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第十一話 ”変化”の力

 軽く全身を確かめる様に身体を動かしてみて、クロガネが最初に感じたのは、異常な程の身体の軽さだった。

 例えで良くある『翼が生えた様』という表現がぴったりだろう。

 恐らく、走ろうと思えばプロの短距離ランナーにすら勝てるのではないだろうか。

 そんな速度で、クロガネは人造アポトシスに肉薄し、


「――はぁっ!!」


 ゲームやアニメの真似をして、掛け声と共に思い切り振りぬいた。


「――――――――」


 クロガネの振りぬいた刃は人造アポトシスの内一体に吸い込まれる様にして、その身体をまるでバターを切る様に寸分違わず()()した。

 真っ二つに切り裂かれた人造アポトシスは、倒れながら言葉にならない悲鳴を上げ、影の如く消えて行く。


「「「――っ!」」」


 三条博士達がそれに驚きの表情を浮かべるが、クロガネの視界には入らなかった。

 近くにいた人造アポトシスが、剣を振りぬいた儘驚きの表情で固まっているクロガネに襲い掛かって来たのだ。


「――くそっ!!」


 クロガネは人造アポトシスから離れる様にして転がり、直ぐに立ち上がって剣を構える。

 残る人造アポトシスは三体。

 どれもがクロガネの方を向き、警戒している様な動きを取る。




 不思議な感覚だった。

 勿論、クロガネは剣を振った事などある訳が無い。

 幼い頃、チャンバラを友人とやっていた位だろう。

 だが、姫金神(この剣)を握った瞬間、どう動けば良いのかをこの剣が教えてくれている様な気がした。

 どの様な原理でそうなっているのかは知らないが、恐らくオルフェとなった者が短期間で戦えるのもこれが理由だろう。

 この”葬装(そうそう)”と呼ばれている武器の事は博士達からの説明も簡単なものでしかなく、詳しくは知らないが、確かにこれならば通常の兵器では倒せなかったアポトシスを倒せるだろうと確信した。

 事実、クロガネは余り動きが無かったとは言え、アポトシスを真っ二つに両断したのだ。

 クロガネは知らないが、幾ら訓練用に調整された人造アポトシスとはいえ、再生能力や頑丈さは並みのアポトシスと同じ程度なのだ。

 それを両断する事は、オルフェであっても不可能では無いが難しい。


 しかしながら、博士が教えてくれたオルフェと葬装の能力が使えているという自覚は、クロガネには余り無かった。

 オルフェの常識を知らないからこそであるが、クロガネは自覚の無い儘能力を使用していた。

 だが一方で、三条博士は”姫金神”の能力の説明を”変化”と言った。

 文字通りで意味を解釈するならば、剣から姿を変える事が出来るという事だろう。

 だが、剣は変形していない。

 そんな事を考えていたからだろう。


「――クロガネ君!」


 エリカの叫び声が聞こえてきた時には、目の前にアポトシスが迫って来ていた。


「――っ!」


 アポトシスの攻撃は、ただの純粋なタックルだ。

 訓練用に調整されている個体なので、再生能力や頑丈さは同程度であるが、攻撃力は余り無い。

 その為、オルフェの頑丈な身体であるならばある程度の衝撃で済むのである。

 恐らく、骨折や打撲。

 酷くても腕が千切れる()()だろう。

 オルフェならば”軽傷”の範囲である。

 だが、クロガネはそれを知らない。

 クロガネは咄嗟に剣を盾にする様に目の前で構え、願う。


(頼む! 防いでくれ!)


 そんな願いが届いたのだろう。

 ”姫金神”はまるでスライムかアメーバの様な不定形に変化すると、その形を変えて丸い形を――盾の姿を取り、


 ガキン!!


 甲高い音を立てて防いだ。

 しかし勢いまでは殺す事が出来ず、大きく吹き飛ばされて転がる。

 立ち上がった時には”姫金神”は盾の姿から元の剣の姿に戻っていた。

 ”変化”にはどうやら脳内でイメージする事が重要らしい。

 そしてそれを葬装に投影するだけだ。

 一度やってしまえば、後は簡単だった。


「――ってことはっ!」


 剣を突き出す様に前に向け、イメージする。

 すると、剣は穂先から八つ程に割れると、質量を無視して触手の様に人造アポトシスの内の一体に向かっていき、それを絡めとる。

 クロガネの思い通りに動いていた。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」


 クロガネは剣を人造アポトシスを掴んだ儘横凪ぐと、横にいたアポトシスにぶつけた。


「――!?」


「――――」


 ぶつかり合って倒れる二体の人造アポトシスを無視し、クロガネは残る一体に接近し、その勢いの儘切り裂いた。


「――!!」


 今度もまた、”姫金神”の刃がアポトシスを切断し、影の如く消滅させた。

 だが、クロガネの行動はそれで終わらない。

 まるで試す様に二つに分けた剣先を、まるで槍の様に鋭くして起き上がったばかりの先程の二体に向けて射出する。

 その剣先は見事アポトシスの額に突き刺すと、次の瞬間には内側から突き破る様にして針の様な細さの剣がアポトシスの身体を串刺しにした。

 霧散するアポトシス。

 クロガネが剣を払うと、触手の様にうねうねと形を変え、剣の姿に戻る。


「……凄いな」


 思わずそう呟いて、クロガネは”姫金神”を見下ろした。

 使い勝手としては最高だ。

 質量を無視し、変幻自在に形を変える事が出来る能力。

 派手さはなく、特殊さも無いが、とてつもなく汎用性が高い。


「お疲れ様」


 自身の相棒となった葬装をただジッと見ていたクロガネに、三条博士が声を掛ける。


「ふむ。……葬装の能力の内容は知っていたが、こうして実際に見てみると確かに万能型だな」


「ですね。……戦略的な幅は広そうです」


 エリナも四条博士も感心した様に頷いていた。


「……すいません。此奴の能力は引き出せましたけど、俺自身の能力は――「いや、大丈夫だよ」」


 クロガネの言葉を遮って、三条博士が好奇心を内包した笑みを浮かべてクロガネの肩に手を置いた。


「……君の能力は分かった。正式な名前は何れ決めるだろうけれど、恐らく君の能力は”アポトシスを任意で消失・または分解する力”ってところかな。時々いるけど、無意識に発動するタイプらしいね」


 三条博士の推測に、クロガネはただ曖昧に頷くしかない。

 自分でも良くわかっていないが、どうやら能力を使えていたらしい、という事だけは理解した。


「うん。良いデータが取れた。有難う。……四条博士としてはどうです?」


「問題ないさ。君の担当だ。……私の推測とも一致する。恐らく”物質の消失”、またはそれに近い能力である事は確かだろうね」


「……そうなんですか?」


 クロガネとしては、ただ戦っただけだ。

 これが異常であるとは思っていなかったので、何処か拍子抜けであった。


「あぁ。……アポトシスは個体によって頑丈さは違うけど、この人造アポトシスは倒しても消失する事が無いタイプだからな」


 四条博士曰く、アポトシスには二種類いるのだそうだ。

 一つは『倒した際に肉体もまた消滅し、痕跡が残らない』タイプ。

 もう一方が『倒しても肉体が残る』タイプ。

 研究所で解析・分析されているアポトシスの全てが後者に該当する。

 だが、クロガネは後者のタイプであっても、消滅させる事が出来る。

 アポトシスの再生能力を、クロガネの持つ能力が上回っている為だ。


「……急に覚醒して精神的に疲れただろう。君達オルフェは死んでるから身体的疲れは無いけど、精神的な疲れはどうしても感じるからね。……アポトシスについての講座と、チームの顔合わせは明日にするから、今日はゆっくりと休んでくれ。……あ、外にはなるべく出ないようにね?」


 三条博士の言葉に頷くと、クロガネはエリナと共に部屋を辞した。

 自室に戻ったクロガネは、覚醒した影響かベッドに横になると夕食の時間になってエリナが声を掛けに来てくれるまで気絶するかの様に眠った。




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