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邂逅2


ハイジの意味不明な行動。アリスは困惑し、止めに入ろうとするが、先に声を出したのは金髪の男であった。


「おいおい、俺たちなにもしてねえだろ!」


ハイジは薄ら笑を浮かべたまま襟足をかいた。


「んー、何でもいいんだよ。じゃあ、せっかくの景観ぶち壊し罪で」


「は? 舐めんな警官風情が、権力を振りかざす政府の犬が!」


そう言って暴れると水の入ったグラスが落下して割れた。

カフェの客や従業員が一斉にどよめき立つ。


ハイジは何一つ動揺することなく比較的大きなガラス片を二つ拾い上げて、打楽器のように打ち鳴らす。ガラス独特の耳につく高い音が一定のリズムで店内を駆け巡る。


「あ、上手いねー。景観と警官をかけたのかな?」


そう言いながら、ガラスのぶつかり合う音は絶え間なく響いていた。やがてアリスの頭蓋の中に乱反射するかのように、その音だけがやけに独立したものに聞こえた。


「僕は透明なガラスが好きだよ。包み隠すことが出来ないからね、まるでほら剥き出しの心みたいだよね」


気づけば、いきり立っていた男も静かになり、ハイジの奏でる音に耳を傾けていた。

耳障りな音なのにやけに心地よい。その正体が分からぬままアリスもハイジの口上に呑み込まれていく。


「そう。剥き出しの心みたいだ。今君が抱えている秘密。ガラスのように透明な心で僕に見せてくれないかな?」


「……分かった」男は比較的落ち着いた声でそう言った。


「もう一人の君も、一緒にいいかな?」


線の細い男も頷く。


「ありがとう。性善説を強く信じたくなるくらい優しいね君たちは。じゃあさ、先に外で待っていてくれる?」


「ああ」


そういって男二人は店の外に出ていった。

ガラス片は相変わらず一定のリズムで耳障りな音を出している。それが心臓の鼓動とほぼ同じリズムなのにアリスは気付いた。

ふと、ハイジがアリスのふくらはぎを軽く蹴った。

我に帰り辺りを見回すと、魂を抜き取られたような表情をしている人々がいた。


「皆も騒がせてごめんね」ハイジはよく通る声で店内の人々に言った。


「なに、些細な事なんだよ。いつも通りの風景、いつも通りの場所。一緒にいる人ともいつも通りの日常を過している。一人の人もいつも通りのルーティンで今日ここにいる。もしかしたら初めて来た人もいるかもしれない。そんな所に水をさすような事をして申し訳ない――」


微かなもの音一つ立たないこの空間が異様であった。


「――だから、皆はこの出来事を忘れるべきだ。こんな事で君は君の時間を無駄にするべきじゃあないんだよ。不思議なミステリー小説の続きを読めばいい。恋人と愛をささやき合えばいい。見えない先の人生に不安になればいい。下らない笑い話で騒げばいい。それらは一見非生産的に見えて、全て本当に価値のある時間だからね。君たちの一日が素晴らしくハッピーであるよう、心から祈りながら僕はこのガラス片を叩き割って始まりの鐘を鳴らしてみせよう」


そう言ってハイジはガラス片二枚を振り上げて地面に叩きつけた。

パンと弾ける音がした。


すると、店内にざわめきが蘇る。まるで今この時間をそのまま無かったことにしたようにスムーズに、皆は日常に帰っていった。


アリスだけが取り残された。


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