べるのか。

 人間を殺させない為に生まれたのに、オルフェ(それ)になった人間が先頭によって死んでしまうのは本末転倒である。


 そう上層部から言われた研究者達は、とうとう禁断の手段に出る。

 それは忌むべき行為だ。

 許されざる悪行だ。

 人道に反する悪魔の所業だ。

 人間としての倫理を一切無視した外法だ。



 そう、研究者達は()()()()()にアポトシスの細胞を融合させたのだ。

 それは誰もが考えなかった事だ。

 いや、考えた者もいただろうが、周囲の眼もあって発言できなかった。

 だが、その研究者達は秘密裏に、独自に研究を進めてしまっていたのだ。



 斯くしてそれは上手くいった。

 死体を利用した為死ぬことを気にしなくて済み、更に身体能力等も人間を遥かに超え、兵器の様に壊れず、アポトシス同様の肉体回復能力を持つ化け物が生まれた。

 死んだ人間が死んでも、生者は誰も、何も言わない。

 情報統制をすれば、バレる事もない。

 いや、例え公表したとて『死んだ人間を蘇らせる』技術など、夢物語として馬鹿にされるだけ。

 幸い、一度崩壊した国を支え――いや、操っているのは、自分達の組織だ。

 もみ消そうと思えばもみ消してしまえる。


 それに、死体の入手方法も簡単だった。

 アポトシス襲来によって瓦礫の山となった街から、誰かもわからない程に怪我を負った人間を選んで秘密裏に運び出すだけ。

 アポトシスに食われた、瓦礫に埋もれたと言ってしまえばわからないのだから。

 その為に人々にオルフェとアポトシスとの戦闘映像が流れない様にとシェルターに避難させているのだから。



 そして研究者達は、ギリシャ神話の愛する者を地獄にまで会いにいった英雄オルフェウスから、『死出の旅すら出れない存在』、地獄より生きた儘生還したオルフェウスには到達しえない者として、オルフェウスの最後の二文字を取ってこう名付けた。


 ――”不死出人(オルフェ)”と。


 そうして、彼等は誕生した。




読んで下さり有難うございます!

ブックマーク、評価……まだ三話なので評価も何もないとは思いますが、して頂けたら嬉しいです。


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