第十二話 アポトシス
説明会です。
投稿頻度が低くて申し訳ないです。
能力の使い方を覚えた翌日、再びエリナに起こされたクロガネは、再び研究棟に連れてこられた。
だが、今度は最初に連れてこられた病院の診察室の様な部屋であった。
その部屋には既にクロガネの担当官である三条博士がおり、パソコンの前に座っていたが、エリナが扉を開いた音に反応して顔を上げ、クロガネとエリナに顔を向けた。
「お早う御座います博士」
「やぁ、来たね。……エリナ君有難う」
エリナは笑みを浮かべて「これも仕事ですから」と一言言うと、珍しくクロガネを置いて部屋を退出していった。
エリナが退出したのを見送ると、三条博士は温和な笑みを浮かべる。
「……さて、今日はオルフェとして一番重要な事を教える為に呼ばせて貰ったけど、コーヒーでも飲みながら話そうか」
そう言うと立ち上がり、近くに置いてあったインスタントコーヒーを淹れ、クロガネに差し出した。
「……有難うございます」
受け取ったクロガネはコーヒーを一口飲んでから、三条博士に先を促す様に視線を向けた。
「……うん。じゃ、始めようか。……君達が覚えるべき重要な事。それは【アポトシス】という存在についてだ。アポトシス。……突如異界から現れた侵略者。人類の敵。それが君達が討伐するべき存在だ」
三条博士はパソコンに接続されたマウスを動かし、写真のファイルを幾つか開いた。
そして、一番最後に開いた写真をクリックして拡大する。
その写真に写った被写体に、クロガネは見覚えがあった。
「……これって」
映っていたのは、あの研究所の奥で巨大な試験管の中に浮かんでいたピンク色の肉塊。
確か、ミカヅチ達が【希望】と呼んでいた存在だ。
「うん。君も見たよね。……我々が【希望】と呼ぶ、一番最初の人造アポトシス。……いや、半人造というべきか。……元々は高い再生能力のみを持つ戦闘能力の一切ない非常に特殊な個体に、人の手を加えて生まれた存在で、君達オルフェの親、または半身ともいうべきアポトシスだ。正式名称を【type:ドール】という」
「タイプ、ドール? ……ですか」
「うん。全てのアポトシスにはそう言った名前が付けられる。なんせ様々な姿が複数体存在するからね。個体別の名前なんて意味ないのさ。……という訳で、アポトシスの大まかな分類について説明させて貰うよ」
アポトシスの分類は意外と細かい。
先ずは大きさ。
人と同程度から更に小さい個体を小型、それよりも大きくて二階建て一軒からビル四階程度の大きさを中型、それよりも大きな個体を大型と分類する。
更にはランク。
最低のDからAまで。
場合によってはそれ以上のSにも当て嵌まる場合も存在する。
「そしてアポトシスの分類で最も重要なのが、どういった種類なのかだ。……ただ腕力が強いのか、火を操るのか、それともただ復元能力が高いのか。……それによって【予兆型】、【汎用型】、【特殊型】に分けられる。先ずは予兆型を説明するよ」
そういうと、二枚の写真をクリックし、拡大する。
片方は手の平サイズの――しかし醜悪な姿の――人型生物が、片方には人と同じ程度の大きさの黒い影が映っていたが、
「――っ!!」
黒い影に、クロガネは見覚えがあった。
自分が死ぬことになったあの事件で、自分が気絶する直前に見た、あの黒い影に似ていたからだ。
クロガネの反応に、三条博士は頷く。
「……黒い影の方には見覚えがあるようだね」
「……はい」
クロガネが頷くと、三条博士は黒い影について説明を始める。
「……これが【予兆型】のアポトシスの中で最も出現率の高いアポトシス。……名称は【type:ボダッハ】」
「……ボダッハ、ですか?」
ボダッハという名前を、クロガネは生きていた中で聞いた事がなかった。
ネーミングには何か関係しているのだろうが。
「うん。……”ボダッハ”はスコットランドの伝承に伝わる悪霊の一種だ。老人の姿を取り、悪戯をしたり、悪夢を見せたり、家族に死が迫った際に現れるという。このアポトシスも、そうだ。アポトシスの襲来する場所に現れるけど、それが見えるのは死に近い人間と、既に死んだ”オルフェ”だけ。だが、このアポトシスはそれだけだ。ただ現れるだけで実害はない」
曰く、【予兆型】とはその名の通り、アポトシスが現れる前に現れる”兆候”たる存在であるらしい。
その多くが、戦闘能力が無く、ただ現れたり、阻害したりするだけだという。
「もう一つの写真に写っているのが、【type:ピクシー】。笑い声が厄介なやつでね。常人なら、笑い声を聞いただけで発狂してしまうんだ。……名前は聞いた事があるだろう?」
「あ、はい」
ピクシーという名称ならば、クロガネとて知っている。
RPG等で有名な、悪戯好きの妖精だった筈だ。
「これもまた、【予兆型】の一つだ。……【予兆型】はこの二種を覚えておいてくれ。さて、次は【汎用型】だ」
そう言うと、三条博士は別の写真を画面に映し出す。
画面左側に二足歩行の爬虫類の様なアポトシス、右には犬の様な――昨日訓練でクロガネが倒した人造アポトシスに似ている――アポトシスが映し出された。
「……【汎用型】は最も一般的なアポトシスだ。大なり小なり特殊能力を持っている個体が多いけど、そこまで特殊って訳ではない。左側の奴は【type:リーパー】。腕のところに刃があるだろう。それで人を切り裂く小型アポトシスだ。そして――」
三条博士が右側に映る犬の様なアポトシスを指差す。
「――それが【type:ヘルハウンド】。恐らく、君の身体をあんな風にした原因でもある。……此奴等は人を襲って食い散らかす、出現頻度や数の多い小型アポトシスの中でも随一厄介な奴だ。基本的に良く出現するアポトシスが、この【汎用型】に該当する。その中でこの二種が一番多いから、覚えておいてくれ。……ここまで大丈夫かい?」
「……何とか」
実際には大雑把な説明しか覚えていないが、クロガネは少し躊躇って頷いた。
覚えるべき新単語が多すぎるのだが、三条博士は此方が困っている事を気にしている様子はない。
研究者というのは誰もがそうなのだろうか?
いや、あくまでもドラマやゲーム等からのイメージであるのだが。
「で、後は【特殊型】だね。……他の【予兆型】や【汎用型】に比べて出現数は低い分、特殊な能力を持っていたりする場合が多い。【希望】も、分類するならばこれに該当する」
そこまで話し終えて、三条博士はふぅ、と息を吐く。
そして手元のコーヒーを一口飲んで顔を顰めた。
「……温いなぁ。冷めてしまったね。……それ程時間は経ってない筈だけれど」
気付けば、クロガネの手元のコーヒーも冷めてしまった様だった。
クロガネも冷めてしまったコーヒーを飲む。
「……ゴクッ。……本当ですね」
苦笑いを浮かべるクロガネに、笑みを返した三条博士が話し出す。
「……本来君達が覚えておくべき事は『アポトシスは倒す』って事だけだ。……でも、アポトシスの知識を得れば、その分君達自身が死ぬ可能性を低く出来る。覚える事が多いだろうけど、必要な事だと思ってくれ」
「はい」
「……さ、午後からは君と同じ班になる者達との顔合わせだ。でも、何時アポトシスが襲来するかわからない。……心の準備はしておいてくれ」
「……わかりました」
真面目な顔で言い聞かせる三条博士に、クロガネもまた真面目な表情で返す。
三条博士の言葉に、何となく不吉な予感がしたからだ。